【陰山英男の子育てトーク・愛はときどき間違える】「しんどいと感じる子育てはしない」

百ます計算 、 学力向上だけが隂山先生ではありません 。すでに成人している3人のお子さんの父親でもあります。子育てが一段落した今だから見えてくること、 言えることを、隂山先生の名言とともにたっぷり語っていただきます。

「愛」という名のもとに、あれもこれもしなければならなくなっているとしたら、 危険。子育てはもっと合理的にしましょう、という山先生。その心は?

「愛」は学習するものです!

編集部(以下 編 ) :山先 生から、これまでたくさんの名言や迷言をお聞きしました。この連載では、読者の方にその名言を子育ての ヒントにしていただこうと思っています。よろしくお 願いします。

隂山 はい、よろしくお願 いします。

 :これまでお聞きして強 く印象に残っている名言の ひとつが「愛はときどきまち がえる 」です。連載のタイトルにもしたくらいインパク トがありました。ここで先生 がおっしゃっている「愛 」と いうのはなんでしょうか?

隂山 :親の愛なんて、何もしなくても自然にわいてくると、みなさん思っているでしょ。

: まあ、そうですよね、普通は。

隂山 :愛は学習するものです。

 わ、これも名言。

隂山 :ぼくも若いころは、親の愛は本能だと思っていたけど、それが違うと知ったのは、あるお母さんの話を聞いてからです。子育てがうまくいっていないというので、家庭訪問したんです。そこで聞いた話が衝撃的だった。そのお母さんは「私、母親が何をする存在かわからな い 」と言うんです。何をバカなことを言うんだ と内心思いながら、よく聞いてみると彼女は施 設に預けられて育ったので、親が何かしているところを一度も見たことがなかったんです。だから親が何をする人なのかがわからない。あれは、衝撃を受けたなあ。ちょうどそのころですよ、カンガルーの子育てを知ったのは。

:はい、話が飛びますね、カンガルーだけに。

隂山 :子育てを部族でしているカンガルーと親 子だけでしているカンガルーを比べたテレビ番組をたまたま観たんです。部族で子育てしてい るカンガルーは子孫がどんどん増えるのに、親子だけのカンガルーは子どもが減っていき、しまいに絶えてしまう。

:どうしてなんでしょうか?

隂山 :部族で育ったカンガルーは、まわりから子育ての仕方を学べるけど、親子だけのカンガルーは親が何をするかがわからない、部族のカンガ ルーと子育ての仕方が全然違う。カンガルーも子 育てを勉強するんだ、ということをその時知りま した。そのカンガルーの姿が親を知らずに子育てがうまくいかないお母さんと重なって見えて。

「愛」が過ぎるとまちがえる。子育ては「あきらめ」が大事

 :そのお母さんは、子どもに愛情はあったわけですよね。

隂山 :愛情はあるけど何をしたらいいのかがわ からない。親が子どものために何をするかを知るためには高い学習が必要なんです。

:だから、愛は学習するものなんですね。

隂山 :ただね、その愛というのが問題。愛があれば何をやってもいいというのではないんで す、愛はときどきまちがえるんです。典型は溺愛ですよね。溺愛のダメなところは、子どもの未来を見ていないところ。江戸時代に書かれた『和俗童子訓 』を読むと ……

 わぞくどうじくん、というのは?  

隂山 :貝原益軒(かいばらえきけん)っているでしょ。

 :はあ、何となく聞いたことがあるような ……

隂山 江戸時代の学者なんですが、彼が書いた教育書。一度読んでみてください。物心ついたときから、善悪は厳しく教えなくてはいけないとか、 子どもの成長を見通しながらの躾や教えるべきことを説いています。考え方がとても合理的なんですよ。この本で益軒は愛に溺れる子育てを強く戒めています。「愛が過ぎる」とまちがえるよ、子どもをダメにするよ、とね。

先生自身が子育てで大切にしていることは何でしょうか?


あきらめ(笑 )

あれ、いきなりトーンダウンしましたね。

いやいや、あきらめは大事。あきらめると ストレスがなくなるから。ストレスを感じるくらいにあれこれすると、気がつかないうちに笑顔が なくなって、目がつりあがってしまう。親の笑顔がなくなると子育てってうまくいきません。うまくいかないと、ますます目がつりあがる。この悪循環に陥っていることに本人は気づきません。うまくいかないほど、もっと何かしなければという気持ちになってしまうんです。

 :これも、愛はときどきまちがえるの例ですね。

隂山 そうです。これをするとしんどいなと感じることはしなくていい。今の子育て情報は、ハウツーがすごく多いでしょ。こういうときはこれをしなさい、あれをしなさいと形から入っている。 たいして根拠があるように思えないんですよ。

 :みなさんも、気を付けないと。

大事なのは子どもはそこにいてくれるだけでいいという気持ち。あとは全部おまけ

形から入りすぎているんじゃないかな。「ほら、そこは、子どもをほめなきゃ」と言われると、ほめられない 自分がダメだと感じてしまう。

:そういうママはいるでしょうね。

隂山: でもね、「ほめなきゃ」と言う人の子育てがうまく言っているとは限らない。本当はうまくい っ ていないのに 、うまくいっていると思い込んでいて周囲にもすすめたりするんです。

:迷惑な話ですよね、押しつけは。

隂山 :ここだけの話ですが、教育関係者に意外 と多いんですよ、このパターン。賢い親を演じたがるから。ぼくは自分がバカといわれる親でいいと思っている。根底にあるのは、子どもはそこにいてく れるだけでいいという気持ち。あとは全部おまけ。

:うっ、泣けます。お時間になりました。本日はありがとうございました。

【今回の結論】「ほら、そこは子どもをほめなきゃ!」と言っている人の子育てがうまくいっているとは限らない。

 

教えてくれたのは

陰山英男|教育者

1958年兵庫県生まれ。1980年、岡山大学法学部卒業後、教職の道へ。百ます計算をはじめ、「読み書き計算」の徹底した反復学習と生活習慣の改善に取り組み、子ども達の学力を驚異的に向上させた。その指導法である「陰山メソッド」は、教育者、保護者から注目を集め、「陰山メソッド」を教材かした『徹底反復シリーズ』は、総計770万部の大ベストセラーとなっている。現在、YouTube『陰山英男公式チャンネル』で授業や講演を公開して注目を集めている。

出典/『edu』2014年6月号 木彫り人形  木彫り人形制作 /BUNi PUNi(菅野 旋 高橋将貴)   取材・構成 /平野佳代子

編集部おすすめ

関連記事