編注)本記事では、ゲームやSNS 依存を含んだインターネット依存症の総称を“ネット依存”と表記しています。
ネット依存の現況
ーーネットやゲーム依存を予防する条例が施行されてから、ネット依存を取り巻く状況に変化はありましたか?
樋口先生 香川県が2020年、豊明市は2025年にネットやゲーム依存を予防する条例(※2)をつくりました。条例は当時で言うコンピュータゲームの時間制限を提唱しており、それを受けて当時の学生が憲法違反だと裁判所に訴えました。結果は判決が出る前に訴訟を起こした人が雲隠れしてしまい、県が勝訴しています。
豊明市の条例にも香川県のものにも罰則規定はないので、注意喚起の一環ととらえ、今後どうなっていくのか、有効性を評価していき議論していくことが肝心です。これらをきっかけに家庭の中でのスマホやネットの使用にルールを設ける家庭が飛躍的に増えたそうです。そのあたりは条例の成果といえるでしょう。

ーー具体的にどのくらいの使用時間が適正なのでしょうか?
樋口先生 スマホの適切な使用時間は、東北大学研究グループが学力とスマホの使用時間の関係を調査した「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」(※3)によると、1時間以上使用すると、「言語性のIQに影響が出る」、「脳が大きくならない」というようなデメリットがあるという結果が出ています。
それを考えると、脳が発達している子どもの時期には、スマホは1時間までにとどめておくのがよさそうです。香川県や豊明市のように、行政がネット依存を重くみて、制限時間を示したことはとても大事なことでしょう。
2026年2月16日に読売新聞が当センターの調査結果を受け記事(※4)にしていましたが、若者のSNS依存は深刻で、10~20歳代の6%が「病的使用」の疑いがあり、そのうち3割が使い方を巡り「家族に暴言や暴力」をふるうと書かれていました。それは0~1%台だった他の各年代より高い数値として表れ、若年層でSNS依存が深刻化しつつある実態が浮き彫りとなっています。
日本初のインターネット依存外来を立ち上げた
ーーなぜ「ネット依存外来」を立ちあげることになったのですか?
樋口先生 2011年に「ネット依存外来」を設立するきっかけは、2008年にたまたまインターネット依存について調査したところ、かなりの数の人がインターネットにはまっており、それによる生活破綻が社会問題化していることに気づいたからです。当時はそういった方を診ている医療機関はありませんでした。それでネット依存外来を立ちあげることにしました。
久里浜医療センターで2011年にインターネット依存の外来を立ちあげたときには、9割以上がオンラインのゲームへの依存でした。当時使っていたデバイスはゲーム機かPCでしたが、今はスマホが圧倒的に多くなっています。
子どもたちも、昔はゲームしかやっていなかったけれど、今は同時にSNSや動画を見ており、使っているアプリは増えています。また最近の依存は若年化が進んでいるのが問題です。2016年には小学校以下の子どもたちは0でしたが、 今は5人に1人は小学生以下となっています。
ネット依存を診てくれる医療機関を受診する最も大きな理由は、スマホ使用時間が過剰になり、親が制限をかけると大暴れすることからです。小学生といっても体も大きいし、本気になって暴れてしまうと警察が来ることも多く、保護者では手の打ちようがなくなるのです。
生きづらさのおおもとを治療することも大切
ーーネット依存に陥りやすい子どもの特徴はあるのでしょうか?
樋口先生 ネット依存に陥る子どもには、根っこに心の問題を持っていることが多いです。また、発達障害等と合併する場合も多く、発達障害の傾向があるけれど診断できない人も含め、外来に来る方の6割から7割になるのではないでしょうか。
発達障害の子どもたちは依存症になると重症化しやすく改善しにくい。それは発達障害の中の一つの特徴でもありますが、過集中をして、のめりこんでしまうというケースが多くみられるからです。

