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見過ごしがちな「五月病」(ごがつびょう)
「五月病」(ごがつびょう)は医学用語ではありません。4月に進学や進級、生活の変化など大きな環境変化を経験した人が、新年度や新生活が始まってから1か月ほど経った頃に起こりやすい心身の不調のことが、一般的に五月病と呼ばれています。
気づかないうちに無理をしてしまっていたり、疲れがたまっていたり、新しい環境に適応できていないこともあります。5月になる頃に、身体のだるさ、疲れやすさ、意欲がわかない、よく眠れない、食欲がない、イライラする…などの心身の症状が気になったら身体と向き合ってみてください。
漢方ってなあに?「日本の生活の知恵」
――中学生の頃に漢方に魅了され漢方の研究を続けている薬剤師の黒田真理子さんに、お話をうかがいました。漢方って難しいイメージがあるのですが…ひと言でどういうものでしょうか。
「漢方は、古くからある日本の生活の知恵です」(以下、カッコ内は黒田さん)
「漢方は中国由来ですが、日本の気候や湿度、地形、生活習慣といったものに合わせて日本で独自に発展したものです。
漢方という呼び方は、江戸時代に蘭学・蘭方が入ってきたときに、両者を区別するために名付けられたものです。漢方には、漢方薬や薬膳、養生、鍼灸といったものが含まれています。一方で、中国の伝統医学のことは、漢方ではなく“中医学”という呼び方をします」
漢方は「五月病」に役立つ?
――春先に揺らぐ心身や「五月病」にも、良いのでしょうか?
「漢方では、身体の外側または内側に原因があると考え、両方からアプローチをします。例えば、“雨が続いて気圧が低いから頭痛がする”のは外側の要因。“嫌なことが続いてストレスがたまりイライラする”のは内側の要因。五月病については、外側と内側の両方の要因が重なりやすいタイミングです。
五月病は、4月に新学期を迎え、5月に連休を控える日本特有の傾向です。特にお子さんにとっては、一気に感情の負荷がかかる新学期。“春だから頑張りたい!”“春だから心機一転!”“新しいお友達をたくさん作りたい!”そんな大きな意気込みも、外側と内側のバランスを崩すと、かえってストレスになってしまうことがあります。お子さんの外側と内側のバランスを思いやることは漢方に通じるアプローチで、五月病の予防やケアに役立つといえるでしょう」
簡単に、漢方を取り入れるには?〜漢方の五行〜

「漢方の考え方の一つに「五行」があります(上図参照)。古代中国の自然哲学から生まれた思想で、「木・火・土・金・水」の5つの要素の相互作用でバランスを保つという考え方です。
例えば、春は「木」にあたり、そもそも怒りやすい・イライラしやすい季節(身体の巡りの悪い季節)です。酸味のある春野菜などを食べると、身体の巡りがよくなり調子が向上します。漢方では、季節などの外側の要因と精神的な内面の要因を、この五行に基づいてアプローチをすることができるのです。この図を見れば明解ですね」
五行は「食」にも当てはまる
「また、「五行」を食に当てはめることもできます。五味と言われる味覚です」
- 木:酸っぱい(酢・トマト・みかん・レモン・りんご・梅・ブリなど)
- 火:苦い(茶、レタス、ミョウガ、ギンナン、ふきなど)
- 土:甘い(砂糖、ほうれん草、白菜、きゅうり、ナス、とうもろこし、卵、大豆、牛乳、牛肉、豚肉、米など)
- 金:辛い(トウガラシ、山椒、胡椒、だいこん、にんじん、玉ねぎ、ニンニク、生姜など)
- 水:塩辛い(塩、アサリ、はまぐり、昆布、ひじき、海苔、クラゲ、栗など)
「なんとなく心身の不調だと感じるところを、身近な“食”で改善を図ることもできるのです。五行は季節とも連動しているので、基本的には旬のものを食べると自然と巡りが良くなりますよ」
不調別! 五月におすすめのレシピ
薬剤師の黒田さんのアドバイスから、春における不調別おすすめのメニューをご紹介します。手軽に取り入れられるアイデアから試してみてください。
“すぐイライラ!”には、ひと口「梅」
すぐイライラ!する、そんなシーンありますよね。思うようにいかず感情も行動もイライラしているようなら、酸を取り入れると良いのだそう。市販のひと口「梅」でも効果を期待できるようです。

“ため息が多い人”には、「レモンスカッシュ」
新年度の疲労がたまって、ため息ばかり…。そんなときは、同じ酸味でも爽やかな「レモン」と「炭酸水」で、手軽にレモンスカッシュを。
炭酸水200mlに、レモン1/4を搾り入れてみて。お好みで蜂蜜を加えてもいいでしょう。

煮沸消毒した瓶に、輪切りにしたレモン2個分、生姜10g、ハチミツ200gを入れ漬けるだけでレモネードを常備できます。レモネード原液を、炭酸水で薄めて飲んだり、お湯で割ってホットレモネードにしてもいいでしょう。

“人に当たってしまう”そんなときは、ゆっくりと「ブリの甘酢和え」
ブリも五行で言う「肝」にアプローチをしてくれる食材。甘酢で和えて、ほっこり心身を整えましょう。
【甘酢あん】みりん・酢・砂糖・醤油・水を、各大さじ1ずつ加えて混ぜ、小さな鍋で煮立たせる。
ブリに塩胡椒をしてフライパンで両面をこんがり焼いたら、甘酢あんをかける。

不調に気づいたら、できるところから取り入れよう
ふとした心身の変化に、そっと漢方メニューを。
お子さんがイライラしているなと思ったら、「梅干し」を1つ渡すだけで小さな優しさにつながりそうです。五月病かな!? と少しでも気になったら、できるところから取り入れてみてくださいね。
お話を聞いたのは
薬剤師。製薬メーカーにて7年間、漢方の専門知識を医療現場へ届ける学術・研修業務に従事。現在はフリーランスとして、漢方の知恵をもとに個々の心身のゆらぎに寄り添う活動を行っている。
中学生の頃、漢方に魅了され独学を始めるも、難解な用語に挫折した体験から、「複雑な漢方の知恵を、今日から使える日常の選択肢に翻訳すること」を活動の柱としている。
取材・文・レシピ・写真/太田さちか
