お正月はお餅がアブナイ
年末年始は家族や祖父母、親戚などが集まって、ワイワイと楽しく過ごす機会があると思います。特にお正月になるとおせち料理だけでなく、お雑煮や焼き餅などを食べる習慣・文化が日本にはありますから、お餅を食べる機会も増える時期になります。
しかし、お餅は独特の粘りや食感、形などから、のどに詰まらせて息ができなくなる窒息事故の原因となる主要な食品としても知られ、海外メディアでは「サイレント・キラー(静かなる殺し屋)」として取り上げられたこともあります。
食品による窒息事故の実態は厚生労働省の人口動態調査によると、65歳以上の高齢者に多くて死亡者数は年間3000人を超え、80歳以上が7割以上を占めています。救急搬送件数ではお餅が原因となるものが最も多く、重症化率も高くなっています。
高齢者のお餅の誤飲による窒息事故の死亡者は、消費者庁による2018~2019年のデータ分析の結果、65歳以上では2018年で363人、2019年で298人となり、合計661人に及びました。しかも、お餅による窒息死亡事故の約43%が、正月三が日を中心として1月中に発生しました(図1)。
一方、子どもに関して消費者庁が人口動態調査情報をもとに分析したところ、14歳以下の子どもがお餅などの食品を誤飲した窒息事故で2014~2019年までの6年間に80人が亡くなりました。そのうち0歳が最も多く、5歳以下が9割以上を占めました(図2)。
食品のリスク評価を担う省庁は、内閣府食品安全委員会です。2008年7月のこんにゃく入りミニカップゼリーによる子どもの死亡事故では、2009年4月に同委員会にリスク評価が依頼され、リスク評価を2010年6月に公表しています。
子どもの誤飲・窒息事故の要因
高齢者では加齢による咀嚼力低下や歯の欠損、脳血管障害などの疾患や嚥下(飲み込み)機能障害などが事故につながります。
子どもでは歯の発育・萌出の程度、摂食機能の発達具合、食べる時の行動などが関係すると言われています。
乳歯が生え揃っていない3歳未満の乳幼児では噛む機能(咀嚼機能)が不十分で、その結果として飲み込む機能(嚥下機能)にも悪影響が出てしまいます。食べ物が誤って気管に入って誤飲しても、子どもは咳(せき)の反射で吐き出す力が弱いため、窒息リスクが上がります。
また、窒息事故は食品側の要素も関係します。表面の柔らかさや弾力性、硬さ、噛み切りにくさといった食感、大きさ、形状などが影響します。窒息を起こしやすい食品には、以下のような特徴があります。
・丸みがあり、つるっとしている物(プチトマト、ブドウ、うずらの卵、ソーセージなど)
・粘着性が高く、唾液を吸収して飲み込みにくい物(お餅、パン類など)
・固くて噛み切りにくい物(豆、ナッツ類、リンゴなど)
2月初旬にある節分の豆まきの大豆も要注意です。これらの食品を子どもが食べる時には、目を離さないようにしましょう。
食品以外にも注意したい子どもの誤飲
子どもの誤飲による窒息事故は、食品に限らないのが特徴です。おもちゃや消しゴムなどの文房具、硬貨、ボタンなどの家庭で普通に見られる様々な小物が原因となって窒息事故が発生します。特に0~3歳の乳幼児に起きやすいので気を付けましょう。
子どもは生後5~6か月頃になると、成長過程の自然な行動として手につかんだものを何でも口に運ぶようになりますので、食品以外でも窒息事故が発生する要因になります。
2023年6月、経済産業省は相次ぐ誤飲事故の報告を受け、強力な磁石(ネオジム磁石)を使ったおもちゃや水を吸収すると膨らむボールの一部の製品について製造・販売を禁止しました。しかしその一方で、海外の危険なおもちゃがネットなどを通じて日本に流入する現状があるため、注意が必要です。
お餅は何歳くらいから食べていいの?
お餅がのどに詰まる原因は粘着質で噛みにくく、十分に噛まないまま飲み込むためです。
高齢者は噛み砕く力が弱く、お餅を噛まずに丸飲みすることで気管に詰まって窒息を起こします。子どもも同様、お餅を丸飲みすると誤飲リスクが高まります。しかも、子どもの気管は大人に比べてかなり細く、大きくないお餅でも詰まりやすい傾向があります。
お餅は小さく小分けにして食べても、口の中に残っていたらくっついて大きなお餅になる可能性があります。ですから、一口のお餅を確実に飲み込んだことを確認してから、次の一口を食べさせるようにしてください。
お餅を安全に食べるには、次の条件を満たしている必要があります。
・上下の乳歯が生え揃っている(通常20本)。
・食材をしっかりと噛むことができる。
・親の言いつけを理解し、行動できる。
・遊ばないで落ち着いて食事ができる。
これらの条件をすべてクリアできる3歳頃にはお餅を食べても危険度は少なくなりますが、保護者の見守りは忘れないでくださいね。
子どもの誤飲・窒息事故を防ぐために
EUやアメリカ、韓国などでは誤飲・窒息事故で販売が禁止されるなど、厳しい措置で食品が販売規制されるケースがありますが、日本では継続して販売されることがありますので、私たち消費者が気を配る必要があります。いくつかの注意点を挙げてみましょう。
・食べやすい大きさや形に整える。
・よく噛んで食べる。
・水分を摂ってのどを潤してから食べさせる。
・一口の量を多くしない。
・食事中に子どもがびっくりするようなことをしない。
さらに、消費者庁は特に以下の点などを強調して注意を呼び掛けています。
・硬くて噛み砕く必要のある食品(豆やナッツ類など)を5歳以下の子どもには食べさせない。
・球状の食品(ミニトマトやブドウなど)を丸ごと食べさせない。
・姿勢を正し、集中して食べる。
これらの注意点を日々の食事で意識するように心掛けましょう。子どもの窒息事故は、政府広報や日本小児科学会などから広く情報提供されています(図3)。
万が一、誤飲・窒息事故を起こしたら
のどに詰まった物が気道を閉塞すると、短い時間で重篤化します。窒息後、間もなく顔色が青紫色などに変色するチアノーゼ状態となり、わずか数分で呼吸停止し意識を失います。その後、心臓が止まって脳障害が始まり、脳死に至る可能性が高まります。
ですから、直ちに119番通報して救急車を呼ぶとともに周りの人に応援を頼み、救急隊が到着するまでにできることはしておきましょう。万が一のために、応急手当を覚えておくことは非常に大切です。
日本小児科学会の資料によると、のどに詰まった物を取り除くための応急手当には胸部突き上げ法、背部叩打法、腹部突き上げ法(ハイムリッヒ法)などがあります。詳細は成書にゆずりますが、ここでは東京消防庁の広報動画をご紹介します。
ただし、呼び掛けに応じないなど、反応がない場合は、心肺蘇生法(心臓マッサージ、人工呼吸)を試みる必要があります。
このように誤飲・窒息事故は時間との勝負で、一刻を争います。このような不測の事態を招かないよう、事故を未然に防いで楽しいお正月を過ごしてくださいね。
こちらの記事もおすすめ
記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・厚生労働省:人口動態調査(2014~2019).
・消費者庁:年末年始、餅による窒息事故に御注意ください!.2020.
・消費者庁:食品による子どもの窒息・誤飲事故に注意!.2021.
・食品安全委員会:食品による窒息事故についてのリスク評価を行いました.食品安全24:2-3,2010.
・日本小児科学会:食品による窒息 子どもを守るためにできること.2020.