「ぐるになる」の「ぐる」って日本語?
俗語っぽい言い方ですが、「ぐるになって人をだます」と言いますよね。
この「ぐる」は、どういう意味か知ってますか?
また、平仮名、片仮名、どちらで書きますか?
「グル」は×。日本語なので「ぐる」が○
おそらく、「ぐる」は外来語だと思って「グル」と片仮名で書く人の方が多いのではないでしょうか。
でも、「ぐる」はれっきとした日本語なんです!
お手元の国語辞典を引いていただくといいのですが、どの辞典でも、見出しはすべて「ぐる」と平仮名で表示されているはずです。これこそ和語の証拠なのです。
外来語だと思っている人は、ひょっとすると「グル」は「グループ」の略だと思っていませんか。
「ぐる」は、悪事をたくらむ仲間のこと
驚くなかれ、「ぐる」は江戸時代から使われていました。たとえば、享保2年(1717年)初演の、『鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)』という浄瑠璃には、
「目代(めしろ)になる此の乳母(うば)はぐる也」(上)
という使用例があります。「目代」は=目付役の意味です。
「ぐる」は、ふつうは悪事をたくらむ仲間のことをいい、何かよいことを一緒にするときにはほとんど使いません。
ただ、なんでそれを「ぐる」というのか、語源はよくわかっていません。「なれあいの意の隠語トチグルヒの上下略か」(『大言海』)という語源説もありますが、かなり怪しい気がします。江戸時代、人形浄瑠璃を演じていた人の仲間内のことばで、からだにぐるりと巻く物という意味から「帯」を「ぐる」と言ったらしいのですが、それとの関連もわかりません。
ただ、少なくとも外来語ではなく、正真正銘の日本語だということだけは確かなのです。
記事執筆
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。