目次
長編小説「オリバー・ツイスト」とは
まずは、本作の基本情報および作者についてを押さえておきましょう。
イギリスを代表する文豪の長編小説
『オリバー・ツイスト(原題:Oliver Twist)』は、イギリス・ヴィクトリア朝時代を代表する小説家チャールズ・ディケンズによって書かれた長編小説です。
もともとは1837年から1839年までイギリスの文芸誌『ベントリーズ・ミセラニー』に月刊分載され、その後、連載終了前の1838年11月に全3巻の書籍として刊行されました。
20世紀に入ると舞台化・ミュージカル化が盛んにされ、1968年にはミュージカル映画『オリバー!』が大ヒットしアカデミー賞を受賞。1988年にはディズニーによって、本作を原案としたアニメ映画『オリバー ニューヨーク子猫ものがたり』が公開されました。
作者のチャールズ・ディケンズってどんな人?
『オリバー・ツイスト』の作者は、先述したとおり、イギリスの小説家チャールズ・ディケンズ(チャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ/Charles John Huffam Dickens)です。『オリバー・ツイスト』のほか、『クリスマス・キャロル』『大いなる遺産』『二都物語』『デイヴィッド・コパフィールド』等々の作品を執筆しており、そのどれもがたびたび映像化され、今現在も広く親しまれています。
ディケンズは中流階級に生まれたものの、子どものうちに実家が破産したことで、12歳で靴工場で労働をはじめていたりと、その生活は厳しいものだったと言われます。
ディケンズによる作品では、下層階級出身の人物や弱者の視点によって、社会の不条理を描かれている場合が多いのですが、このような作風には、自身の少年時代の記憶が大きな影響を与えていると考えられています。
あらすじ・ストーリー紹介
ここからは、『オリバー・ツイスト』のあらすじを見ていきましょう。詳しいあらすじと、お子さんに説明しやすい簡単なあらすじの2種類にまとめました。
詳しいあらすじ
オリバーの誕生と救貧院・養育院での暮らし
ロンドンからおよそ75マイルほど離れた、イギリスのある地方都市の救貧院で生まれたオリバー。
生き倒れになって運ばれてきた若い女性がオリバーの母親でしたが、オリバーを産むと間もなく死んでしまったため、オリバーは生まれながらにして孤児となりました。オリバーは養育院に送られ、他の孤児たちとともに日常的な虐待と放置の中で生き延びます。
ある日、ひもじい子どもたちが食事のおかわりをねだる人をくじ引きで決めると、オリバーがその役割を担うことに。おかゆのおかわりをねだったがためにオリバーは役人から目をつけられ、監禁され、ある葬儀屋に売られることとなりました。
しかしながら、ここでも先輩格からいじめられ、オリバーはロンドンへと夜逃げしました。
ロンドンで窃盗団の一員に
ロンドンへとたどり着いたオリバーは、スリの少年と出会ったことから、ユダヤ人のフェイギンが率いる窃盗団の一員となってしまいます。
ある日、窃盗団の少年たちは、書店でブラウンローさんという紳士の持ち物を盗みます。そこに居合わせたオリバーは逃げ遅れて捕われてしまいますが、誤解が解かれて釈放されると、そのブラウンローさんに引き取られることになりました。
しかしながら、そこで幸せに暮らしはじめたのも束の間、ふたたび窃盗団の元へと連れ戻されてしまうオリバー。その後、窃盗団の一員のサイクスとともに強盗を強いられたオリバーは、強盗先の家主に発砲されて負傷、さらには置き去りにされ、今度は、その家の家主人であるメイリー夫人と幼女のローズに保護されることとなりました。
モンクスの策略とナンシーの死
同じ頃に、モンクスという男性が、オリバーのことを嗅ぎ回っていました。そして、オリバーを悪人に仕立て上げるように窃盗団の頭のフェイギンに依頼したり、オリバーの母親の遺品を捨て、オリバーの身元の証拠を隠滅したり……。
この状況を知ったのは、窃盗団のサイクスの愛人であるナンシーでした。ナンシーはオリバーを助けるべく、メイリー家のローズにすべてを打ち明けます。しかしながら、それがバレてしまい、ナンシーはサイクスによって惨殺されてしまいました。
オリバーとそれを取り巻く人々の真実
ナンシーの死をきっかけに、窃盗団は警察に追われるようになります。頭のフェイギンは逮捕され絞首刑となり、サイクスは逃走の途中で事故によって死んでしまいました。
同時に、オリバーを取り巻くさまざまな事実が明らかになっていきます。
オリバーを不利な状況に仕立て上げようとしていたモンクスは、実はオリバーの異母兄。オリバーを陥れて、父親の遺産を独占しようとしていたのです。また、ローズはオリバーの母の妹で、オリバーの父はあの親切なブラウンローさんの親友だったことが発覚します。
こうしてオリバーは、ようやくブラウンローさんの元で幸せな日々を過ごせることとなりました。
