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その育てにくさ、ギフテッドだから⁉
「繊細」というには、度合いが過ぎているから、今、話題のHSC(Highly Sensitive Children)なのかな? 地域の相談センターに相談して、発達検査をしても問題はないと言われたけれど‥‥‥。うちの子が育てづらいのは、やっぱり私のせい⁉
日々、育てにくさを感じ、幼稚園への登園渋りがつづいていたある年長児のお母さんは、我が子がギフテッドだと気がつくまで、相談機関を彷徨い続けていたと言います。
ギフテッドという語感から、どんなイメージを持ちますか? わたしは、ギフテッドを「高い知的能力を持ち、さまざまな潜在的可能性を秘めた、配慮や支援が必要な子ども」と定義しています。
見落とされがちな「配慮や支援が必要な子ども」という視点。まず、チェックリストで確認を
ギフテッドは才能面で注目されがちですが、「配慮や支援が必要な子ども」という点は見過ごされがちな点ですので、今回特にこの部分に触れてお話しします。
ギフテッドは、知能の高さで、苦手や弱さを無理に代償していることもあり、実は、高い能力の陰に「困り感」が隠れていることも多いのです。ギフテッドの特性が、登園渋りや不登校の原因になっていることもあります。
ポジティブな強みとしての面と、ネガティブな弱みとしての面、双方を持ち合わせている
我が子がギフテッドかなと思うときにチェックしてほしい特性を列記したチェックリストを作成しました。
ギフテッドの子はポジティブな強みとしての面と、ネガティブな弱みとしての面、双方を持ち合わせています。下記の項目のうち半数以上当てはまると、保育園、幼稚園、小学校生活での困難さが、強く出てくることが想定されます。同年齢の子どもと比べて極端に目立つ,というのが評価のポイントです。
ギフテッドチェックリスト
高い言語力
没頭するような強い集中量とムラがある
感情がジェットコースター
想像力が豊か
感覚の偏り
強い正義感
興味関心がはっきりしている
他者への配慮ができる
完璧主義
強い好奇心
(片桐先生作成)
ギフテッドの特性「過度激動」とは?
とりわけ未就学児や小学校低学年お母さんに知って欲しい概念として、『過度激動(かどげきどう)』があります。
過度激動とは、文字通り、過度な感情や行動を示す状態です。強みとして働く反面、多くの人が自然に受け入れる物事に過剰に反応してしまうなど、集団生活の中では問題になることもあります。
過度激動には、5つのタイプがあり、1人の中で、複数の過度激動が高い場合が多いのが特徴です。過度激動による反応は、ギフテッドの“好み(嗜好)”や“わがまま”ではありません。むしろ本人は、“過度激動を抱えている自分”を扱いかねていることも多いので、大人が早く気がついてあげて欲しいのです。
過度激動5つのタイプ
1 感覚性過度激動
感覚性過度激動が強い人は、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といった環境からの刺激によって生じる感覚体験が通常より強いことが特徴です。幼児期、低学年期は、感覚に由来する不快感を言語化したり、不快な環境・刺激を避けたりといった対策を本人ができないことが多いので、子育てや集団生活が難しくなる傾向があります。
【アドバイス】
早めに感覚性スコアの高さに気がつくと、本人も周りも楽ですね。また、聴覚の刺激を緩和するノイズキャンセリング対策(耳栓やヘッドフォン)など、環境からの刺激を緩和する選択肢があることを知っておきましょう。
2 精神運動性過度激動
精神運動性過度激動が強い人は、活動的である一方で、「落ち着きがない」「やるべきことをせずに思いついた端から衝動的に動く」といった問題として表面化することもあります。この子たちにとっては、集中を維持するために、むしろ身体を動かすといった刺激が求める傾向があります。
【アドバイス】
本人にとって必要な刺激を得るための活動が、“普通”として求められるルールや行動から逸脱してしまうこともあります。幼稚園や保育園、学校の先生には、「精神運動性過度激動が強い子の特性」という方向で理解をしてもらうと、子供が過ごしやすい環境を整えることに一歩近づくのではないでしょうか
3 想像性過度激動
想像性過度激動が強い人は、豊かな想像力が特徴です。幼少期には現実と空想が混ざった話をすることもあります。空想に没入するあまり、ボーっとしているように見えることもあります。
【アドバイス】
想像する力は、本人にとって大きな強みと言えますが、周囲の話や環境の変化に気づかないことがあります。その場合、空想に耽ること自体は決して悪いことではないので、注意したりするのではなく、聞いていたかどうかを確認して聞いていないのであれば「もう一度大事な話をするので、ちょっとだけ聞いていてね」と話してみましょう。
4 知性過度激動
知性過度激動が強い人は、自分が関心を持ったことは粘り強く取り組みます。一方で本人が魅力を感じない事柄に対しては、「しないといけないものだ」といった説明だけでは、なかなか動きません。言語が年齢相応以上に発達していて、精神年齢の幼さとは裏腹に、大人の前でも一人前のこと言ってきて、周囲を驚かせたり、時には困らせたりします。
【アドバイス】
日々の生活の中では難しいことですが、大人は、子供の「なぜ?」「どうして?」と向き合って、本人が納得できるよう、論理的な説明を心がけられるとよいですね。
5 情動性過度激動
情動性過度激動が強い人は、人や場所、物に対して強い感情を示す特徴があります。感情の起伏が大きく、本人も周囲もその感情の影響を受け、疲れ果てることもあります。人間関係からの影響も受けやすく、共感、同情、責任等を強く感じて、過度に人助けをしたり、自責的に振る舞うこともあります。
【アドバイス】
本人自身、感情のコントロールができないことを理解していることもあり、その点を苦しんでいることも多いようです。否定的な関わりをするのではなく、「情動性過度激動」という言葉を知ることで、「この子は、怖い映像など負の感情が増幅するような事柄と関わる時は、配慮が必要なんだな」など、大人が環境調整の方法を考え始めるきっかけになると良いですね。
ギフテッドは、潜在的可能性を秘めた「配慮や支援が必要な子供」
「ギフテッド」というキーワードを知ることは、今、抱えている育児の悩みを解決する糸口になるかもしれません。また、文部科学省が有識者会議を始めるなど、日本の教育の中でのギフテッド関連の動きも、是非とも知って欲しいと思います。
ギフテッドは、高い知的能力を持ち、さまざまな潜在的可能性を秘めた、配慮や支援が必要な子どもです。ポイントは、『配慮や支援が必要な子供』という点です。この度、ギフテッドの特性や子どもとの関わり方を『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法』(小学館)にまとめました。子どもの特性を見極めて理解し、少しでも気楽に子育するために役立てていただけることを願っています。
『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法』
片桐正敏/編著 小学館 四六判 240ページ 定価1980円(税込)
教えてくれたのは
片桐 正敏先生
2011年北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。国立精神神経医療研究センター精神保健研究所、富山大学大学院医学薬学研究部、浜松医科大学子どものこころの発達研究センターを経て、現職。専門は、臨床発達心理学、発達認知神経科学、特別支援教育。発達障害のある子どもやギフテッドの相談支援活動も行っている。3人の子どもの父。
構成/楢戸ひかる
オンライン研修会「ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法」が、12/3(金)、12/10(金)に開催されます
片桐正敏先生をはじめ、専門家による「ギフテッド」研修会が開催されます。
詳細と申し込みは、それぞれ以下から