「出産写真」をライフワークに。 写真家・繁延あづささん【子どもの暮らしを紡ぐ人を訪ねて】前編

東京・町田にある「小さな村」をテーマにした、町田の認可保育園
「しぜんの国保育園smallvillage」。こどもたちの「今日は何をしよう?」から生まれる保育を大切にしています。園長である齋藤美和さんが、子どもとの暮らしにつながるものづくりをしているお母さんたちを訪ねる連載。第4回目は、雑誌や広告などで写真家として活動し、また、「出産写真」をライフワークとしている、繁延あづささん。今回は、特別に美和先生の働く「しぜんの国保育園 small village」に来ていただき、その風景も撮影していただくことに!繁延さんの視点でとらえた「しぜんの国保育園」の風景と共にお楽しみください。

 

 

「出産写真」をライフワークにしているカメラマン繁延あづささん

「出産写真」を撮影している繁延あづささんという素敵な写真家の方がいると、以前働いていた会社の先輩に教えてもらったことがありました。その当時は、「出産=痛い」というイメージしかなく、また出産というものがすごくプライベートな行為だと思っていたので、それを撮影するというのは、人の生活に踏み込んでいくものなのかなと考えていました。

けれども、繁延さんとお話していくうちに、「踏み込んでいく」という一方的なアクションではなく、繁延さんが出産を撮影するのは、「うむ」「うまれる」という姿にそっと寄り添い、そして写真と言葉で伝えていく、生命への愛から生まれた営みなのだと感じるようになりました。

 それは、「しぜんの国保育園」を撮影してくれている時も同じで、繁延さんの愛おしい「見たい」という気持ちが、すっと透明になって園の中に入っていく感じがしました。

 

−「出産写真」を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

繁延あづさ「きっかけは、友人が撮ってくれた私自身の出産写真を見たこと。産後1ヶ月の疲れ切っていた時で、グッときました。はじめて自分が産んだという実感がわき、子どもを愛おしく思いました。わが子は1ヶ月間ずっとそばにいたはずなのに、しみじみと実感できたのはこのときだったわけです!写真には〝効果・効能〟のようなものがあると思いました。そして、他の人はどうだろうと思ったのです。」

−結婚して、子どもが生まれて。仕事はどう変化していったのですか?

「子宮の病気で子どもを産めるかわからないという時に、夫が「結婚しよう」と言ってくれました。当時彼は無職。仕事の無い夫と産めないかもしれない妻という心許ない2人で結婚。無事に子どもが授かりましたが、産後には夫にひどいことを言ってしまうといういわゆる〝産後ブルー〟を経験し、〝お母さん〟の感情の中にあるものについて考えるようになりました。そうしたことも、出産撮影に繋がっていったと思います。」

−そうだったんですね。

「ただ、いつ生まれるかわからない出産を撮るというのは、幼い子がいる私には難しいことでした。お互いの両親が離れており、夫の協力は不可欠。どうしてもやりたいと主人に打ち明けると、主人は「なんとかするしかないね」と言ってくれました。夫がそういうスタンスでいてくれるので、仕事ができていると思います。」

なんとかするしかない状況に、力をもらって

−確かに……。状況に力をもらうっていい言葉ですね。今は長崎に住んでいらっしゃいますが、二人の故郷ではないということで、頼るところが少ないのでは?と思うのですが……。

「そうですね。基本的に私が出張の時は、夫が時間を作ってくれますが、本当に困った時は近所の方やママ友に頭を下げてお願いします。東京にいた時も、大家さんに見てもらうことがありました。」

—自分から歩み寄るんですね。そういうことがきっかけで出会う縁もありますね。すごい、私の中でない感覚でした。

「子どもはすぐに熱を出しますし、予定通りにできないことだらけ。なるべくお互いの仕事を調整して対処しますが、どうしようもない時は、思い切って周囲に頼ります。というか、そうするしか他に方法がない!ある意味、なんとかするしかない状況に力をもらって、今までよりもう一歩踏み出す。そういう機会を子どもたちに与えてもらっているのかもしれません。こうした中で子どもたちは元気に育ってくれているから、保育園はじめ、周囲の人への感謝は大きいです。」

子どもは遊びの中で、自分を見つけている

−はい、子どもが与えてくれるものってたくさんあります。私、最初は、子育てって「子どもの世話をするもの」だと思っていたんですよ。でも、保育という仕事に出会い、どうやらそれは間違っていたなと思って。共に暮らしていくものなんだと気付きました。繁延さんが撮影されていたりんごの木の柴田愛子さんの本(※)のお写真を見ても、すごく子どもたちの姿があるがまま写し出されていてとても好きでした。繁延さんが子どもを撮影するときに気をつけていることはありますか?