あらすじを簡単にまとめると…
「孤児」という、生まれながら不運な境遇に置かれていた少年オリバー。さまざまな困難に直面しながらも、純粋な心を持ち続けながらめげることなく必死に生き抜き、最終的には立派に成長して身内の知人に引き取られ、幸せに暮らすこととなる物語です。
主な登場人物
ここでは、本作の主な登場人物をおさらいしておきましょう。
オリバー・ツイスト
救貧院で生まれた孤児。純粋な心を持ち、常に感謝の気持ちを忘れない。
フェイギン
少年を集めた窃盗団の頭。オリバーを無理やり仲間に引き入れる。
ビル・サイクス
フェイギンの仲間。負傷したオリバーを見捨てたり、窃盗団を密告したナンシーをためらいもなく撲殺したり、非道な心の持ち主。
ナンシー
サイクスの情婦。素直で心優しい女性で、オリバーを助けるために窃盗団を密告する。
ブラウンロー
窃盗団の少年に持ち物を盗まれたことがきっかけで、オリバーと知り合う紳士。オリバーを自宅に迎え入れて保護する。
モンクス
オリバーを敵視し、憎む青年。
当時の時代背景は?|小説から学ぶ貧困
当時のイギリスは、本作に描かれているような深刻な貧困問題を実際に抱えていました。ここでは、本作が書かれた時代の背景について解説していきます。
イギリスでは貧民が増加
本作が発表された1937年から1939年頃のイギリスは、産業革命の真っ只中にありました。このことによって貧富の格差が顕著になり、庶民の暮らしは苦しいものに。児童労働や家庭内暴力、犯罪者としての児童の雇用、ストリートチルドレン等々、貧困に紐付いた深刻な問題が作中と同様に蔓延していました。
救貧法の施行・救貧院の設置
そんな貧困層を救済するため、というていで施行されたのは「救貧法」という法です。この法律によって、自立して生活ができない高齢者や病人、失業者、孤児たちは「救貧院」と呼ばれる施設で、労働と引き換えに最低限の食事と住居を与えられました。
しかしながら、運営費用が税金であったことや、宗教改革による「働かざる者、食べるべからず」という考え方の広まりによって、その実態は決して慈善的なものではありませんでした。作中で描かれたように、「貧困者の監獄」と呼ばれるほどの強制労働の場であったと言われています。
作者が伝えたかったことは
ディケンズは、自身もまた子どものうちに労働を強いられてきた貧困者のひとりでした。強制労働の過酷さや、そのような労働環境の悲惨さ、貧困から連なるありとあらゆる苦難。そして、このような状況を生む制度への強い批判が、本作には込められているのではないでしょうか。
結末はどうなる?
あらすじでも述べたとおり、本作の結末では、オリバーとそれを取り巻く人々の関係が明らかになります。
ローズはオリバーの母の妹で、オリバーの父はあの親切なブラウンローさんの親友。オリバーを憎み、不利な状況に仕立て上げようとしていたモンクスは、実はオリバーの異母兄で、オリバーを陥れて父親の遺産を独占しようとしていたこともわかりました。
父親の遺産は、本来はオリバーひとりが貰えるものでしたが、ブラウンローさんの計らいによって、モンクスと折半することになります。しかしながら、モンクスはすぐにそれを使い果たして、再び詐欺などの悪の道へ。投獄されたのち、獄中で持病が重くなり死んでしまいました。
オリバーはブラウンローさんの養子となり、深く愛されながら暮らしました。
「オリバー・ツイスト」を読む・見るなら… |おすすめの書籍&映画
小説としてはもちろん、映画や舞台作品としても愛される本作。最後に、『オリバー・ツイスト』の物語を楽しむのにおすすめの書籍と映像作品ご紹介します。
オリバー・ツイスト (光文社古典新訳文庫)
『オリバー・ツイスト』の新訳&完訳版。本作はボリュームが多いため、上下巻に分冊される場合が大半ですが、このバージョンであれば1冊で最初から最後までを楽しむことができます。リズミカルな文章に、挿絵も多く挿入されていることから「読みやすい」と大好評の一冊です。
オリバー! [Blu-ray]
1968年にイギリス・アメリカの合作映画として製作されたミュージカル映画版。ディケンズによる物語を、名曲とダンス、そして美しい映像によって表現します。第41回アカデミー賞で作品賞、監督賞など6部門を受賞した名作です。
貧困をはじめとした社会問題について考えるきっかけに。
今回は、19世紀のイギリスに蔓延した貧困問題に基づく小説『オリバー・ツイスト』をご紹介してきました。
180年前の物語でありながら、作中に描かれた人物たちの悲痛な思いや、それでも生き抜こうとする力強い意思は、今でも新鮮に響きます。貧困をはじめとした社会問題について考えるきっかけとして、ぜひ本作に触れてみてくださいね。
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文・構成/羽吹理美