日本の内閣制度の基礎知識
日本政府は、1885年に太政官制度を廃止し、新たに内閣制度を設けました。内閣制度では、国会で議決された「内閣総理大臣」が政治運営の中心です。最初に、内閣の基本をおさらいしましょう。
「行政権」をつかさどる国の機関
日本の政治は「三権分立」が基本です。権力の濫用によって国民の権利や自由が損なわれないように、以下の三つの機関に権力を分散させています。
●国会:立法権(法律を制定する権限)
●内閣:行政権(行政を行う権限)
●裁判所:司法権(法に基づいて判断を下す権限)
行政権を担う内閣は、内閣総理大臣をトップとする組織です。一般的な行政事務や国務のほか、以下のような役割を担います。
●外交関係の処理
●条約の締結
●国会への予算の提出
●政令の制定
実際の行政事務は、内閣の統轄下にある「内閣府」や「各省庁」が分担して遂行します。
内閣総理大臣や国務大臣で構成される
内閣は、内閣総理大臣や国務大臣らで構成される行政機関です。
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決によって指名されます。「国会」は、国民に選挙で選ばれた代表者(国会議員)によって成り立っているため、内閣総理大臣の指名には国民の意思が反映されているといえるでしょう。
国務大臣は、内閣総理大臣によって任命されます。定員は14人以内が原則で、特別な事情がある際には3人まで増員が可能です。意思決定は内閣総理大臣が単独で行うのではなく、全大臣による話し合い(閣議)が基本とされています。
内閣・内閣官房・内閣府の違いは?
国の行政機関には「内閣」「内閣官房」「内閣府」など、「内閣」と名の付くものが複数あります。同一の機関と認識している人もいますが、それぞれ役割が異なります。
簡単にいえば、内閣官房と内閣府は「内閣を支えるポジション」です。内閣府は、内閣官房が決定した戦略や方針に基づいて、より具体的な企画立案・総合調整などを行います。
また、内閣の統轄の下には「13省庁」が配置されています。よく「1府13省庁」といわれますが、「1府」とは内閣府のことです。
内閣官房の役割と主な幹部
新内閣を発足させる際、最初に組織されるのが内閣官房です。中でも「内閣官房長官」は極めて重要なポストとされています。内閣官房の役割と幹部を見ていきましょう。
内閣総理大臣を直接的に補佐する機関
内閣官房は、内閣の補助機関という位置付けです。内閣総理大臣を直接的に補佐する機関として、以下のような役割を担います。
●閣議事項の整理や内閣の庶務
●国政に関する基本方針の企画立案
●国政に関する重要事項の総合調整
●情報の収集・調査・分析
●内政・外交・安全保障の危機管理
このように内閣官房は、国政の重要事項に広く関与するのが特徴です。内閣官房の職員は、各省庁からの出向者が多いといわれています。
内閣官房長官が事務を統率
内閣官房のトップは、内閣総理大臣です。その下には、事務を統率する「内閣官房長官」と3人の「内閣官房副長官」が配置されています。
内閣総理大臣を補佐・支援する機関としては、内閣総務官室・内閣情報調査室・内閣広報室・内閣衛星情報センター・内閣サイバーセキュリティセンターなどがあり、それぞれが連携しながら任務を遂行しています。
事務を統率する内閣官房長官は、国務大臣の中でも「総理の右腕」や「内閣の要」と呼ばれる極めて重要なポストです。内閣総理大臣の意向を各省庁や国民に伝えるほか、各省庁の意見をくみ上げる役割を担います。
内閣官房長官は記者会見をする人?
