【後編】
東京・町田にある「小さな村」をテーマにした、町田の認可保育園
「しぜんの国保育園smallvillage」。
こどもたちの「今日は何をしよう?」から生まれる保育を大切にしています。園長である齋藤美和さんが、子どもとの暮らしにつながるものづくりをしているお母さんたちを訪ねる連載がはじまります。
「こどものための米とやさいのねんどテテテ」を作っているヤサクトモコさんの後編です。
ママになってから、粘土がもつ可能性に気付いた
–前回、ヤサクさんが野菜ソムリエプロの資格を取得したところまでお話しを伺ったのですが、そこから「こどものための米とやさいのねんどテテテ」を作るまでのストーリーを教えてください。
「初めての子育てだったので、子どもには、かしこく育って欲しい、よく育って欲しいという願いがありました。それで、いろいろ調べていた時に粘土が脳の発達にいいという記事を読んで。それならばと思い、粘土を買いに行ったんです。
それで、食品を買う時のクセで、ついつい成分表を見たんですよね。そうしたら、成分がよくわからなったんです。更に作っている工場のホームページを検索して見たら詳細が何も書いていなくて。とても不思議に思いました。子どもが口にしてしまうかもしれないのに……と思って。」
–それで、結局購入したのですか?
「いえ、買わないで帰りました(笑)。そこから自分でも作れないかなあと考えている時に、オーストラリアにホームステイをしていた時に、そこの家庭で小麦粉粘土を作っていたことを思い出したんです。それで家にあった小麦粉と米粉で粘土を作って手を動かして見たら、私自身も楽しいな!と思って。」
紅芋のパンを食べて、“あ!これだ”とひらめきました
-すぐに自分の手を動かしてみたというのがいいですね。
「まずは、作ってみよう!と思ったんです。それで、今度は色をつけてみたいなと思って考えていたところに、紅芋のパンを食べて、“あ!これだ”とひらめきました。そこから、いろんな野菜で色をつけてみようと思い試作を始めたんです」
–パッケージも含めて1年くらいかかったと聞いています。粘土はもちろん、その周りのデザインも素敵だな、気持ちいいなと思いました。
「すごくうれしいです。子どもの手に渡るものだからこそ、安心できるものを渡したい自分たちが家に置いておきたいな、心地よいなと思うものを作りたかったので、それはこだわりましたね。自分が子どもに手渡したいものを、商品として名前をつけて売るのだから、自信を持って渡せるものにしたいと思って」
わかちあうって楽しい。
誰かに喜んでもらいたいから作る。
-自分が親として子どもと楽しみたいものを作るという出発点だったと思うのですが、きちんと「商品として手渡す」気概を感じました。自分がいいなと思えるものを、丁寧に制作して、今度はみんなと分かち合うというという空気感が、前編でうかがった、果樹園での幼少期の暮らしを感じました。
「そうですね。わかちあうって楽しい。誰かに見てもらいたい、喜んでもらいたいから作る。ものづくりってそういうことなのかなあと思います。また両親との果樹園の生活で、わかちあうということが日常にあったんでしょうね」
-しぜんの国保育園の子どもたちも、畑で野菜を育てているのですが、収穫した野菜をお母さんにあげたいと必ずと言っていいほど言います。先日、3、4、5歳の異年齢のチームで近所にブルーベリーを摘みに行ったんですね。たくさん収穫をしてビニールに入れて持って帰ったんですけど、真剣に採ればとるほど手に力が入って中のブルーベリーが潰れてしまって。でも、ある保護者の方がそのブルーベリーを使って、家でパウンドケーキを焼いたと教えてくれたんです。
「わあ、いいですね。保育園でのことがご家庭につながったんですね。私もその一手間を大事にしたいです。余裕、心のゆとりって本当に大切だとつくづく思います」
-親子の時間がとても豊かだなと思って。でも、日頃、お母さんたちが、そんな時間が取れないのもよく分かります。最近、おもちゃというと、一人で遊べるもの、静かになるものを選ぶ傾向が多いんじゃないか感じていて。なので、その親子で楽しめるものとして、「粘土」を選ばれたのがとても興味深かったです。
「小さいうちは、親も一緒に向き合わないといけない遊びですもんね。なので、この粘土を使って、親子の時間って大事だなって思い返すきっかけになったらいいなと思っています。」
-園でも粘土遊びをするのですが、2歳児の女の子が小さく粘土を丸めたものを、耳の側で揺らしていて。その様子を見ていたら、隣にいた保育者に「見て!すずだよ」と鳴らしている風景をみました。
「一から作り始められるので、粘土って想像力が広がっていいですよね。こねて丸めて感触を楽しむのもいいですし、具体的なものを作っていくものもいい。私が子どもと一緒に時は、トミカのトラックに粘土を乗せて遊んでいました。ごっこ遊びにもつながりますね。粘土って組み合わせが自由だなと思います。また、公園に落ちていた木の枝や、かぼちゃの種、残った豆などを組み合わせても楽しいです。」
【取材を終えて】
はじまりは、自分の子どものために、納得したものを作りたいという思いから始まった「こどものための米とやさいのねんど テテテ」。優しい色合いと、心地の良い触感で、大人も子どもも触る人の心を柔らかくしてくれます。
それは、ヤサクさんの原点である家族を中心にした、わかちあいの気持ちが根底にあるのだと感じました。
早速、しぜんの国保育園でもテテテの粘土で子どもたちと遊びました。そうすると、周りの子どもも大人も「わあ、いい色だね」「和菓子の色みたい」「さわらせて」と集まってきました。
「美和先生、この粘土どうしたの?」
「最近お友達になった人にもらったの」
「なんて名前?」「ヤサクさん。今度遊びに来てもらおうね」
園庭の木々が秋の色に色づき、柿やざくろが実をつけた秋のしぜんの国にぜひ遊びに来てもらいたいと思っています。
ヤサクトモコ
1982年生まれ。江戸川区在中。 千葉県の果樹園に生まれる。CMプロダクション、飲食業、出版業などの様々な仕事を通じ、たくさんの人たちと出会うことの楽しさを学ぶ。 こどもを授かり、改めて<食>の大切さに気づき、野菜ソムリエプロに。 自分のこどもに使わせたいとおもう国産素材の<米と野菜を使用したねんど>を試作、約1年ほどかけて独自のレシピで商品へ。「てててのて製作所」
齋藤美和(さいとうみわ)
しぜんの国保育園smallvillage園長。書籍や雑誌の編集、執筆の仕事を経て、2005年より「しぜんの国保育園」で働きはじめる。主に子育て支援を担当し、地域の親子のためのプログラムを企画運営する。2017年当園の副園長となる。また保育実践を重ねていくと共に『保育の友』『遊育』『edu』などで「こども」をテーマにした執筆やインタビューを行う。2015年には初の翻訳絵本『自然のとびら』(アノニマスタジオ)が第5回「街の本屋さんが選んだ絵本大賞」第2位、第7回ようちえん絵本大賞を受賞。山崎小学校スクールボード理事。町田市接続カリキュラム検討委員。齋藤美和 Instagram 「しぜんの国保育園」