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“ミスター・ウルフ&スネーク”、自身との共通点は?
世界的大ヒット作をたくさん生み出しているドリームワークスアニメーションの最新作、かつ魅力的なキャラクターたちが多く登場する今作の中で、とてもハマり役だったお二人にお聞きします。
今作のオファーが来たときのお気持ちはいかがでしたか?
松也:僕自身ドリームワークスアニメーションが大好きですので、これまでの作品も劇場に何度も足を運んでいますし、その最新作ということで今回参加させていただけるというだけでもとても嬉しかったですね!
“ミスター・ウルフ”は、そのリーダーで主人公というキャラクター。演じられてとても光栄でした。これまでのドリームワークス作品ではたくさんの人気キャラクターたちがいるので、その中に“ウルフ”も加わることができたら嬉しいな、頑張りたいなという気持ちで挑みました。
安田:僕はオファーの時に「安田さんが“スネーク”だ」と言ってくださって。オファーとしてこんなに嬉しいことはないので、是非!という感じでしたね。それと同時に、そんなに「ヘビっぽい?」と(笑)。でもたしかに、小学生の時に長所と短所を書く欄に「長所は粘り強くて、短所はしつこい」って書いてあったんですよ。
松也:なんとなく…ヘビ(笑)。やっぱり子どものころからヘビじゃないですか(笑)!
安田:丑年なんですけどね(笑)。なので、すごく嬉しいのと同時に「えっ、僕ってそんなにヘビっぽいのかな?」とは思いましたね。
松也さんは、“ウルフ”と似ているなと感じた部分はありましたか?
松也:みんなを引っ張っていったり、自分でなにかやりたいことをどんどん突き進めていくような部分は近いなと思いましたね。ですが僕の場合は、なにかやりたいことがあって「やろうよ!」とみんなをやる気にさせることは比較的できるのですが、みんなが立ち上がったら僕は一気にやる気がなくなるというタイプでして(笑)。「じゃあ、あとはみんなでやってください」みたいな。
安田:立ち上げが好きなんですね。
松也:そうなんです。「立ち上がった!よし、じゃ、あとはよろしくお願いします!」みたいな(笑)。“ウルフ”は最後までしっかりと引っ張っていきますけど、そういうある種のお調子者的な感じには共感しました。
立ち上げが好きなのは、昔からですか?
松也:はい、若い時からなにかやりたいと思ったら、同時にすぐ誰かに話したり相談したりして、いつのまにか人が集まるということが多くて。それはもちろん周りの方たちに恵まれていることが大きいのですが、始まるとちょっと面倒くさくなってしまって…(笑)。
安田:後はよろしくみたいな?できれば、最後まで携わっていただきたい(笑)。
松也:そうですよね!やる気にだけさせといてね(笑)。
尾上松也、都会のど真ん中「銀座」で過ごした子ども時代
若い頃のお話が出ましたが、お二人がちょうど「バッドガイズ」を観る子ども時代の頃のお話をお聞きします。
お二人はどんな子どもだったのでしょうか?
安田:松也さんの子ども時代って、すごく気になりますよね(笑)。僕は北海道の室蘭の鉄工場の町の育ちなので、こういう言い方をすると失礼かもしれないんですけど、庶民的なんですよ。以前NHKで放送している「ファミリーヒストリー」という番組に出させていただいたんですけど、どこまで辿っても、どこを辿っても、ずっと庶民的なんです(笑)。
松也:ビックリしなかった(笑)。
安田:ビックリしないんですよ!それを誇りに思っていますし、感謝しているし嬉しいんですけど、そういう観点でいうと松也さんは違いますよね?(松也さんが)もし「ファミリーヒストリー」に出たら、それ本当!?ってことが沢山ありそうですよね。
松也:いや、ないと思いますよ。ただまぁ一言だけ言えるのは……、僕の出身地は「銀座」です。それだけは言わせていただきたい。
安田:(笑)。いやいや地方には、「〇〇銀座」っていっぱいありますからね(笑)。
松也:いやいや、東京都中央区の銀座です(笑)。
安田:(爆笑)
松也:中央区の銀座の出身の方、ここにいます?いないですよね(笑)。
安田:そういうところ(笑)!それをね、笑いとして言えちゃうっていうところがいいですよね!
