『キングダム』『ゴールデンカムイ』『国宝』『ブルーロック』…大ヒット作を連発する映画プロデューサー松橋真三さんが語る「日本映画のヒミツ」とは?

最近は「日本映画が面白い!」と国内でも海外でも大評判で、人気も興行収入もどんどんアップしています。そんな中、『キングダム』『ゴールデンカムイ』『ブルーロック』『国宝』などなど、大ヒット日本映画を連続してプロデュースされているのが、松橋真三さんです。手がけた作品の興行収入累計は、なんと1000億円以上! 物静かで穏やかな印象の松橋さんが、どんな手腕と情熱でこの数字を実現されたのか、映画プロデューサーとはどんな仕事なのか? じっくりお話を聞いてみました。

若い世代が「観たい!」と思う日本映画が増えて人気に

――日本制作の映画が人気で、興行収入でもすばらしい数字を打ち立てています。その理由はどこにあると思いますか?

松橋さん 僕が小さい頃は、日本映画は中年以上の大人が観るものか、子ども向けか、二極化している感じでした。でも、次第に若い人たちでも楽しめる映画がたくさん出てきました。10代や20代の人たち向けの作品も。それまで洋画しかない、と思っていた人たちが、日本映画を観に、映画館に来るようになったのです。

日本文化が息づく日本の物語は、お客さんにとってより親しみやすいはずです。まず主人公が日本人ですし、登場人物の考え方や環境などに共感しやすい。

アメリカの映画って、非の打ち所のないスーパーヒーローが、最新鋭の鎧をつけて胸がすくように悪をやっつける話だったりしますよね。それに対して日本の映画は、凡庸な主人公が何もないところから努力して努力して、何とか困難を乗り切っていきながらヒーローになっていく成長物語が多いのです。そこに同じ日本人として共感ができます。

意外に思うかもしれませんが、日本では『スーパーマン』(超人である宇宙人が主人公)や『バットマン』(主人公は大富豪)は大きくはヒットしません。『アイアンマン』(主人公は天才科学者で軍事企業の社長)は3作目でようやく当たったかな。それでも世界興収に比べるとまだまだです。『スパイダーマン』は、スーパーパワーを持ちながらもティーンエイジャー特有の弱さや悩みも持ち合わせていて、好きな人に好きといえないようなシャイな男の子が主人公ですよね、だから日本人にも共感され、ヒットしたのだと思っています。

――最近は、上映期間が終わるとすぐにネット配信されて、家庭でも映画が手軽に観られるようになりましたが、映画をあえて劇場で観る楽しみとは?

松橋さん 劇場の巨大なスクリーンで映像を楽しめますし、生活音や雑念などを遮断して世界観に没入できます。映画館に出かけていくイベント感としてのワクワクもありますし、多くの人が一緒に観て、同じ時間を共有して感動する、その空気の中で作品に浸れるのがいいですよね。みなさん、そういうご経験があるんじゃないでしょうか。

どこかで読んだのですが、映画を自宅ではなく映画館で観ることによって、心が整い、ストレス発散になるそうですよ。

松橋さんがプロデュースした2026年公開映画『ブルーロック』©金城宗幸・ノ村優介/講談社 ©CK WORKS

映画の最初から最後まで責任を持つのが「映画プロデューサー」

――松橋さんは、「映画プロデューサー」です。映画監督というお仕事もある中で、プロデューサーとは、具体的にどんな役割なのでしょうか。

松橋さん ひとことでいえば、作品の代表者、責任者です。映画の企画立ち上げから最後に収益を配分するまでを担います。

松橋さん たとえば、マンガの原作を読んで「これをやりたい」と思ったら、出版社に交渉するためのプランを練ります。原作権を得られたら、作品にふさわしい予算を集める。脚本を作ってスタッフとキャストを集めて準備、撮影、編集などを経て作品を仕上げる。宣伝して上映して、その後は配信などの二次展開もしながら利益を上げていく。そしてお金を出してくれた出資者にお金を返すところまで責任を持つのです。作品の入り口から出口まで全部見る責任者ですね。特に、お金の部分の責任が大きいです。

同じ映画プロデューサーでも、制作の部分は現場に任せる方もいますが、私自身は全部やりたいタイプ。これが代表を務める制作会社、CREDEUSのスタイルです。

ーーそのあたりの映画プロデューサーの役割などについては、著書『凡人プロデューサー 日本映画で世界をかえる!』(小学館刊)にも書かれていますね。

松橋さん 映画を作ることって、長い旅のようなものなんですよ。先に挙げたような入り口から出口まで、短くても1年半、5年くらいかかるのはふつうです。そして、その間に関わる人数も大きく変わってきます。

発案するときは私1人。原作権を得た後は脚本家や監督などと関わり人数が増えて10人くらいになり、いざ撮影となると俳優や現場の方々含め、100人、200人になる。撮影し終わると30人くらいになり、ビジュアルエフェクトでCG等を使うと300人になることもあり、作品が完成すると人は減りますが、宣伝や二次配信のところで、また人が増えていきます。

いつも4~5本の映画制作が同時進行、切れ目はない

松橋さん 作品の旅が終わるまで、作品のことはずっと頭から離れません。1本だけ進行しているのでは経営が成り立たないので、常に4~5本同時進行しています。今年は『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』『SAKAMOTO DAYS』『キングダム 魂の決戦』『ブルーロック』と4本公開されました。私の1日も、昼に今後の公開を目指す原作権の交渉、夕方はクランクインを控えた映画の衣装合わせ、その後、情報収集のための会食など、常に複数の作品のスケジュールがぎっしり、飛び回る毎日です。

――忙しそうですね。お休みはありますか?

