とにかく計算が速くなりたかった小学生時代
―先生は幼少期から算数が好きだったのでしょうか?
岩波さん:物心がついたころには、算数が好きだなという感覚がありました。10歳くらいには科目の中ではダントツで算数が好きでした。
学校の勉強のほかにも算数オリンピックに挑戦したり、小学校で学んだ知識で解ける問題だけどすごく難しくて大人でも手こずる、考えることが楽しいパズルみたいな問題が好きで、ゲームと同じくらい楽しかった。ひたすらやっていましたね(笑)。
計算がどれだけ速くなれるのか、子どもの頃から試行錯誤していた
―小学生の頃の算数の勉強法は?
岩波さん:計算が速くできるように練習していましたね。速いことが命!みたいな感じで。僕が小学生のときは、例えばドリルを1ページやるのにどのくらいかかるかということを意識して、タイマーで時間を計っていました。
いきなり速くはならないんですけど、意識していると脳は自然により上手くできる方法を探すので、繰り返すうちに問題を読むスピードも速くなります。
具体的には簡単な計算ドリルでの1ケタ+1ケタの計算がある程度速くできるようになったら、今度は2ケタ×2ケタなどのように、複雑な計算で3分かかるものを1分で解けるようにする。さまざまな種類の計算をまんべんなく速くできるようになるのが、将来的にもいちばん役に立つと思います。
2ケタ×2ケタのかけ算を、たったひとつの方法で暗算できる
―そんななか、今回開発された「あゆみ算」が掲載されたこのドリルは、マスターするだけで計算が速くなるのですよね?
岩波さん:はい。頭の中で数字を思い浮かべて計算をするときに、例えば7×6=42は暗記した九九でかけ算をすれば解けるのですが、この問題の7と6を覚えていられるから答えが出せるんですよね。
だけど、76×8は?と言われると「あれ?」ってなるわけです。ここでは7、6、8と3つの数字を覚えて暗算しなくてはならないので、7×8=56だなとか、次は何の数字を掛けるんだっけ?と。計算をしているとそこに気をとられて忘れてしまう。
人間はワーキングメモリという能力にも関連した、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する力があるのですが、思っているより覚えていられる数字の桁数が少ないのです。だから、たくさん覚えておこうとするのではなく、なるべく少ない桁数でワーキングメモリをうまく活用して計算するのが暗算では大事なことなのです。
―「あゆみ算」とは、どのような暗算法なのですか?
岩波さん:あゆみ算とは、10×10~99×99まで、8100通りあるすべての2ケタ×2ケタのかけ算を、たったひとつの方法で暗算できる方法です。2ケタ×2ケタの計算をするときの「頭の中に思い浮かべる桁数を減らす」ということに特化しています。
2ケタ×2ケタの暗算は、6桁くらいの数字を覚えておいて計算をしないといけないのですが、暗算では計算すら忘れてしまいます。そこで、3桁くらいの数字を減らして九九を計算するくらいの難易度に落とし、今自分が持っている脳のワーキングメモリにフィットするようにやり方を工夫しています。
―あゆみ算は小学生にもマスターできるのでしょうか?
岩波さん:1時間やればしっかりコツをつかめますよ! 高学年のお子さん7人に『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』を使った講座をしたときに、お子さんたちのなかには、最初は難しそうだなと気後れしている子もいました。
進めていくうちに「意外と簡単にできた!」と、1時間後には参加者全員が2ケタ×2ケタの暗算ができるようになっていました。子どもたちの自信に繋がり、新しい視点で数字に触れることで算数が少し好きになるきっかけになったようでした。
AI時代、ますます数学的思考が大事に
―これからの子どもたちはAI時代を生きることになります。計算も引き続き必要になりますか?
岩波さん:AIに使われるのではなく使う力。つまりAIを理解する力は絶対に必要になります。AIに使われないためには、しくみを理解しなくてはいけない。
僕はスタンフォード大学でAIを学んでいて、例えばChatGPTはアウトプットが言葉だから文法や国語に関係しているように見えるのですが、中身は全て数学(計算)なんですよね。文章を全て一度ぶつ切りにし、数字に直して関数に掛けて文字に当てはめているのです。
算数・数学を理解することは、これからのAI時代では現在よりも何倍もの需要が見込まれます。理系、文系に関わらず数学は必須になると思います。
算数嫌いを克服する方法&親の声掛けで気をつけること
―とはいえ、算数に苦手意識を持っている子は多いです。算数のつまづき、苦手を克服させてあげるためにはどうすればいいですか?
岩波さん:高学年になってくると計算が複雑になって覚えることが増え、教科書にも次から次へと新しい問題がでてきます。そこで1つの単元がわからなくなると途端に嫌になってしまうものです。
自分がわからないところを一気に全部振り返るのは大変なので、まずは1つずつ、できそうな単元だけクリアにしてみる。それで理解できたら自信を取り戻せるはずなので、時間がかかっても1つずつ進めていくことが大切です。
―子どもの勉強に対する親の声がけで気をつけることはありますか?
岩波さん:僕が子どもの頃はご褒美につられて勉強をしていました(笑)。今日中にこの問題集がここまで終わったらゲームセンターに行っていいよとか、小さなご褒美があれば続くんですよね。
もし上手くいかなかったときがあったとしても、「もう二度とご褒美はあげない」ではなくリベンジはいつでも受け付けてあげてください。楽しいことと勉強は、うまく組み合わせてあげるのが親御さんの腕の見せ所かと思いますね。
『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』で育む算数力
2011年に発売された著書『6時間でできる!2ケタ×2ケタの暗算 岩波メソッドゴースト暗算』が大ヒットした岩波邦明さんが、全く新しい2ケタ×2ケタの暗算メソッドを開発。前作より大幅に簡潔になって進化した計算方法「あゆみ算」を筆算よりも早く解けるドリル形式でわかりやすく解説します。
そして、この「あゆみ算」をマスターすると、空間認識能力が高まり、論理的思考力が身につくほか、算数が好きになると、岩波さんは話します。小学生が1日10分で全8100パターンの2ケタかけ算をマスターできる最強のドリルです。
詳細サイトは>こちら
筆者の小学6年生の息子もドリルに挑戦!「算数のドリルかぁ…」と気がすすまない様子でしたが、はじめてみると「なにこれ!なんでこんなに簡単に計算ができるの?」と夢中になって問題を解いていました。ドリルを終わらせたころには、2ケタ×2ケタの暗算ができるように。
暗算ができるようになった息子は、「算数が得意になったかも!」と自信がついたよう。ただ計算をするだけではなく、新しい計算方法を知り、どうして?もっと知りたい!と算数に興味を持つきっかけになりました。
算数力を伸ばすためには、まずはじめに算数を好きになる、楽しむことが大切だということを岩波さんは教えてくれました。
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お話を伺ったのは
2010年に中学受験の学習講座を主催するルイ・イーグル株式会社を設立。翌年、独自の暗算法をまとめた小学生向けドリル『岩波メソッド ゴースト暗算』(小学館)を刊行。シリーズ累計66万部の大ヒットを記録。現在は、米国スタンフォード大学の生徒として大学院コースでAIを学んでいる。
取材・文/やまさきけいこ