30秒間で前跳びが70回できるか
二重跳びができない子どもに、どのように二重跳びをさせればいいのか、この問いに対して田口さんの回答は極めてシンプルでした。
二重跳びができるようになるコツを1つだけ挙げろと言われたら、田口さんはこの一点を挙げると言います。田口さんと、石川県立大学の共同研究によると、30秒間で前跳びが70回以上できる子どもは、二重跳びが1回できる可能性も高いという相関関係が、小学生1,022人を対象とした調査で確認されたからなのだとか。
それなりの縄の回転速度で30秒間に70回以上を跳べる状態にない子どもは、二重跳びの練習に入る段階にそもそも来ていないとの話。その意味で、70回以上跳べるまで前跳びをまずは練習させればいいのですね。
前跳びと二重跳びのリズムの違いを体で覚えさせる
では、前跳びが30秒で70回跳べる子どもには次に何を教えればいいのでしょうか。田口さんいわく、縄を使わないでテンポとリズムを体に覚えさせる練習がまず効果的だと言います。
そもそも、前跳びと二重跳びは、テンポが一緒でも、リズムが異なります。
|トン|トン|トン|トン|
が前跳びだとすれば、
|トントン|トントン|トントン|トントン|
が二重跳びのリズムです。「|」と「|」の間がジャンプ中だとすれば、1回のジャンプ中に1回手をたたくリズムが前跳び、1回のジャンプ中に2回手をたたくリズムが二重跳びです。
ジャンプをしながら胸の前で手をたたく、あるいは、ジャンプをしながら両手で両脚のひざをたたく練習を通じて、普通の前跳びと二重跳びのリズムの違いを、子どもに体で覚えさせてください。
と、田口さんは言います。
片手で縄を持って回す
次は、縄を片手に持たせます。脇を閉めさせた状態で、
|ヒュン|ヒュン|ヒュン|ヒュンヒュン|
というテンポとリズムで縄を回させてください。言い換えると、
|1回|1回|1回|2回|
と、テンポを守りながら最後だけ回転数を倍にします。
左右の手で別々に縄を回す動作に慣れてきたら、
|トン|トン|トン|トントン|
と今度は、ジャンプを組み合わせて縄を回させます。
ちなみに、ロープの適切な長さですが、両方のグリップを持ち、縄の中央を片足の裏で踏んで、グリップを持ち上げます。みぞおち、あるいはその少し下のあたりにグリップがきたら、適切な長さと言えるそうです。
また、初心者ほどグリップの長い縄跳びが跳びやすいとの話。さらに、縄の付け根側ではなく、グリップの先端側を持つと、余計に縄が回しやすくなるみたいですね。
とにかく1回できるように
ここまでの練習を繰り返したら、二重跳びへとチャレンジです。
先ほど、前跳びを3回やって、二重跳びを1回するとやりやすいとの話がありました。その意味で、
|前跳び|前跳び|前跳び|二重跳び|
の順序で、二重跳びできるようになったら、
|前跳び|前跳び|前跳び|二重跳び|前跳び|
と、二重跳び直後の前跳びの1回を頑張らせるのですね。この練習を繰り返すと、前跳びを3回跳んだら二重跳びが1回跳べる、その状況を連続でつくり出せるようになります。
そこまで来たら、
|前跳び|前跳び|前跳び|二重跳び|前跳び|前跳び|二重跳び|
|前跳び|前跳び|前跳び|二重跳び|前跳び|二重跳び|
などと、1回目の二重跳びと2回目の二重跳びの間にする前跳びの回数を少しずつ省略します。減らした数の前跳びで3回目以降も連続して行います。こうした練習の結果、連続して二重跳びが最後はできるようになるのですね。
ほぼ間違いなく二重跳びができるようになる
今回、二重跳びを教えてくれた田口さんは、高校時代に器械体操、大学時代には、スポーツ健康科学を学んだ人です。卒業後は、会社員経験を経て、プロの縄跳びパフォーマーになり、縄跳びの世界大会では最高で世界3位(団体)に輝いた人でもあります。
13年間所属したシルク・ドゥ・ソレイユでは、「キダム」という演目でスキッピングロープ(縄跳び)のアーティストとして活躍、5大陸・42カ国(217都市)で約4,000回の公演を果たし、本部でのトレーニング時代に行ったシャトルランテストでは歴代1位(当時)の記録を出すような人です。いわば、ずば抜けた運動神経の持ち主。
そんな田口さんに、
「小学生のころ、二重跳びはどのくらいできましたか?」
と聞くと、
との話。そんな田口さんほどにはなれなくても、田口さんの教えに従えば、平均的な運動神経の子どもでもほぼ間違いなく二重跳びができるようになるはずだと田口さんも言います。
冒頭でも書いたとおり、取材後にちょっと試してみたら、中年男性の筆者まで跳べるようになってしまいました。もちろん、二重跳びができなかった小学2年生のわが子も。全国津々浦々の小学校の先生にも、この練習方法が伝わればと心から願います。
【取材協力】
田口師永(のりひさ)さん
1976年生まれ、東京都出身。順天堂大学スポーツ健康科学部卒。卒業後にIT企業に就職するも、大学時代の後輩の誘いに応じて縄跳びを始め才能が開花。翌年には、世界チャンピオンシップに出場する。2002年には、シルク・ドゥ・ソレイユと契約し、2003年には「キダム」の日本公演でスキッピングロープのソリストとしてデビュー。現在は「縄跳び師」としてイベントへの出演や地元の小学校などで縄跳びの普及活動に努める。主な著書に『一流人の夢を叶える思考法』(ごきげんビジネス出版)
【参考】
児童期における効果的な「縄跳び運動」の指導法 ―二重跳び習得に向けたスピード跳びの活用― – 石川県立大学
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取材・構成・写真・文/坂本正敬