【隂山英男の子育てトーク・愛はときどきまちがえる】vol.2「いつかはやってくる反抗期。そのとき、子どもの変化を受け入れられる親に」

百ます計算 、 学力向上だけが隂山先生ではありません 。すでに成人している3人のお子さんの父親でもあります。子育てが一段落した今だから見えてくること、 言えることを、隂山先生の名言とともにたっぷり語っていただきます。

子どもは反抗期を通過して大人になります。山先生も教師という立場を離れ、 ひとりの父親としてお子さんの反抗期に直面しました。じつは、山先生はご 自身校長時代に、息子さんの中学校の校長先生から家庭訪問された経験があ ります。カリスマ校長として日本中から注目されていた時代、ひとりの保護者として悩ましい日々を送っていたのでした。子どもの反抗期は、正しい親であろ うとするよりも子どもの変化を楽しむ親でいることだと話す山先生です。

激しかった息子の反抗期。中学校の校長から家庭訪問が…

編集部(以下 編 ) 今日は反抗期の話 をお聞きしたいのですが、先生のお子さんも反抗期ってあったんですか?

隂山 :もちろん、ありました。3 人子 どもがいますが、末っ子の長男がいちばん激しかった。

 :いつごろですか?

隂山 中学校時代です。ちょうど僕が尾道の土堂小学校というところで校長をしていた時代。

 カリスマ校長として日本中から注目されていた時代ですよね。でも、じつは息子さんの反抗に手を焼いていらした。どんな反抗だったんですか?

隂山 もうね、家の壁に穴があきました。思わず「壊すなと話しました。 壁を直すのは高い んだぞ 」と、そこは極めて客観的に試算 しながらも、息子が荒れるのは仕方な いと思っていました。

:なぜですか?

隂山 :子どもに言えるほど、立派な親じゃなかったからね。ろくでもない親でしたよ。

 え、そんな~。カリスマ校長も家では形なし?

隂山 :そうそう。子どもたちが、思春期にさしかかるころ、わが家の環境は激変しました。僕の都合で家族をふりまわしていたんです。尾道の前は兵庫県の山奥で普通の小学校の教師をして いたのに、それが一転、尾道の伝統校の校長になってマスコミに追われる生活になってしまった。子どもたちは転校するはめになり、息子は住み慣れた土地を離れ、友達と別れ、ずいぶんとつらかったと思います。それがあの程度の反抗ですんだんだから、たいしたことはない……。

 学校ではどうだっ たんですか?  家では反抗しても学校では楽しくやっていたりするじゃないですか、思春期の子って。

隂山 :息子は本音でぶつかるタイプなので、友達と大げんかしたこともありましたね。

 :そうでしたか。

 わが家に息子の中学の校長が来たこともありますよ。

 校長先生の家に校長先生が指導しに来る?

 その先生とは校長会で顔を合わ せているんですが、申し訳なさそうな顔して僕を指導するんですよ。やりづらかっただろうと思いますね。

:というか、親の顔に泥を塗ったと思いませんでしたか?

隂山 :全然、そんなことは思わない。 考えもしなかった。世間体を気にした り、頭ごなしに押さえつけたりすると火に油を注ぐことになります。ただ、 落ち着いてから、息子には、普通は会社員なら転勤ということもあるんだと話しました。

 息子さんにはわかってもらえましたか?

隂山 :ええ。受け入れられるタイミングで話しましたから。受け入れら れない状態のときには、いくら話してもダメ。反発されるだけ。もう社会人になりましたけど、尾道時代の友達とは今も交流がありますよ。

立派な親になったらダメ。お母さんはいつもニコニコしているのが一番

:息子さんが荒れていたとき、奥さんは、どのようにおっしゃっていましたか?

隂山 :「あんた(隂山先生)が悪いんや 」と笑っていましたね。ま、そのとおりなんですが。

:笑えるって、余裕がありますね。

隂山 そこが、うちのかみさんのいいところ。普通、そこは深刻な顔をするだろうというところでもニコニコしている。子どもたちを笑わすのもうまいんです。

 でも、親って、なかなか自分が悪いとは思えないんですよねえ。なんでこの子は、逆らってばかりいるんだろうと思うし。

隂山 反抗しない、いい子の親であろうとするからそう思うのであって、「反抗期、これまた楽し」と思っていればな んということはないです。

 そうですかあ? そう思えないのはなぜなんでしょうか?

: それはね、自分が正しくて子どもが間違っていると思うから。正しいものは変われない、立派な親は自由がきかない。だから子どもの変化を受け入れられなくなるんです。

:う、痛いところをつかれた気がし ます。

隂山 :親って「自分はちょっと間違っ ているかもしれない 」と思っているくらいでちょうどいいんです。

:それを聞くと、とっても楽になりますね。

隂山 :そうでしょ。立派な親になったらダメ。お母さんはね、ニコニコ笑っているのがいちばん。僕 が言 いたいのはそれだけ。

:笑えないこともありますが、本当に笑っているだけでいいんですか?

隂山 そう、笑っているだけでいいの。担任時代の話だけど、子どもが忘れ物しても注意しないでヘラヘラ笑っているお母さんがいたんです。ちっとは注意してやれよと思っていました。でも、そのお母さんの子どもは素直なんだよねえ。だから伸びましたね。何でもきちんとさせているお母さんの子は、案外伸び悩む。

:じゃあ、今日からヘラヘラママに なります。

隂山 :うん、それがいいです。それにしても家族の話を伝えるのは難しいね。

:先生の意外な一面を知ることがで きました。本日はありがとうございま した。

教えてくれたのは

陰山英男|教育者

1958年兵庫県生まれ。1980年、岡山大学法学部卒業後、教職の道へ。百ます計算をはじめ、「読み書き計算」の徹底した反復学習と生活習慣の改善に取り組み、子ども達の学力を驚異的に向上させた。その指導法である「陰山メソッド」は、教育者、保護者から注目を集め、「陰山メソッド」を教材かした『徹底反復シリーズ』は、総計770万部の大ベストセラーとなっている。現在、YouTube『陰山英男公式チャンネル』で授業や講演を公開して注目を集めている。

出典/『edu』2014年7・8月号 木彫り人形制作/ BUNiPUNi(菅野旋 高橋将貴)  取材・構成 /平野佳代子

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