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ナッツアレルギーが急増中。特に幼児期には注意が必要
私たちの身近にあるナッツですが、ニュースなどでは最近ではナッツアレルギーの人が増えていると耳にします。
実際に、ナッツアレルギーの患者さんは増えているのでしょうか?
子どものアレルギーに詳しい、藤田医科大学ばんたね病院小児科の近藤康人教授にお話を伺いました。
近藤教授:これまで日本で食物アレルギーの原因として多いものは、卵、牛乳、小麦でした。しかし、令和3年度の調査では小麦を抜いて木の実類(ナッツ)が第3位になっています。
※落花生(ピーナッツ)は「マメ科」のため、木の実類には分類されていません。
また、ナッツアレルギーは幼児期や学童期に発症することも多く、年齢別の食物アレルギー新規発症調査では、木の実(ナッツ)類は3~6歳で第1位となっています。
つまり、幼児期にナッツアレルギーとは知らないままナッツを食べてしまい、蕁麻疹や皮膚の赤み、喉や口の違和感、吐き気などのアレルギーの症状を引き起こしてしまうケースが多いということです。また呼吸困難や嘔吐など重篤な症状を引き起こすこともあります。
クルミはナッツ類の中で最もアレルギーを起こしやすく、重症化しやすい
近藤教授:ナッツ類アレルギーの内訳ではクルミが最も多く、命に関わる重篤な症状を引き起こしやすいという特徴があります。そのため、現在は食品への表示が「推奨」となっているクルミも「義務」に変更されることが決まっています。
ただ、レストランなどの外食産業ではこの表示は義務化されていないため、誤食してしまうケースが多いのも事実。ナッツアレルギーのある子を持つ親は、注文時にお店の人に尋ねる、疑わしいものは食べさせないなどの注意が必要です。
ナッツが身近にある環境がアレルギーの原因に?
近藤教授:私たちのライフスタイルの変化が、ナッツアレルギーの増加の一因となっていると考えられています。
ナッツ類の輸入量は年々増え、2018年には輸入量が過去最高となっています。常に家庭にナッツを常備しているという家庭も少なくないでしょう。
しかし、そのような環境の中にいる子どもは、ナッツアレルギーを発症しやすいのではないかと考えられています。
最近の研究では、ピーナッツや卵のアレルギーの原因物質は、皮膚からも体内に入ることがわかっています。
皮膚が乾燥していたり、アトピー性皮膚炎などで荒れていたりするとバリア機能が低下し、感作(かんさ・食物などに対して免疫が働き、アレルギー反応を起こす体質になる)されることがあるのです。
常にピーナッツがある家庭では、空気中やほこりの中にピーナッツの粉がまぎれていて、それにより経皮(皮膚から)感作される場合があることがわかっています。
ナッツアレルギーの経皮感作についての研究はこれから始まるところですが、ピーナッツや卵と同様ではないかと考えられています。
うっかり食べてしまうことも! 意外な食品にクルミが入っている
近藤教授:お菓子やパンの他にもナッツ類は様々な食品に使われています。
例えば、愛知や長野などで食べられる「五平餅」の味噌のなかにクルミが入っていたり、中国のお菓子「月餅」の餡の中にクルミが入っていたりということもあります。
他にも、おはぎのきなこの中にクルミのパウダーが入っていたという例もあります。
クルミはそのままの形で使われることが多いため、食べる前に気づけるケースも多いですが、中には細かく砕いていたり、パウダー状のものを使ったりということもあるので、クルミアレルギーの人は注意が必要です。また、クルミのアレルギーがある場合、ペカンナッツにも反応することが多いので避けた方がよいでしょう。
どの種類のナッツにアレルギーがあるかは血液検査でわかる
近藤教授:子どもがナッツアレルギーかどうかは、1才以降に血液検査で調べることができます。クルミに関してはより詳しい血液検査もあります。
特にアトピー性皮膚炎がある子や皮膚が弱い子、ぜん息の子、他に食物アレルギーのある子、兄弟にアレルギーを持つ子などは初めてナッツを食べさせる前に専門医に相談し、検査を受けることをおすすめします。
4〜5才以降の子ならプリックテスト(皮膚テスト)を行うこともできます。プリックテスト用の針でアレルゲンを少量皮膚に入れ、15分後に判定を行うものです。
とても細い針なので痛みや出血はありません。上の画像のように赤く膨れ上がっている場合はアレルギー反応があると判断できます
この場合、クルミ、ペカンナッツにアレルギー反応が出ています。
※生理食塩水は必ず反応が出ないもの、ヒスタミン液は必ず反応が出るものです。
ナッツアレルギーが判明した場合は、環境からもナッツの除去を
近藤教授:ナッツアレルギーが判明した場合は誤食を避けるために、食生活からナッツを除去します。空気中にナッツの粉が混ざるのを防ぐため家庭にもナッツを置かないようにすることが大切です。
そして専門医と相談しながら、経口負荷試験(医師の管理のもとアレルギーが疑われる食物を実際に食べて、症状を観察する)を行うのがよいと思います。
当院でも血液検査の結果を見ながら、経口負荷試験ができると判断した場合には、クルミなら1g以下の分量から実際に食べて検査をしています。
※経口負荷試験を自己判断で勝手に行うことは絶対にやめてください。
アレルギーを防ぐためにはしっかり保湿ケアを
近藤教授:ナッツを含む食物アレルギーを予防するためには、赤ちゃんの頃からしっかりスキンケアをして肌のバリア機能を高めることが大切です。
肌が乾燥してカサカサしやすい子には保湿をし、アトピー性皮膚炎の場合は専門医を受診して治療しましょう。また、口の周りがただれていると、そこからアレルギーの原因物質が入ってしまうこともあるので、食事前にワセリンなどを口の周りに塗って保護してあげるとよいでしょう。
そして、アレルギー体質の子がいる家庭では、なるべくナッツを置かないようにするというのも一つの対策です。
重篤なアレルギーが出た場合は迷わず救急車を
近藤教授:先ほどもお話しましたが、3〜6才の子どもではナッツアレルギーとは知らずにナッツを食べてしまい、症状が出てしまうケースが多くあります。
ナッツアレルギーの症状は、他の食物アレルギーと同様に、蕁麻疹や皮膚の赤み、くしゃみ、鼻水、目の痒みや充血、吐き気、顔やまぶたの腫れ、重篤な症状になると繰り返す嘔吐や持続する強いお腹の痛み、呼吸困難、のどや胸の締め付け、血圧低下や意識障害などをもたらします。
以前、飛行機に乗って初めてナッツを食べた子どもに重篤な症状が出てしまったということもありました。
呼吸が苦しいなど重篤な症状が出た場合は迷わず救急車を呼んでください。無理に吐かせるなどはせず、救急車が到着するまで声かけを続けましょう。症状が軽い場合も専門医を受診してください。
お話をうかがったのは
日本アレルギー学会や小児アレルギー学会の理事。アレルギー指導医としてアレルギー学を志す医師の教育に携わる。また、地域の保育施設や学校関係者を対象に、アナフィラキシーの予防と発症時の対応を指導するチームの一員としても参加している。
アレルギーは専門医と相談し、安全な食生活を
以上ナッツアレルギーについてお伺いしました。
ナッツは様々な種類があるため「クルミは食べられないけれどアーモンドは大丈夫」などのケースもあり、食事から除去したり、環境からナッツを排除したりすることにより少しずつ食べられるようになることも少なくないそうです。
アレルギーが判明した場合は、専門医と相談しながら安全な食生活を送っていきましょう。
参考資料 令和3年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書
文・構成/平丸真梨子