一方で児童精神科にかかる子どもたちも実はネット依存になっていることが多く、背後に同じ問題があります。発達障害と依存の問題は両方見ていかないと改善には至らないので、保護者にもそういった知識はあったほうがいいと思いますね。
ーーネット依存外来ではどんなことをするのでしょうか?
樋口先生 外来では、ネットの時間を減らすことにこだわるより、現実の生活を改善することを心がけるようにお伝えします。不登校気味でうちにいて、有り余る時間にスマホなどを過剰使用してしまうパターンも多くみられます。
また、現実の問題からスマホに逃げ込んでしまう子どもが多いです。保護者は、過剰使用さえよくなれば普通の生活ができると思いがちですが、背景にある子どもの生きづらさを何とかしないといけないということを理解してもらいたいですね。
依存する対象を性差で考えると、ゲームは男子が多く、その理由はゲームはまず男性の嗜好に合っているのだと思います。また、依存性の高いゲーム、例えば対戦型やアクション系のゲームを好む傾向があるからでしょう。女の子が好むのはパズルや育成系、音楽系のゲームですが、そちらは依存性が低くなります。一方、SNS依存は女子の方が多くなります。どちらも10代が圧倒的に多いので、対策は、日本でも検討していくべきでしょう。

SNSを制限する法律を制定したオーストラリア(※5)では、企業への罰則もしっかりあって、10代には登録をさせないようなシステムにしています。
アメリカのフロリダ州、イギリス、スペイン、インドネシア、デンマークなどの国や地域がSNSを規制するディスカッションを始めていますが、日本では子ども家庭庁で議論が始まったばかりです。世界各地でSNSのプラットホームである企業に厳しい目が向いている現状です。私たちも目を光らせる必要があります。
家庭でできるネット依存の対策
ーー子どものネット依存に困っている家庭がまずやることは何でしょうか?
樋口先生 スマホの使用時間は、学校に行くと自動的に減ります。不登校になっている場合は、スマホを見る以外の活動をどう増やすかを考えます。ほとんどの子どもたちは、学校にいかない、勉強しないことに対してよくないと思っているのは事実です。まずは、お子さんと2人で話をして、少しずつスマホ以外の活動を増やすようにしてはいかがでしょうか。
ネット依存は、本人が問題を認識して、少しでも改善していく行動を起こすことが大前提で、いきなり使用に制限をかけてもうまくいきません。制限をかけると子どもたちは暴れ、親子の関係も悪くなり、部屋にこもるようになります。外来では、本人がこの先どうなっていきたいのかを聞いて、一緒に変えていくことを考え、話し合って支援していきます。
それは保護者も治療の対象で、子どもには心理のカウンセリング、保護者にはソーシャルワーカーが相談に乗ります。

ーー久里浜医療センターでは、経験者の話を聞くこともできると聞きました。
樋口先生 依存から回復した経験者の話を聞くことは当事者にはとても効果があるので、久里浜医療センターでは、子どもたちに先輩に話をしてもらうイベントを主催しています。聞くことで自分も変わっていこうと努力するようになります。
また、久里浜医療センター以外でも医療機関でそういった機会を提供しているところはあるので聞いてみるとよいでしょう。
日本のネット依存外来機関は増加
ーーネット依存の治療医療機関は、現在国内に約250カ所もあるそうですね
樋口先生 私は今までいろいろな依存症を診ていますが、その中でもゲームやSNSネット依存は治療に時間がかかります。でもネット依存を専門とした医療機関がこんなに多い国は日本だけなんです。ちなみにイギリスは1カ所しかなく、医療の提供は群を抜いています。
当センターで専門外来を始めた理由は、治療を必要としている患者さんが多いということですが、ここ以外でも、需要があるからそれに応えたいと専門外来を始めている医療機関は多いと思います。このことは、世界に誇ってもいいと思うんですよね。
家庭でできる予防策
ーースマホ依存にしないため、時間以外に気を付けたいことはありますか?
樋口先生 時間制限も大切ですが、あまりこまかく決めてしまうと守れないので大雑把に決めましょう。例えば、終了時間だけ決める程度にして、それ以外は、5分や10分すぎても目くじらを立てないようにしましょう。
時間以外にも大切なことはあらかじめきちんとルールをつくっておくことをおすすめします。
子どもをネット依存させない決まり事例
●場所
最低限守ってほしいのが、ベッドに持ち込まないこと。起きている間はスマホと一緒なので寝るときはそばに置かないようにする。
●お金について
ゲームの課金、推し活の投げ銭等などについても、事前に話すことが大事。お金をリアルには見ないから、お金を使っている感覚がなくなり、つい使いすぎてしまう。
●写真について
写真の扱いはかなり注意が必要。写真は家族とだけ共有すること、体のパーツは写真を撮らないことなど、買い与えるときに話をすること。
●保護者について
保護者も同じようにルールを守り、子どもが守れるように、保護者もこの時間は使わないなど、足並みをそろえるのが大事なこと。
樋口先生 大切なのが、親子の間で相談できる土壌をつくること。スマホなどのデバイスを与えるときに、最初にルールをつくることです。ルールをつくる際は、親が一方的に押し付けると反発して聞かないので、子どもたちの言うことに耳を傾け、妥協点を見つけることが大切ですね。
保護者は、子どもたちが何をやっていて、何が楽しいのか、情報を知っていることも大切です。本人に「どんなところが楽しいのか、素直に知りたい」と聞いてみましょう。一緒にゲームをして、子どもの世界を体験してみることもよいでしょう。

