隂山英男先生が教える「親が子どもに教えなければいけないたったひとつのこと」

百ます計算 、 学力向上だけが隂山先生ではありません 。すでに成人している3人のお子さんの父親でもあります。子育てが一段落した今だから見えてくること、 言えることを、隂山先生の名言とともにたっぷり語っていただきます。

今回は山先生の幸福論。幸せとはどういうものかを子ども時代に教えることで、大人になったときに幸せ を追い求めることができるようになるという先生。忙しい子育ての合間、幸せについて考えてみましょう。

これだけは、お母さんが子どもに教えなければならない。それはなんでしょう?

編集部(以下 編 )こんにちは。本日もよろしくお願いします。

はい、よろしくお願いします。

最近、読者の方からはがきをいた だくようになりました。先生の話を聞いてホッとしましたと。

そうですか、それはよかった。

悩みの相談もありますが、ひとりひとりにお答えできなくて、申し訳ないなといつも思っています。みなさん、 悩みは違いますが、子育ての指針になるようなものがひとつあるといいのかもしれません。そこで先生にお聞きします。お母さんが子どもに教えなくてはいけないことをひとつあげるとしたら何でしょうか?

子どもを 3 人育ててきて、最近つくづく思うことがあります。

はい、それをぜひ。

隂山 親が子どもにいちばん教えなければいけないのは「幸せとは何か 」ということです。

 わ、難しいかも。どうやって教えるんですか?

隂山 子ども時代に幸せと思えるような体験をさせてほしい。「幸せ 」という感覚を教えるといえばいいのかな。

 あ〜、それなら、わかるような気がします。

隂山 そうでしょ。どんなに勉強ができても、東大に入ってもいつも何かに後ろから追い立てられているような生活は幸せからはほど遠い。追われる子もきついけど、追い回す親もしんどい。

:つらそうですね。

隂山 :切羽詰まっているということなんですが、ベースにあるのは不安と緊 張です。これは学校を卒業してからも続きます。学校を卒業したら、今度は就職、就職の次は結婚。いつも親は子どもを追い立てて、子どもはいつも追われている。

:いつも先を見て不安に思うわけですね。

将来を見通すことも必要ですが、今を大事にしてほしい

隂山 :そう、将来を見通すことも必要ですが、今を大事にしてほしい。本当に子どもの将来を考えるなら、なおさら子どもに幸せを教えないといけないんです。

:なぜですか?

隂山 幸せとは何かを知らないまま成長してしまうからです。

 そうすると、どうなりますか?

隂山 人間というのは、不思議と同じことを繰り返します。イヤだと思いながらも、幸せにならないことをやって しまう。

:なんか、不幸の連鎖ですね。

隂山 :幸せがどういうものかがわからないと、幸せを追いかけることができません。だから、子ども時代に幸せという感覚がわかるように育ててほしい。そうすると、幸せを追い求められるよ うになります。

:ところで、先生ご自身はお子さんに、どのようにして幸せを教えてきたのでしょうか?

隂山 子どもに幸せを教えようと、ことさら思ったわけではないけど、結果として子どもたちに(幸せの感覚を)教えてきたなと思うことはいくつかありますね。息子が小学生時代に一緒に化石掘りをしたことがあります。 あれは楽しかった。

:化石ってそんなに簡単に見つかる んですか。

隂山 :当時は兵庫県の田舎に住んでいましたから、近くに化石がゴロゴロしている山があったんです。休みの日はよく行きました。その影響かもしれないけど、息子は高校 2 年のときに、つるはしを買って鉱物を採るようになりましたね。

 つるはしを持っている高校生って、なかなかいません。

隂山 ハハハ、お年玉を貯めて買ったらしいですよ。部屋の壁につるはしがかかっているのを見て、おもしろい子だなと思った。

 先生と化石探しをしたことが、息子さんにとって幸福な感覚がもてる時間だったんですね。

隂山 そうかもしれないね。その後、鉱物好きになって、自分で調べるようになりました。だから息子は今でも鉱物には詳しいですよ。

子どもと一緒にいて楽しい、と思える時間を作るべし。母親の笑顔に不幸は近づきません

 親の影響は大きいですね。とてもいいお話なんですけど、これを読んだまじめなお母さんは、子どもに何をしたらいいだろうかと考え込んでしまうかもしれません。

隂山 あのね、さっきの話と矛盾するみたいだけど、子どもに何かをしようとする前に、まず自分自身が納得のいく生き方をしているかどうかを考えてほしいんです。子どもを追い立てる生き方が納得できる どうかだよね。

:そうですね、お母さんも決して幸せではないでしょうし。

隂山 そう。僕が最近よく言うのは、母の笑顔に不幸は近づけない。

 あ、これまた名言ですね。

隂山 :子どもと一緒にいて楽しい、と思えるような時間をつくれればいいと思いますね。料理したり、散歩したりね。子どもが夢中になれる時間をつくるのもいいし。それが、子どもにも幸せの感覚を教えることになるんじゃないかな。今までに何十回も言ってきたけど、子どもが小学生時代は家族の黄金期なんですよ。でも黄金期はあっという間に過ぎていく。どんなに功成り名を遂げた人でもみんな「あの頃が黄金期だった」と口をそろえて言います。若いころは、そんなものかなと思って先輩たちの話を聞いていたけど本当にそうですね。

 読者の方は、今が黄金期なんです ね。

隂山 そうです!  子どもが小さいうちは、なかなか大きくなってくれないように思うかもしれません。でも高学過ぎるとあっという間に大きくなります。

中学生になったらもう親から離れ ていきますよね。

子どもたちと過ごす時間はかけ がえのないものだと、これもあとから気づくんだけどね。短い時期だからこ そ大事にしてほしい。

胸に刻みます。ありがとうござい ました。

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教えてくれたのは

陰山英男|教育者

1958年兵庫県生まれ。1980年、岡山大学法学部卒業後、教職の道へ。百ます計算をはじめ、「読み書き計算」の徹底した反復学習と生活習慣の改善に取り組み、子ども達の学力を驚異的に向上させた。その指導法である「陰山メソッド」は、教育者、保護者から注目を集め、「陰山メソッド」を教材かした『徹底反復シリーズ』は、総計770万部の大ベストセラーとなっている。現在、YouTube『陰山英男公式チャンネル』で授業や講演を公開して注目を集めている。

  『edu』2014年10月号 木彫り人形制作/ BUNi PUNi(菅野 旋 高橋将貴) 取材・構成 /平野佳代子

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