「ゲンがいい」「ゲンが悪い」「ゲンを担ぐ」の「ゲン」て何か知ってる?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

「ゲンを担ぐ」の「ゲン」の元になった言葉って?

「ゲンがいい(悪い)」「ゲンを担ぐ」の「ゲン」は、ある語をひっくり返して言った語がさらに変化して生まれた語だといわれています。もとになったある語とは、いったい何だったと思いますか?

 答えは「縁起(えんぎ)」です。

「縁起」は元々、仏教からきた言葉

「縁起」はもともとは仏教語で、仏教の根本的な世界観を表す語です。その意味は、「因縁によってあらゆる事象が、仮にそのようなものとして生起していること」(『例文 仏教語大辞典』)というものです。これが日本では、社寺、仏像、宝物などの沿革や由来をいうようになり、それを記した書画の類が盛んに作られるようになります。そしてそれらの書画では次第に神仏の霊験やご利益(りやく)を説くことに重点が置かれるようになったため、「縁起がいい(悪い)」などと言うときの、吉凶の前触れ、兆し、前兆という意味に変わっていったのです。

ひっくり返して使うようになったのは、江戸時代

この意味が変わった「縁起」を、江戸時代の人はたぶんしゃれて言ったのでしょう、この語をひっくり返して、「ぎえん(起縁)」と言うようになります。そしてこの「ぎえん」をつづめて言ったのが、吉凶のきざしの意味で使われる「げん」だと考えられているのです。

「げん」は漢字で「験」と書きます。ある物事に対して、よい前兆か悪い前兆かどうか気にすることを「験を担(かつ)ぐ」と言いますが、これも「縁起を担ぐ」という言い方からから生まれました。

なぜ、「担ぐ」なのか?

なぜ「担ぐ」なのかというと、つまらない縁起や迷信を気に掛けることを「御幣(ごへい)を担ぐ」と言いますが、それから生まれた言い方だからです。「御幣」は、神主さんがお祓いのときに、裂いた麻やたたんで切った紙を細長い木に挟んだものを振りますが、それのことです。

ふだん何気なく使っている語も、実はけっこう奥が深いのです。

ところで、こちらのウンチクは知ってますか?気になる方はぜひ読んでみてください。

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神永(かみなが・さとる)
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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