制限を厳しくするとうまくいかないので制限を緩める、または撤廃しましょうとご家族によく言うのですが、そうすると保護者は「野放図にやるから心配」とおっしゃることがあります。しかし、制限を外しても現状は変わらない。バトルがなくなり、平穏な親子関係に戻ると疎通が取れてくるようになるのです。うまくいっているケースの家庭では、途中で制限を緩めるまたはやめていくことが多いですね。
そして、ネットは便利だけれども相手を傷つけることをしっかり理解させましょう。また、自分や他人のプライバシーを守ることもとても重要なこと。これらは依存していない子どもにも関わることなので、全ての人に注意が必要です。
特にSNSは依存に関係なく問題が起こります。トラブルの種類が多すぎるし、いつ加害者になるかわかりません。だから最初のルール決めがとても大切になるのです。その話し合いを理解できない年齢の子には、まだ与えないという選択をすることも大切ですね。
【参考サイト】
※1
https://www.city.toyoake.lg.jp/22107.htm
※2
https://www.asahi.com/articles/ASQ8Z63JDQ8ZPTIL00F.html
※3
https://www.sairct.idac.tohoku.ac.jp/lecturer/media/904/
※4
https://www.yomiuri.co.jp/national/20260215-GYT1T00435/
※5
https://globe.asahi.com/article/16167399
https://www.bbc.com/japanese/articles/cdrnz08y4k6o
【病気との境界は?】
病的な状態を示す「依存」は、さまざまな対象に生じます。
スマホ依存の問題は、「スマホを使ってすること」への依存ととらえられます。ゲームであったり、SNSであったり、オンラインカジノを含めたギャンブルであったりと、していることは人それぞれです。
WHO(世界保健機関)は、ゲームへの依存を「ゲーム行動症」という病気として認定し、最新の国際疾病分類(ICD─11)に収載しています。ギャンブルに関しても「ギャンブル行動症」として、正式な病気と認められています。
スマホの利用は、こうした病的な状態の入り口になることもありますが、なにかひとつに特定しにくい、いくつもの「していること」が重なり、スマホ依存と表現するしかないような状態になっている人もいます。
本書では、だれもが陥りやすいものだからこそ知っておきたい、スマホ依存の実態と予防のしかた、抜け出し方を解説します。
お話を伺ったのは
慶應義塾大学医学部客員教授 藤田医科大学医学部客員教授
専門はネット依存やアルコール依存、ギャンブル依存などの予防・治療・研究。2011年、久里浜医療センターに国内初のネット依存専門外来を設立。WHOの国際疾病分類ICD-11の「ゲーム障害」診断ガイドラインの作成に研究協力。主な著書に『ネット依存症』(PHP研究所)や『アルコール依存症から抜け出す本』(監修、講談社)などがある。
取材・文/原佐知子