松也:ですが、よく歌舞伎のお家に生まれたら、最初から裕福でお金持ちでと思われてる方が多いと思うんですけど、全然そんなことはなくて。生活が派手なわけでもないですし、僕は代々の歌舞伎の家柄ではなくて、もともと父親が歌舞伎を好きで始めた家系ですので。
ですが僕の祖母が新橋で芸者さんをしていましたので、銀座に住んでいた。そこに僕が生まれただけの話で、そんなにすごい話ではないのですが、今みたいなネタにできますし(笑)。
僕自身、銀座はとても好きなのですが、当時は子どもが遊ぶところがどこにもなくて…。公園はもちろんないですし、それよりも当時はマンションも少ないので、住んでいる友達も地元の友達もいなかったんです。ですから、家の前のビルの間の狭い道路でキャッチボールをするしかなくて、一人で壁当てをして、壁当てした駐車場のおじさんにいつも怒られたり(笑)。他の小学校の友達の家に行ったりすると「あの公園で野球しようぜー!」って近くの公園に行ったりして、羨ましいなって思いましたね。
子どもの頃は「なんで銀座なんだよ」とずっと思っていて、銀座という街が本当に嫌いでした。大人になってからは愛着がありますし、逆に過ごしやすくなりましたけどね。
安田:たしかに遊び場がないのは、子どもはツラいですよね。僕が育ったところは、グラウンドがコンクリートの学校なんて逆になかったですし、そういう部分では恵まれていたのかもしれません。
ご両親は、厳しかったですか?
松也:そうですね。僕は5歳の時に初めて舞台に立ったのですが、自由というか選択権をいつも与えてくれていました。子役として出演依頼がきても、出るか出ないかは僕に委ねてくれていたので、自分で決めていました。
安田:一応、体裁は委ねているけど「やるよね?」って若干感じませんでした?(笑)
松也:どうですかね(笑)。僕自身、意外と幼い頃からこのお仕事が好きでしたので、大体のことを「やってみたい!」ということが多かったのだとは思います。でも恐らく親もそれを見越していたのでしょうね。「どうする?」って聞いても大体やると答えるし、万が一やらないと言っても説得はしていたとは思います(笑)。ですが、あまりそういったこともなく、結構率先して出演していたんでしょうね。
安田:歌舞伎とはまた全然感覚が違うと思うんですけど、例えばそろばんとか習字とか、いわゆる“習いごと”って、「やだ!もうやりたくない!」って言っても、「いいよ、辞めても。あなた次第だけどね。やるの、辞めるのどっちにするの?」って親が聞くと、子どもって大抵「やる」って言うんですよね(笑)。
松也:それから僕は、舞台を勤めた後にはご褒美がもらえたというのが大きいです。オモチャとか買ってもらえるので、それも狙っていました(笑)。
原辰徳さんは「いまだに僕の中でのヒーロー」
子ども時代のご両親とのエピソードについてお聞きします。
ご両親から言われた言葉や、印象に残っているエピソードなどはありますか?
安田:うちの母は保険のセールスをしていて、父は溶接工だったので、僕は鍵っ子でした。学校からいつもだいたい一人で帰っていたのですが、たまたま鍵を忘れてしまって家に入れなかった日がありました。「習字の習いごと、どうしようかな」っていう時に、ちょうど玄関のドアの横側にある曇りガラスをガシャンと割って、そこから家に入って習字の道具を持って、すぐ近所の習いごとに行ったことがあったんです。
でもその習字の時間に、「絶対怒られる…割っちゃった…」って泣いてしまったんですよね。でもうちの父親は全然怒らずに「悪かったな、寂しい思いさせたな」と言うだけで、その割れたガラスを変えてくれたんです。
それでしばらくしてまた鍵を忘れてしまったことがあって、「怒られないや」と思ってもう一回ガチャンと割ったんですよ。・・・こっぴどく怒られました(笑)。二度目はないんだなと。
松也:僕の父親は、僕が20歳の時に亡くなっているのですが、父親が歌舞伎に出演しているのを見て、僕も好きになり、こうして今もやっています。
時間は短かったですが多少なりとも一緒に舞台に立った時間もあったので、そこで父親から基本の動きを教えてもらったということでしょうか。化粧の仕方や衣裳の着方というのは、今となっては大事ですし、もっと聞きたいことはたくさんありましたね。
今作では“バッドガイズ”たちが大活躍しますが、お二人の中でのヒーローはどなたでしょうか?