「大人がこうなってほしいという思いじゃなくて、こどもって、まだ言葉が少ないから、動きに出ているんですよね。だから、それを受け取っていく感じです。りんごの木は、フリーな状態が多く、居場所も曖昧な部分が多いから、こどもたちが、どうしようかなって思っている姿が見えやすいなあと思います。しぜんの国も、すごく大人と子どもたちの関係性、距離の取り方がとてもいいなあと思って見つめていました。私も通いたいくらいです(笑)」

−フリーな時間があるということは、自分で自分のことを考えられる時間があるっていうことですよね。

「そうですね。シャッター押していますが、そうした子どもの観察をているに過ぎない気がします。子育てしながら、わが子を眺めたり発する言葉を聞ききながら、よく〝子どもって哲学的な存在だな〟と思うんです。そうしてモヤモヤと考えながら、まだ言葉にならないものが写真に反映されてくるような。いまの私にとって、写真と子どもは切り離せない感じがあります。」

—ご自身のお子さんたちは、どんな保育園で過ごしたのですか?

「東京では近所の区立保育園でしたし、長崎でも普通の認可保育園に今も娘が通っています。私、先生ってみんないいなって思うんです。親身ですよね。大切にしてくれているなと思って。朝、一緒に保育園に行って、タッチして別れて、それで、またお迎え来て再会する。小さな感動をいつももらっています」

取材を追えて

人が生きていくということは、いつもままならないことばかりです。それをどうしていくか、どうとらえていくか、ということが自分の後ろに出来て来た道なのでしょう。繁延さんは、結婚、出産、仕事と、いつも「状況に力をもらっていた」とおっしゃっていましたが、力があるから出来たことじゃなくて、いつもその状況を力に変えてきたのだと思います。

そんなしなやかな気持ちがあるから、出産というある種、本当にプライベートな空間を一緒に過ごして欲しい、一緒に見つめたい、と相互に思える関係性がなりたち、繁延さんの出産写真に繋がっていくのだと思いました。

また、しぜんの国の風景を、繁延さんは大切に撮影してくださいました。そこには、私が日常愛を感じる風景がつまっていました。その根底に生命への深い気持ちがあって、それは保育園の写真も、出産の写真も変わらない大きな脈絡があるのではないかと思います。次回は、その部分についても聞いてみたいと思っています。

(注)『子育てに悩んでいるあなたへ あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます
著/柴田愛子(小学館)
本体1,200円+税

繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)

写真家。兵庫県姫路市うまれ。桑沢デザイン研究所卒。雑誌や広告での撮影のほか、出産撮影や子どもの撮影、また農・猟に関わる撮影も。近著に『うまれるものがたり』『長崎と天草の教会を旅して』(共にマイナビ出版)などがある。『母の友』(福音館書店)、『kodomoe』(白泉社)、長崎新聞などで連載中。現在、5冊目となる書籍の執筆中。夫と3人の子どもと長崎で暮らしている。

 

 

齋藤美和(さいとうみわ)
しぜんの国保育園smallvillage園長。書籍や雑誌の編集、執筆の仕事を経て、2005年より「しぜんの国保育園」で働きはじめる。主に子育て支援を担当し、地域の親子のためのプログラムを企画運営する。2017年当園の副園長となる。また保育実践を重ねていくと共に『保育の友』『遊育』『edu』などで「こども」をテーマにした執筆やインタビューを行う。2015年には初の翻訳絵本『自然のとびら』(アノニマスタジオ)が第5回「街の本屋さんが選んだ絵本大賞」第2位、第7回ようちえん絵本大賞を受賞。山崎小学校スクールボード理事。
齋藤美和 Instagram 「しぜんの国保育園

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