令和の時代に実写化映画化されたことが運命的!
映画『沈黙の艦隊』が制作されるという第一報を耳にした時、きっと気概のあるチームが覚悟を持って映像化に踏み切ったんだろうなと、非常に興味をそそられました。内容が内容だけに、誰もがそう簡単に手を挙げる作品ではないと思ったので。
なんといっても「核抑止力」についてかなり深く斬り込んだ野心作です。原作コミックが連載されたのは1988年~1996年ですが、実際に今、他国で戦争が起きており、冷戦時代とは異なる国際情勢となった2023年の令和の時代に、本作が実写映画化されることには、ある種、映画としての宿命を感じたりもします。
冒頭のほうで、大沢たかお演じる主人公の海江田四郎が「地球の70%は海だ。これほど広大な海を前にして、どうして人は争うのだろうか」と静かに問うシーンがあります。映画を観る人たちはきっと、その答えをずっと模索していくんだと思います。
プロデューサーも兼任する大沢たかおの信念と闘志を感じる意欲作
日本の近海で、海上自衛隊の潜水艦が米原潜に衝突し沈没。艦長の海江田四郎(大沢たかお)ら全76名が死亡と報道されます。ところがその事故は、日米政府が極秘に建造した高性能原潜「シーバット」に彼らを乗務させるための偽装工作だったのです。
米艦隊所属となったシーバットの艦長に任命された海江田ですが、なんとシーバットに核ミサイルを積載し、突如、逃亡します。え!どういうこと?となりますよね。
やがて海江田が、自身を国家元首とする独立戦闘国家「やまと」を全世界に宣言したため、やまとは核テロリストとして認定。そこで、海自ディーゼル艦「たつなみ」が、アメリカよりも先にやまとを捕獲すべく追いかけていきます! 果たして海江田の行為は大義か、反逆か。彼の目的とはいかに!?
主演の大沢さんは、本作でプロデューサーも務め、並々ならぬ熱意を持って本作に臨みました。振り返れば、大沢さんは2年間の休業を経て出演した『AI 崩壊』(20)での会見で、今後について「メーターを振り切ってる、一番挑戦している作品だけをやって、自分の俳優人生を終わろうと決めて戻ったんです」と確固たる決意を口にしていた姿が印象的でした。
それ以降、大沢さんが関わる作品は個人的に注目してきましたが、確かに関わってきたのはチャレンジングな作品ばかり。現在大ヒット中の『キングダム 運命の炎』での天下の大将軍・王騎役も好評を博している大沢さんですが、本作に懸けた情熱も相当のもので、それは劇中での重厚な演技からも伝わってきます。
舞台が潜水艦だけに、彼自身の大きなアクションはありません。感情の起伏を見せることなく、虎視眈々と戦況を見据え、己の信念を貫いていく海江田はクールというよりも、脅威を感じさせます。
また、クルーからの信頼は非常に厚く、常にどっしりと構えている海江田ですが、そこは大沢さんのプロデューサーとしての立ち位置ともオーバーラップし、大いに説得力を与えています。
実物の潜水艦を撮影に使用!臨場感あふれる映像が圧巻
本作はAmazonスタジオが制作していますが、日本の劇場版映画を手掛けるのは今回が初となりました。防衛省・海上自衛隊の協力により、邦画では初めて実物の潜水艦を撮影に使用したので、しっかりとした画が撮られていて、臨場感や没入感が違いますし、説明し難いような潜水艦ならではの閉塞感すら伝わってきます。
劇中では、クラシック音楽が巧みに散りばめられていますが、緊迫感あふれる政治サスペンスをより効果的に盛り上げていきます。ずっと張り詰めたままで、一時も気を許せません。
「当たり前の日常の裏で、とんでもないことが起きている」。これは劇中の台詞ですが、まさにそのとおりだなと痛感させられます。現実を見渡しても、一触即発の事態をいつ招くかもわからない不安定な国際情勢なので、エンタメというフィルターを通して、改めていろんなことを考えさせられそう。
また、大沢さんのほか、玉木宏、上戸彩、江口洋介などオールスターキャストと言っていいほど、豪華なキャスト陣がそれぞれの持場で力を発揮しているので、彼らのアンサンブルも非常に見応えがあります。もちろん、願わくば、本作はまさにできるだけ映像や音響の設備が整った大スクリーンで体感していただきたいです。
監督:吉野耕平 原作:かわぐちかいじ「沈黙の艦隊」(講談社「モーニング」)
出演:大沢たかお、玉木宏、上戸彩、江口洋介…ほか
公式HP:silent-service.jp
文/山崎伸子
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