「自由電子」ってどのような電子? 特徴や役割、他の電子との違いとは【親子でプチ物理】

自由電子は身近に存在し、人間の生活にも深く関わっている粒子です。しかしながら、普段の暮らしの中で自由電子を意識する機会は少ないかもしれません。自由電子が持つ特徴や役割などについて、分かりやすく解説していきます。

自由電子とは何?

自由電子とは、そもそも何を指す言葉なのでしょうか。電子の定義や、他の電子との違いもあわせて見ていきましょう。

自由に動き回る電子のこと

天然の物質は全て、「原子」と呼ばれる細かい粒子が集まってできています。また原子の中には、電子・陽子・中性子といった、さらに細かな粒子があることが分かってきました。

「原子」の構造。原子核のまわりを電子が電子殻に沿って回っている。この電子殻の軌道から飛び出した電子が「自由電子」。

電子は通常、陽子と中性子で作られる「原子核」の周りを、電子殻と呼ばれる軌道に沿って飛び回っています。ただし一部の物質や真空中では、電子殻から離脱して自由に動ける電子があります。

このように電子のうち、原子にしばられずに自由に動けるもののことを、自由電子と呼ぶのです。自由電子に対して、原子内でしばられて自由に動けない電子は「束縛電子」と呼ばれます。

通常は金属内部の電子を指す

自由電子は宇宙空間などにも存在しますが、通常は金属内部の電子を指します。全ての金属は、自由電子を持つと考えてよいでしょう。

金属の原子核は電子を引き付ける力が弱く、電子が離れていきやすい性質があります。原子から離れた電子は、複数の金属原子の間で共有され、原子同士を結合させます。

こうした自由電子による金属原子の結合を「金属結合」、金属結合でできた結晶を「金属結晶」と呼ぶことも覚えておくとよいでしょう。

金属結合のしくみ。自由電子と陽イオンの間のクーロン力(静電気力、静電引力)によって結合する。

自由電子がもたらす金属の特徴

内部に自由電子を持つことで、金属には他の物質とは異なるさまざまな特徴が見られます。自由電子がもたらす金属の性質を紹介します。

電気が流れやすい

金属が電気をよく通すことは、知っている人も多いでしょう。金属が電気を通しやすい理由は、自由電子にあります。

電子はマイナスの電気を帯びた粒子でもあり、その粒子が川の流れのように一斉に同じ方向へ移動することで、物質内を電流が流れます。ただし電子が移動するには、原子の束縛を受けない自由電子でなくてはなりません。

「自由電子が集まって流れている」状態が、電気の正体といってもよいでしょう。金属の内部には電気の元ともいえる自由電子がたくさんあるため、他の物質に比べて電流が流れやすくなっているのです。

熱を伝えやすい

金属製のカップに熱い飲み物を入れると、陶器や木などのカップに入れたときよりも、持ち手や飲み口が早く熱くなります。これは、自由電子が素早く広範囲に熱を運んでいくために起こる現象です。

金属以外の物質では、まず温度が高いほうの原子が熱エネルギーによって振動を始め、その振動が隣の原子に伝わることで、徐々に熱が伝わっていきます(上の左図)。一方の金属は、高温となった自由電子が原子間をすり抜けるように移動するので、熱が早く全体に伝わるのです(上の右図)。

なお電気も熱も、伝わりやすさは自由電子の量に比例します。最も自由電子量が多い金属は銀で、銅と金が次に続きます。

光沢がある

アルミ箔や金の指輪、銀のスプーンなど、滑らかな金属の表面はみな光って見えます。こうした金属の見た目を決めているのも、実は自由電子です。

自由電子には光を吸収することで振動し、光を放出する性質があります。反射された光によって、人間の目には金属の表面が光って見えるのです。

銀・金・銅のように金属によって色が違うことを不思議に思う人もいるでしょう。これは、金属によって自由電子が反射する光の波長の範囲が異なるためです。金は黄緑・緑・赤系の色を反射するため黄金色に輝き、銅は主に赤系の色を反射するため赤っぽく見えます。

銀やアルミニウムは可視光線のほとんどを反射するため銀白色になり、一方で鉄などは可視光線のほとんどを吸収するため、黒っぽい色に見えるのです。

金属の種類によって、自由電子が反射する光の色(波長)が異なる。

展性・延性がある

金属には、たたくと薄く広がる「展性」と引っ張ると伸びる「延性」という性質があります。プラスチックやガラスなど金属以外の物質は、たたく・引っ張るなどの力を加えると壊れますが、金属は広がったり伸びたりと形が変わります。この性質にも、自由電子が深く関わっています。

物質に力が加わると、通常は原子の位置がずれて、結合が破壊されます。しかし金属は、自由電子が原子のずれに合わせて動くので、強い力が加わっても結合状態を保てるのです。

金属が持つ展性や延性は、さまざまなシーンで活用されています。展性を利用した例には金箔やアルミ箔、延性には送電線のワイヤーや針金などが挙げられます。

なお、展性・延性ともに最も大きな金属は「金」です。熟練した職人にかかれば、約2gの金が畳1枚分の広さにまで伸ばせることが知られています。

自由電子にまつわる疑問

電子はそもそもいつ、誰が発見した粒子なのでしょうか。金属以外に自由電子を持つ物質があるのかどうかも、気になるポイントです。自由電子にまつわる二つの疑問に答えます。

電子を発見したのは誰?

電子は1897年に、イギリスの物理学者「ジョゼフ・ジョン・トムソン」によって発見されました。電子の発見により、「これ以上分解できない」と考えられていた原子は、もっと小さな粒子で構成されていることが証明されます。

前述の通り、電子はマイナスの電気を帯びた粒子です。しかし原子自体は、電気を帯びていません。そのためトムソンは、原子の中にプラスの電気を帯びた雲のような広がりがあり、その中に電子が散らばって、お互いに打ち消し合っていると考えたのです。

トムソンの考えた原子の構造は、パン生地にレーズンが散らばる様子に似ていることから、「レーズンパン・モデル」や「ブドウパン・モデル」などと呼ばれています。

1911年には、イギリスの物理学者「アーネスト・ラザフォード」が原子核を発見し、現在よく使われている、原子核の周りを電子が飛び回る原子模型を完成させました。

自由電子は金属以外にも存在する?

自由電子は、金属以外の物質にも存在します。鉛筆の芯などに使われる「黒鉛」は炭素の仲間ですが、内部に自由電子を持ち、熱や電気をよく通すことが知られています。

近年よく見聞きする「半導体」も、自由電子を持つ物質です。半導体は普段は電気を通しませんが、温度を上げたり不純物を混ぜたりすると、自由電子ができて電気を通しやすくなります。

半導体を使うと電流をコントロールできるため、パソコンやスマートフォンなどの電子機器には欠かせない物質として重要視されています。

身近に存在する自由電子を知ろう

自由電子は主に金属の内部で、自由に動ける状態の電子を指します。パパとママの結婚指輪にも、料理に使う鉄の鍋にも、自由電子が含まれています。

原子や電子はとても小さくて肉眼では見えないため、言葉だけ聞くと難しく感じがちです。しかしアクセサリーや調理器具など、普段から目にするものに存在すると考えれば親しみがわき、イメージしやすくなります。

さまざまな物質を引き合いに出しながら、自由電子への理解を深めていきましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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