安田:僕は、父と母です。そこは、はっきりとそう言えるような育て方をしてもらえたと思っています。
松也:僕は、ジャイアンツの原辰徳さんです。これも結局は父親の影響でして、実家の食卓ではアニメや他の番組を見ることは一切許されなくて、僕が子どもの頃、ナイター中継が放送されていると、テレビは100%ジャイアンツ戦と決まっていました。原監督が引退された時は、僕はまだ10代だったと思います。原監督の、ここぞという時のカッコよさはピカイチでしたね!いまだに僕の中でのヒーローです。
居酒屋で靴をロッカーに入れる時なども、原監督の背番号「8」が空いていないか必ず探してしまいます(笑)。
「どこかで共感を持てる仲間たちというのは、本当に大切な存在」
今作『バッドガイズ』は、日本語吹き替え版を豪華な方々がやってらっしゃるのも魅力で、肉体派で歌が得意な“ピラニア”をA.B.C-Zの河合郁人さん、変装の達人“シャーク”をチョコレートプラネットの長田庄平さん、天才ハッカーの“タランチュラ”をファーストサマーウイカさんが担当されています。
完成した作品をご覧になっていかがでしたか?
松也:僕はアフレコを何日間かに分けてさせていただいていたので、最初は他のキャストの方々の声は入っていなかったのですが、後半のアフレコ時に皆さんの声を聞いてビックリしたんです。全員ハマってらっしゃって、すごいなと!オリジナルに比べて遜色がまったくないというか、びっくりして焦りました(笑)。
それにこのキャラクターたちをパッと見た時に、クモやサメだし、もちろん姿形は全然違うんですけど、声を聞いてから見返すと顔もみんな似ているような気がしてきて…!特に目の表情とか似ているんですよ。それは不思議な感覚ですよね。
安田:そうですね、目元とかだいぶ似てますよね(笑)。
本作は家族全員で楽しめる長編アニメーションですが、子どもたちに観てほしい見どころを教えてください。
安田:仲間の大切さですね。子育てというものは、親だけで育てるのではなくて、周りの環境や出会う人たち、友達や仲間、ご縁だったりというなかで本人たちは育っていくものですよね。
それは、ともすると出会うこともなかったであろう、「共感し合える仲間たち」というのが、本当に大切な存在なんだと。そこの結びつきの大切さというものを、この作品はきっと教えてくれると思います。
松也:僕はまだ結婚をしていませんし、子どももおりませんが、やはり人との出会いって大切ですよね。この映画に登場する彼らは、いわゆる血の繋がりがあるわけではないですけど、ひとつの家族じゃないですか。これってすごく尊いことで、そういう人たちと一緒にいられることと、その人たちとの絆を大事にしてさえいれば、この映画はもう冒頭から強盗団ではありますけど(笑)、そういう絆を大切にしている人たちに悪い奴はいないなと思ってしまう。
映画を観に来たお子さんたちには、そこは大事にしていただきたいですし、そこを見てほしいなと思います。
あとはやはり、「いいことすると、気持ちいいぜ!」というところ。今作を観て「いいことしよう!」って思っていただけたら嬉しいですね。
スタイリスト(安田顕):村留利弘(Yolken)、ヘアメイク(安田顕):西岡達也(Leinwand)
取材・文/富塚沙羅 撮影/五十嵐美弥