テレビのニュースで、内閣官房長官が記者会見に応じているのを見たことがある人も多いでしょう。内閣官房長官には、政府の公式見解を発表する仕事があります。
定例記者会見は、月~金曜日の午前・午後の1日2回です。「政府広報オンライン」では、記者会見の動画を視聴できます。政府の基本方針や計画、最新の見解を知りたい人はぜひチェックしてみましょう。
第2次岸田第2次改造内閣(2023年9月13日発足)で定例記者会見を行っているのは、林芳正(はやしよしまさ)内閣官房長官です。
内閣府の役割と主な幹部
内閣府も内閣を支える機関の一つです。内閣官房を助けつつ、各省庁間の連携がうまくいくように連絡調整をする役割があります。具体的な役割と主な幹部を解説します。
各省庁より一段高い立場で企画や調整を担う
内閣府は、内閣総理大臣の補佐・支援体制の強化を目的に創設されました。各省庁と横並びで事務を遂行しながらも、各省庁より一段高い立場で企画や調整を担う機関です。具体的には、以下のような役割を担います。
●内閣官房の総合戦略機能のサポート
●内閣の重要政策に関する企画立案・総合調整
●内閣総理大臣が担当するにふさわしい行政事務(分担管理事務)の処理
男女共同参画社会の促進や北方領土問題の解決、沖縄の振興・開発など、どの省でも対応できない業務は、内閣府が担当するのが一般的です。
内閣官房長官や特命担当大臣を設置
内閣府のトップは内閣総理大臣です。内閣総理大臣のリーダーシップを支えるため、以下のようなメンバーが配置されています。
●内閣官房長官および副長官
●特命担当大臣および副大臣
●大臣政務官
「特命担当大臣」とは、内閣府にのみ設置されるポジションで、複数の省にまたがるテーマを担うケースが多いようです。国務大臣の中から選ばれるため、国務大臣と特命担当大臣の両方の肩書を持ちます。法律上、設置を必須とするものもあれば、一代の内閣で終了するものもあります。
「大臣政務官」は、大臣をサポートしながら政務を担うポジションです。内閣府の公式ウェブサイトでは、大臣・副大臣・大臣政務官のプロフィールや担当分野表を公開しています。
内閣府が管轄する庁は4つ
内閣府は、「宮内庁」「金融庁」「消費者庁」「こども家庭庁」を管轄しています。
宮内庁は、皇室関係の国家事務を担う機関です。主に、皇室の宮中行事や国際親善、皇室関連施設の維持管理などを行います。
金融庁は、金融システムの安定と利用者の保護を図りながら、金融の円滑化を目指す機関です。金融のルールづくりや各金融機関の監視なども行っています。
消費者庁は消費者行政を担う機関で、2009年に発足しました。契約不履行や産地の偽装、不適正な勧誘・取引など、人々の消費生活に関する問題に対処します。
こども家庭庁は、子どもの福祉向上を目指す機関です。子どもや若者が直面する課題を解決すると同時に、子ども中心社会の実現を目指しています。
内閣総理大臣を身近で支える人々
内閣官房や内閣府のように、内閣総理大臣をサポートする役割を担っているのが「内閣総理大臣補佐官」と「内閣総理大臣秘書官」です。それぞれの特徴と業務内容を見ていきましょう。
内閣総理大臣補佐官
内閣総理大臣補佐官は、特定の分野で政策の企画立案を行ったり、専門的な見地から助言をしたりするポジションです。内閣総理大臣が重視する分野に精通した国会議員や官僚から選出されるケースが多く、定員は5人以内と定められています。
内閣官房長官や国務大臣などと違い、組織を代表する立場にはありません。ほかの職員に対する指揮命令権を持たない上に、指揮命令を受けないのが特徴です。内閣総理大臣の直属スタッフと捉えましょう。
内閣総理大臣秘書官
内閣総理大臣秘書官は、内閣総理大臣の業務全般を裏で支える国家公務員で、政務秘書官と事務秘書官の複数人で構成されるのが一般的です。各省庁から選出されたトップ人材が多く、各省庁との政策調整やスケジュール管理、国会答弁の準備などを幅広く担います。
また、内閣総理大臣の最も身近な人物であることから、「内閣総理大臣の代弁者」と見なされることが少なくありません。過去には秘書官が不適切な発言をし、内閣総理大臣が記者から追及を受けました。
内閣官房と内閣府の違い・役割を理解しよう
日本の政治は、内閣総理大臣を中心とする内閣が担っています。内閣官房と内閣府は内閣をサポートする補助機関であり、どちらも内閣総理大臣がトップを務めます。
「内閣」と名の付く機関は混同されやすいですが、それぞれが異なる役割を持っている点に注目しましょう。内閣官房や内閣府の公式ウェブサイトには、組織図や幹部のプロフィールが掲載されています。政権を担っている人の顔が分かると、政治がより身近なものに感じられるかもしれません。
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構成・文/HugKum編集部