「ち」が「き」になってしまう…大人になっても消えない発音の悩み「機能性構音障害」を知っていますか?【言語聴覚士・奈々先生に聞いた】

連載でおなじみの言語聴覚士・寺田奈々さんが、視聴者からのお悩みを解決するバラエティ『探偵!ナイトスクープ』に出演。小学校5年生の女の子の「き」が発音できないお悩みを、的確な原因の指摘と鮮やかなスキルで即座に解決!各方面から大きな反響があったそうです。奈々先生によれば、実は、今回の女の子のような発音不全のお悩みの「機能性構音障害」を抱えている大人は多くいるとのこと。ともすれば、心ないからかいの対象にもなりかねず、正しい理解が広まることが望まれます。

『探偵!ナイトスクープ』に出演した際の記念写真。相談者の「チ」が言えなかった女の子(左から2番目)は、奈々先生(右端)の指導で、無事に大好きな「ファミチキ」を自分で注文できるようになりました。

「言えない音」の悩みを持つ小学生は、学年に1~2人はいます

「歯並びや口の形のせいだと思って、完全にあきらめてた」「なるべく人前でしゃべらないようにして、言えない音のつく言葉をずっと言い換えてきた」——こんな打ち明け話をしてくれる大人の方が、実はとても多いのをご存じでしょうか。

「さ行がうまく言えない」「ら行がはっきりしない」「電話で名前を何度も聞き返される」。こうした発音の悩みは、本人にとって深刻でも、周りからは大した悩みじゃないと軽く扱われがちです。

悩みを説明しようとしても、「『ち』が『き』になってしまう」と言っても発音できないので、相手には「きがきになってしまう」のような同じ音に聞こえてしまい、「何が違うのかわからない」と返されてしまう。自分でもうまく説明できないから、誰にも相談できないまま今日まで来てしまった——そんな方がたくさんいらっしゃいます。

実は、小学校の通常クラスの中には、学年に1〜2人ほど「言語通級(ことばの教室)」に通う子どもがいます。発達支援センターや病院で未就学の段階から練習を始める子を含めると、児童の1〜5%ほどに発音の練習が必要なケースがあることが見込まれます。

ところが、こうした支援につながれないまま大人になってしまう方が、実はとても多いのです。

特定の音が正しく発音できない。それ、「機能性構音障害」かもしれません

特定の音が正しく発音できない状態には、「機能性構音障害(きのうせいこうおんしょうがい)」という名前があります。病気や事故、先天的な問題がないにもかかわらず、舌の動きのくせが固定化し、特定の音が出せない状態です。

発音は平均的に6歳ごろに完成するとされていますが、それ以降も特定の音が言えないまま定着してしまうことがあります。

問題は、この名前自体がほとんど知られていないこと。名前を知らなければ検索もできず、当事者どうしがつながることも難しいです。滑舌の悩みは「自力で何とかできそう」にも見えるため、専門家への相談という発想が生まれにくいのです。

「キ族」として広まりつつある「側音化構音」。正しい理解の広まりを

最近、SNSやネット上で「キ族」という言葉が広まっています。これは、「き」の音が独特の響きに聞こえる機能性構音障害の一種である、「側音化構音(そくおんかこうおん)」という状態を持つ人たちを指す俗称です。舌の真ん中を通るはずの息が横から漏れてしまうことで音が歪み、特定の音だけ少し違う、きしんだり濁ったり、唾がたまったような響きになります。

当事者の中には、苦手な音を周囲に気づかれないように、こっそり避けてお話しされる人もいます。「聞こえる」を「音がする」に、「危険」を「危ない」に言い換えることが、長年の習慣になってしまったという方もいます。それほど日常の中で深く悩んでいるのです。

「キ族」という言葉が広まることで、「自分の滑舌、何かが違うとずっと感じていたけど正体がわからなかった」という方が自分の状態を知るきっかけになるのは良いことです。

一方で気をつけたいのは、こうした発音の違いを面白おかしく取り上げたり、からかいの対象にすることです。話し方はその人の個性・その人らしさのひとつであり、外見と同じく尊重されるべきものです。本人が気にしておらず、不便なく生活を送れているならば、周りがとやかく言う必要はありません。ましてや、からかったり、いじめの対象とするのは、絶対にしてはならないことです。

コミュニケーションの困りごとは、相手によって変わります

発音の悩みのもうひとつの特徴が、「相手によって伝わりやすさがまったく違う」という点です。仲の良い家族や友人とはスムーズに話せても、初対面の人や電話では途端に聞き取ってもらえなくなることがあります。接客やプレゼン、大切な場での自己紹介など、ことばをしっかり届けなければならない場面でこそ、困りごとが表れます。

言語・コミュニケーションのしやすさ・しにくさは、話す側だけの問題ではありません。聞き手が「わかろうとする力」や「その状態を知っていること」によっても、大きく変わります。だからこそ、こうした状態があることを多くの人に知ってもらうことが大切なのです。

「機能性構音障害」は大人になってからも改善できる可能性があります!

言語聴覚士のもとでトレーニングを続けることで、大人になってからでも発音は改善できる可能性があります。

お子さんの場合には発達を待つ必要があるケースもありますが、5~6歳ごろから練習を開始することができます。お子さんの滑舌不明瞭の場合にも、練習すると改善することを保護者や周囲があまり知らないというケースがよくあります。矯正すべきかどうかは他者が強いるものではありませんが、「選択肢があること」が、まずは知られてほしいと思います。

教えてくれたのは

寺田奈々 言語聴覚士

慶應義塾大学文学部卒。養成課程で言語聴覚士免許を取得。総合病院、耳鼻科クリニック、専門学校、区立障害者福祉センターなどに勤務ののち独立し「ことばの相談室ことり」を設立。現在、東京都台東区と熊本市中央区に店舗を構える。年間100症例以上のことばの相談・支援に携わる。臨床のかたわら、「おうち療育」を合言葉に「コトリドリル」シリーズを製作・販売。専門は、子どものことばの発達全般、吃音、発音指導、学習面のサポート、大人の発音矯正。著書に、『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)、『発達障害&グレーゾーン幼児のことばを引き出す遊び53』(誠文堂新光社)がある。

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