百ます計算 、 学力向上だけが隂山先生ではありません 。すでに成人している3人のお子さんの父親でもあります。子育てが一段落した今だから見えてくること、 言えることを、隂山先生の名言とともにたっぷり語っていただきます。
今月はあるお母さんのお悩みを隂山先生に回答していただきました。学年相応の学習についていけないときにどうしたらいいかという内容です。こ ういうときにいちばんしてはいけないのが焦り。でも焦る気持ちもわかります。どうしたらよいのでしょうか。
目次
「海外から帰国してインターナショナルスクールに転校。学力不足で、帰国後日本の学校についていけるか心配」
Q:学力不足で、帰国後日本の学校についていけるか心配。
13 歳の娘と 12 歳の息子がいます。海外に駐在していて、2人ともインターナショナルスクー ルに転校して3年余り。1年以内に帰国予定ですが、子どもの勉強の仕方と進路について 悩んでいます。日本の学校で習うことを教えてくれる塾にも通わせていますが、学年相応の 勉強(国語、算数)にまったくついていけない状況です。英語は英検1級(娘)、2級(息子) のレベルで、たいしてできるわけでもありません。このような状況で帰国して公立小学校に 通ったとしても座っているだけになりそうです。通常の塾ではついていけずに、家庭で親が 宿題をみていますが、どうしても子どもにガミガミいったり、子どもをけなしたりしてしまいま す。親の焦りのために子どもに厳しく接してしまい、子どもはやる気をなくしかけています。2 年も3年も学力が遅れている子をどう引き上げたらよいでしょうか? (帰国を控えて悩める母)
まず、どこでつまづいているのかをはっきりさせましょう
編集部(以下 編 ):隂山先生に相談のお便りが届いています。
隂山:はい。インターナショナルス クール に通わせているお母さんです ね。最近こういうケースをよく聞きます。まず最初に考えてほしいのは、子どもの将来をどう考えているかです。 英語を生かして海外で仕事をするのか、 英語は得意技程度にして国内で仕事を するか。どちらかに決めておかないと、 どっちも中途半端になります。海外で 仕事をする選択は僕の守備範囲ではないので、この際置いておきます。
編:このお母さんは、どうも海外で暮 らすことは考えていなさそうですね。 英語もそこそこといっているし。でも英検 1 級・2 級は優秀。海外で暮らす という選択がないわけではないけど、 ご家庭によって事情はいろいろでしょ うからね。
隂山:日本で仕事をするなら、やはり日本の学習システムに合った学習をする必要があります。で、最初に申し上げておきたいのは、焦らないでください、ということです。
小学校の勉強の土台は、3年生までに習います。1年生のプリントからつまずきの検証を
編 :そうですか、でもこのお母 さんの気持ち、痛いほどわかります。学年相応の勉強にまったくついていけないのに 1 年以内に帰国ですよ。
隂山:焦る理由ははっきりしています。 どうしていいかわからないから、焦っ ているんです。
編:そうですよね、どうしたらいいで しょうか?
隂山:まずどこでつまずいた のかをはっきりさせましょ う。小学校 3年生までの学習のどこかで、つまずいているはずです。
編:なぜ、3 年生までなのですか?
隂山:3 年生までに小学校の勉強の土台となるものを習うからです。そして勉強が苦手になるのは、3年生の2学期あたりからなんですよ。余りのあるわり算を習うし、漢字も急に量が増えます。
編 :じゃ、まずは 3 年生の国語と算数のプリントをさせますか?
隂山 :いや、それだとどこでつまずい ているかがわからない。1 年生のプリ ントから。
編:え?高学年の子が 1 年生から?
隂山:抵抗あるかもしれないけれどね。でもそうしな いと、つまずきの原因を分析できないから。1 年生の国語、算数はさすがにサッとできるでしょう。2 年生ではどうか、3 年生では? というように学年をさかのぼってみていくと、サッとできない箇所が必ずみつかります。たとえば、くり下がりのある引き算 でモタモタしていたら、余りのあるわり算でつまずきます。
編 :なるほど。わり算ができないからといってわり算の練習だけしてもダメなんですね。
隂山:そのとおり。わ り算ができないのは、九九でつまずいていることも考えられます。算数のつまずきは、 くり上がり、くり下がり、九九がサッとできるかどうかでわかります。この「サッとできる 」というのが大事。1 + 1 は 2 というくらいにサッとね。
編 :原因の分析ということですね。
隂山 :そうそう。アウトプットのところだけでなんとかしようと思ってもダメ。インプットをみないと。つまり習得がきちんとできているかどうか。原因分析がないまま学習を対策や方法で みてしまうと間違えます。
編 :2年生がわかっていなければ、2年生からやり直せばいいわけですね。
隂山:そうです。今、できることをやらせる。できることを積み重ねていくことです。それができていないからつまずいているんです。
子どもは絶対に成長しますから!焦りは禁物。親の不安は、子どもには倍になって伝わります
編 :このお母さん、塾にも通わせてい るようですが、塾はどうしますか?
隂山 :塾がストレスになるようなら休ませたらどうですか。しばらく休ませ て、どの学年でつまずいているかをみてあげてほしい。楽しみながらね。
編 :楽しみながら、ですか?
隂山 :そう。うちの子どこでつまずいているのかな、と。開き直ったらいい ですよ。学年の勉強についていけていないから焦るわけですが、親の焦りは子どもにはプレッシャー以外のなにものでもない。いいことはなにもありま せん。
編:開き直ると、どういいのですか?
隂山:子どもがプレッシャーを感じな くなるし、第一お母さん自身、気持ちが楽になるでしょ。子どもは絶対に成長するんですから、いまは学年相応のものができなくても、さかのぼって勉強できれば、追いつきますって。宣伝になってしまうようで言いづらいのです が、僕の『隂山メソッドたったこれだ けプリント 』(小学館 )シリーズをおすすめします。学年別で習得すべきことがコンパクトにまとまっています。これをポンとさせて、焦らないことです。
編:子どもの成長を信じることですね。
隂山: 親の不安は 、倍になって子どもに伝 わりますからね。
編:本日もありがとうございました。
教えてくれたのは
1958年兵庫県生まれ。1980年、岡山大学法学部卒業後、教職の道へ。百ます計算をはじめ、「読み書き計算」の徹底した反復学習と生活習慣の改善に取り組み、子ども達の学力を驚異的に向上させた。その指導法である「陰山メソッド」は、教育者、保護者から注目を集め、「陰山メソッド」を教材かした『徹底反復シリーズ』は、総計770万部の大ベストセラーとなっている。現在、YouTube『陰山英男公式チャンネル』で授業や講演を公開して注目を集めている。
『edu』2014年9月号 木彫り人形制作/ BUNiPUNi(菅野旋 高橋将貴) 取材・構成/ 平野佳代子