松橋さん 衣装合わせや撮影は土日でも入ってきますし、切れ目はないです。でも、映画の仕事が好きで、手がけたいと熱望してこの仕事に就いていますから。

原作のマンガや小説を読み、心を震わせて「この作品をみんなに届けたい!」と思って上映するわけです。その思いが届き、映画を観て感動して涙を流してくれる人たちがたくさんいる。時にはその感動が、観る人の人生を変えるかもしれない。映画を作ることに誇りを持って臨んでいますし、この映画プロデューサーという仕事を、未来に残すべき仕事だと思っています。

「凡人」だからこそ、主人公の苦しさがわかり感動を届けられる

――出資する人たちや俳優さんやクリエイターたち何百人もと、コミュニケーションを取りながらすばらしい作品を作り上げ、しかも1000億円もの興行収益を実現するのは、松橋さんだからこそですね。

松橋さん 私は自分を「凡人」だと思っています。凡人っていうのはできないことがたくさんある。天才がさらっとやってしまうことが凡人だからできないし、つまずくし、悔しい思いをたくさんします。だからこそ、努力して何かができるようになったうれしさがあるんですね。

あの人と友達になりたい、声をかけたいんだけれど声をかけられない、それでもようやく勇気を出して声をかけることができた。そのときのうれしさ、幸せな気持ちってかけがえがないですよね。その気持ちがわかる人間が、物語を作るべきだと思う。だから凡人でありたいし、多くの人に共感を持ってもらうには凡人であることが条件だと思っています。凡人たる能力をとぎすますのが、私がやるべきことかな、と思っています。

天才だったらできて当たり前のことを、苦労してうまくいかないこともあって、やっとのことで乗り越える。投げ出さないで、どんなふうに乗り越える気持ちを持ち続けてがんばれたのか、乗り越えた感動をどう人に伝えるか。映画プロデューサーという職業のありかた自体が、映画で人々を感動させることにつながっています。だから、私は自分が凡人の映画プロデューサーであることを、大事にしています。

――業界の超有名人なのに、決して偉ぶらずに映画の感動を大事にする松橋さんの言葉、ひとことひとことが染み渡ります。後編は、ご自身の生い立ち、そして映画を通しての「子育て・人育て」の話も伺います。

1000億円の興行収入を実現した映画プロデューサーが語る、若手俳優との付き合い方、そして信じ合う関係、『凡人』だからできること
青森県十和田市の出身。学級委員を務めクラスのまとめ役 幼稚園のお遊戯会でのお写真(中央が松橋さん) ――松橋さんのご出身は青森...

お話を聞いたのは

松橋真三さん 映画プロデューサー

1969年8月18日、青森県十和田市生まれ。CREDEUS代表/映画プロデューサー。早稲田大学法学部卒業後、1994年にWOWOWへ入社。『バトル・ロワイアル』でプロデューサー・デビュー。2005年に独立し、『銀魂』『キングダム』『沈黙の艦隊』『ゴールデンカムイ』『国宝』『SAKAMOTO DAYS』『ブルーロック』など、数多くの作品をプロデュース。2026年に全作品の興行収入累計が1000億円を突破。優れた映画プロデューサーに贈られる藤本賞を『銀魂』『キングダム』『国宝』で3度受賞している。初の著書は『凡人プロデューサー 日本映画で世界をかえる!』(小学館刊)

CREDEUS公式サイト


松橋真三 小学館 1980円(税込)

活躍目覚ましい映画プロデューサー初の著書
丸善丸の内本店ノンフィクション部門でベストセラーランキング1位!
(集計期間2026/7/30~8/5)

『キングダム』、『国宝』、『ブルーロック』、『ゴールデンカムイ』、『SAKAMOTO DAYS』、『銀魂』、『沈黙の艦隊』『バトル・ロワイアル』・・・本作は、プロデュースした全作品の興収累計が2026年ついに1000億円を突破するという偉業を成し遂げた松橋真三の初の著書です。
青森県に生まれた少年が、どのようにして映画プロデューサーになったのか。
その生い立ち、プロデューサーとしての覚悟と矜持、成功し続けるための秘訣、さらには日本のエンタメの未来像を初めて語ります。
映画ファンはもちろん、映画プロデューサーを目指す若者にとっても必読の内容となっています。

この記事を書いたのは

三輪泉 ライター

インタビューを中心に教育、子育て、医療、介護、食などのテーマで WEB・雑誌・書籍などの記事を執筆。お話を伺う方にたくさんの学びをいただいています。社会福祉士、法定成年後見人、中学校・高等学校教諭一種免許状、生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)

撮影/杉原賢紀

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