復興予算とは?
テレビのニュースや新聞で、「復興予算」という言葉を見聞きしたことがある人は多いはずです。復興予算とは、どのような予算として位置付けられているのかを確認しましょう。
災害・戦争からの復旧・復興に使う予算
国の復興予算とは、災害や戦争からの復旧・復興に使う予算を指します。日本は地震や台風、津波などの自然災害が多い国です。大規模な災害が起こると、道路や鉄道などの公共インフラが被災したり、建物が倒壊したりして、街全体が大きな打撃を受けます。
国は予算をスピーディーに確保し、復興に向けた支援をスタートさせなければなりません。復興予算が必要になった場合、「補正予算」を組んで対応するケースが多いですが、「予備費」が使われることもあります。
補正予算は、当初予算の執行ができなくなった際に、年度の途中で組み直される予算です。災害の発生時は、不足分を補うために予算が増額されます。予備費は、不測の事態に備えて確保しておく「使い道が決まっていない予算」です。
東日本大震災の復興予算はどのくらい?
日本では、2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。マグニチュード9.0の海溝型地震で、災害関連死を含む死者は1万9,765人、行方不明者は2,553人、全壊した住家は12万2039棟に上っています(2023年3月9日現在)。
東日本大震災の復興事業は、内閣に設置された「復興庁」が担っています。復興庁の資料によると、2011〜2025年までの復興関連予算は、32兆9,000億円程度です。しかし、2021年度までの執行見込額を見ると、既に39兆4,000億円以上となっています。
復興予算の主な使い道
復興予算は、どのような用途に使われるのでしょうか? 熊本地震や東日本大震災など過去の事例を見ると、主な用途は以下の通りです。
●住宅の再建・まちづくり
●産業・なりわいの再生
●災害弔慰金
●震災復興特別交付税
●原子力災害からの復興・環境再生
●被災者の支援(避難所の運営・被災者の心のケアなど)
「災害弔慰金(さいがいちょういきん)」とは、災害で死亡した人の遺族に支給されるお金です。震災で重度の障害を受けた人に対しては、「災害障害見舞金」が支給されます。
「震災復興特別交付税」とは、東日本大震災で被災した自治体の財政負担を支援するために創設された制度です。通常収支とは別に財源を確保し、各自治体の状況に合わせて分配しています。
復興予算の一部は「復興特別税」で賄う
「多額の復興予算は、どこから集めるのだろう」と疑問を感じている人も多いのではないでしょうか? 財源はさまざまですが、一部は増税によって賄われています。東日本大震災の復興予算については、所得税と住民税に「復興特別税」が加算されました。詳細を見ていきましょう。
復興特別所得税
東日本大震災の復興財源を確保するため、2011年12月に「復興特別所得税」が創設されました。所得税の納税義務がある個人は、2013〜2037年の各年分の所得税に復興特別所得税を上乗せして納めるルールです。
給与所得者の場合、2013年1月1日以降の給与から復興特別所得税が源泉徴収されています。個人事業主は、確定申告時に所得税と復興特別所得税を合わせて申告・納税しなければなりません。上乗せ分の税額は、基準所得税額×2.1%で算出します。
なお、法人に課せられる「復興特別法人税」は、2014年の税制改正で課税期間が1年短縮され、現在は廃止されています。
住民税
住民税(個人)は、市町村民税(東京都23区では特別区民税)と都道府県民税の総称です。地方税の一種で、主に公共施設や上下水道、学校教育といった行政サービスの活動費に充てられます。
住民税は所得に応じて負担する「所得割」と、所得に関係なく一定額を負担する「均等割」によって成り立っており、均等割にのみ復興特別税が加算されています。適用期間は2014~2023年度の10年間で、金額は以下の通りです。
●市町村民税(東京都23区では特別区民税):500円/年
●都道府県民税:500円/年
税金以外の復興予算の集め方
復興予算は、増税のみで賄っているわけではありません。一部は、国有財産の売却や歳出の削減、復興債などによって捻出されています。ここでは、東日本大震災の復興を一例として、復興特別税以外の財源の集め方を紹介します。
