滑舌が悪い6歳の娘。お友達の名前を呼んでも「ちがう!」と言われてしまい…【言語聴覚士・奈々先生の子どものことば相談室】

「うちの子、ことばの発達がゆっくりなのでは?……」など、子育てをしていると、幼児期、学齢期と様々な段階で、ことばの発達の不安に悩まされるものです。編集部に寄せられたお悩みに、多くの親子の「ことばを育むお手伝い」をされている、言語聴覚士の寺田奈々先生がアドバイス。

活舌が悪い6歳の娘。お友達との関係や学習面で支障がありそうで心配です

小学校一年生の娘です。活舌が悪いのか、きちんと発音できない言葉があります。具体的には、「か、く、こ→た、つ、と」になる傾向があります。「がっこう」が「だっとう」、「さかな」が「さたな」となります。 お友達の名前を呼んでも「ちがう!」と言われたそうです。今後、国語の授業で音読も始まることもあり、学習にも支障がでるのでは、と気になっています。どのようなところに相談に行けばいいのでしょうか?

子ども専門の言語聴覚士はまだまだ少数。「きこえとことばの教室」をさがしてみてください

お子さんの発音・滑舌は、おおよそ5〜6歳前後の時期に完成を迎えます。「就学までに日本語に含まれる音がすべて言える」を目安とし、年長さんの夏休みを過ぎた頃にまだ頃に言えない音がある場合は、言語聴覚士や学校の通級学級「きこえとことばの教室」などの指導を受けられることが望ましいです。

子どもの療育の場で活動する言語聴覚士の数は少ないのが現状です。言語聴覚士の指導を受けたい場合は、次の3つの場所にあたってみてください。

①市区町村の児童発達支援センター
②発達外来がある小児科などの医療機関
③言語聴覚士の養成校や養成大学が開いていることばの教室

市区町村のホームページなどで小さく案内を出していることもあると思うので、ぜひ調べてみてください。

子どもによくある発音の誤りの4パターン

ここでは、お子さんのよくある発音の誤り4つをご紹介します。

①カ行・ガ行

お子さんの発音の誤りに多いのが、「か」「く」「こ」が「た」「つ」「と」、「が」「ぐ」「ご」が「だ」「づ」「ど」となる、カ行ガ行のニガテです。

「がっこう」が「う」、「さかな」が「さな」、文では「ほいつえんの さたなつりゲームだ とわれたんだよ!(保育園の魚釣りゲームが壊れたんだよ!)」のようになります。聞き手は、お子さんの伝えたいことを推測するのに少し苦労するかもしれません。

 

そのほかのパタンでは、「き」「け」が「ち」「ちぇ」、「ぎ」「げ」が「じ」「じぇ」となるもので、「ちょう、ちぇーちかってちてね!(今日、ケーキ買ってきてね!)」のようになります。こちらは、お子さんの幼いかわいらしさとして、見過ごされてしまいがちかもしれません。

カ行・ガ行の発音は、9割のお子さんが4歳頃までに獲得すると言われています。お喋りの明瞭度(伝わりやすさ)にも大きく影響するため、練習が必要かどうか見極めることが大切です。

カ行・ガ行は舌(した)の後方を持ち上げ、軟口蓋(なんこうがい)に付け・離しすることで発音します。ちょうど、”がらがらうがい”をするときの位置に近いです。練習は、お口を開けたまま舌の奥だけ持ち上げることからはじめます。口を大きく開けた状態で「んー」と声を出し、舌の奥が挙がっていれば、そこから「が」を誘導することができます。詳しい方法はぜひ専門家にご相談ください。

②サ行・ザ行・ツ

カ行・ガ行と同様に多いのが、サ行・ザ行・「ツ」がニガテというケースです。

「うさぎ」が「うしゃぎ」や「うたぎ」に、「ドーナツ」が「どーなちゅ」となります。

文では「ちゃっき、じょうちゃんぐみの りちゃちぇんちぇいと ちゃようならちた(さっき、ゾウさん組のりさ先生とさようならした)」のようなお喋りとなります。よくあるお子さんの舌足らずなお喋りなので、4歳以下ではまだ心配する必要はありません。

サ行・ザ行・「ツ」を9割のお子さんが獲得する目安は5歳頃。サ行の音は舌全体の力を抜き舌先を柔らかく使う必要があり、カ行に比べても少し難しい音なんですね。言語聴覚士との練習は、舌の力を抜いて平らな舌を作ることからはじめます。

③「ち」「し」「じ」「き」など、イ列の音

発音の誤りのなかでやや珍しいものに、「ち」「し」「じ」「き」などイ列の音がニガテ、というケースがあります。

側音化構音(そくおんかこうおん)と呼ばれ、「ち」や「き」に、空気を含んだ歪み・唾(つば)が混じったひずみが起こります。「1(いち)」と「7(しち)」、などの言い分けが難しく、聞き取りづらくなります。

イ列の音を話すときに舌が左右のどちらかにズレて動くために音がひずんでしまう、という舌の動きのクセから生じているものです。自然な修正が難しく、大人になってからもそのまま残ることが多いです。練習にはやや根気が必要ですが、そのほかの発音のニガテと同様、小学校高学年〜大人になってからでも練習による改善が可能です。

なお、側音化構音があってもコミュニケーションは取れるので特に生活上困ることは無いという人・お子さんも多く、その場合には練習を強制するものではありません。

4歳を過ぎて、活舌・発音がきになっているなら、耳のきこえの検査もしましょう

お子さんの滑舌・発音の悪さが、聴力の低下から起こっていることがあります。かかりつけの耳鼻科、小児専門の耳鼻科や大学病院で「きこえの検査」を実施し確認しておきましょう。また、口腔内の形態異常などが無いかも、併せて確認してもらうとよいでしょう。

滑舌・発音の獲得は発達に伴い少しずつ進んでいきます。4歳以前のお子さんのカ行やサ行が気になっても、発達途上の誤りなのでまだ練習の適応にはなりません。発音だけでなくお喋りそのものもまだまだ獲得途上。大人の方には、「まちがいを指摘せず、正しい音を耳から聞かせる」対応をお願いできればと思います。

 

こちらの記事では寺田先生に「子どものことばの育み方」を伺っています

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寺田奈々|言語聴覚士
慶應義塾大学文学部卒。養成課程で言語聴覚士免許を取得。総合病院、プライベートのクリニック、専門学校、区立障害者福祉センターなどに勤務。年間100症例以上のことばの相談・支援に携わる。臨床のかたわら、「おうち療育」を合言葉に「コトリドリル」シリーズを製作・販売。専門は、子どものことばの発達全般、吃音、発音指導、学習面のサポート、失語症、大人の発音矯正。最新の著書に、『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)がある。

イラスト/べっこうあめアマミ(https://twitter.com/ariorihaberi_im

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