国有財産の売却
復興財源を確保するため、国は国有財産である「日本郵政株式」の一部を売却しました。売却は計3回にわたり、自己株式の取得と合わせて累計4兆円程度の売却収入を得ています。
●1次売却(2015年):約1兆4,000億円
●2次売却(2021年6月):約1兆4,000億円
●自己株式取得(2021年6月):約2,500億円
●3次売却(2021年10月):約8,000億円
「国有財産」とは、国が所有する全ての財産のことです。財産というと現金や物品を思い浮かべる人が多いですが、不動産や株式、債券なども財産に含まれます。国では売却や貸し付けなどを通じて、国有財産を有効活用しています。
歳出の削減
国の収入および支出は、4月から翌年3月までの「会計年度」の中で計算されます。その間の収入は「歳入」、支出は「歳出」と呼ばれます。
また、歳出から国債費や地方交付税交付金などを除いたものは「一般歳出」と呼ばれ、その30%以上が医療や介護、年金などに関する「社会保障関係費」です。
東日本大震災の復興財源は、子ども手当の上積み部分の見直しや公務員人件費の見直し、高速道路無料化の社会実験の中止などによって確保されました。
復興債
国有財産の売却や歳出の削減などで財源を賄えない場合は、国債の一種である「復興債」を発行し、投資家からお金を集めます。発行期間は2011~2025年度で、復興事業の財源となる税収が入るまでのつなぎとして使われます。
「国債」とは国が発行する債券の一種で、国の借金のようなものです。国債が満期日を迎えた場合は、投資家に元本と利子を償還しなければなりません。一般的に、国債で得たお金は一般会計の歳入に組み込まれますが、復興債は東日本大震災の復興のために使われます。
出典:国債とは : 財務省
復興予算を取り巻く現状と課題
復興予算は、被災地の復興のために使わなければなりません。増税や歳出の削減などによって確保されたお金は、正しく使われているのでしょうか? 復興予算を取り巻く現状と課題について解説します。
復興特別所得税が防衛費の財源に
2023年6月に「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法(防衛財源確保法)」が成立しました。復興特別所得税の税率を2.1%から1.1%に引き下げる代わりに、所得税の税額を一律1.0%上乗せし、防衛費の財源に充てるというものです。
被災地からは、復興特別所得税の引き下げで、復興事業に遅れが生じるのではないかという声が上がっています。2037年までとしていた復興特別所得税の課税期間を延長することで、復興財源の総額を維持する方向であり、国民の負担は増える見通しです。
ソフト面の復興には時間を要する
被災地の復興は、ハード面とソフト面の両方が重要です。資金や労働力を投入すればハード面の復興は着々と進みますが、ソフト面の復興には長い時間を要するのが現実です。
震災から10年もたつと、助成金がなくなったり、復興予算が大幅に削減されたりして、ソフト面の復興がおざなりにされやすくなります。「街は整備されたのに人が戻らない」という状況が生まれてしまうかもしれません。
ソフト面の復興には、長期的なプランニングに基づき被災者の心のケアや伝承支援、コミュニティーの形成などに力を入れていく必要があります。甚大な被害を受けた地域では、地域経済の活性化や雇用機会の創出といった「地域再生」が大きな課題となるでしょう。
復興予算の財源と使い道を知ろう
災害の規模が大きければ大きいほど、街の復興や被災者の心のケア、地域再生などに多額の費用が必要となります。予備費で賄うケースもありますが、国は補正予算を組み、さまざまな方法で復興予算を集めるのが一般的です。
東日本大震災の復興においては、所得税・住民税・法人税に復興特別税が加算され、多くの国民から公平・平等に復興予算が集められています。被災地の一刻も早い復興のためには、必要なお金がいつ・どこで確保され、どのような用途に使われているのかを知り、他人事ではなく自分事として考えていく必要があるでしょう。
こちらの記事もおすすめ
構成・文/HugKum編集部