不登校だった僕だからわかる「学校に行きたくない」子どもとの向き合い方|人気本「子どもが10倍うれしい親のひとこと」の著者・てつさんに聞く

子どもが「学校に行きたくないと言っている」「休んではいないが、行くのが困難なことがある」など、不登校についてのお悩みを持つママ・パパは多いと思います。今回は、自身も不登校の経験を持ち、子育て支援について発信しているてつさんにお話をうかがいました。

不登校児童生徒の数は過去最多。背景にはどんなことがある?

文部科学省「不登校の現状に関する認識」によると、不登校児童生徒とは、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは、社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」とされています。2023年度に文部科学省から発表されたデータによると、不登校児童は過去最多を記録しました。

元・繊細っ子だからわかる 子どもが10倍うれしい親のひとこと』(KADOKAWA刊)の著者・てつさんに、最近の不登校の原因を聞いてみました。

子どもの予定を詰め込み過ぎているかも⁉

「やらされていると感じる習い事だと、子どもは消耗しているかも」

—原因はわからないけど、学校に行くのを嫌がる場合、どんなことが考えられますか?

てつさん(以下;てつ) 本来、学校に通うだけでも子どもの心身は消耗しています。しかし、近年は習い事や塾の時間が増え、おうちでゆっくり回復する時間が減り、子どもたちが学校で元気に過ごせるエネルギーが低下している感じがします。子どもがやりたいと言うより、親がやって欲しくて始めた習い事はもちろん、子どもが習いたいと言って始めたことでも、イメージと違っていたり、思っていたほど楽しくなかったりと、習い事を始める前とあとでは心境が変わることは良くある事です。

—そういうことはありますよね。練習をしない、宿題をしないという姿が見られても何も言わないほうがいいのでしょうか?

てつ まずは、子どもの負担を軽くしてあげることが大切です。子どもは自分がやりたくないことを「やらされている」と感じ、習い事に行くことで消耗していることがあります。親が、子どもにもっと頑張って欲しいという願望があったとしても、それを言葉にしてしまうと、さらに子どもが負担を感じてしまうので、習い事のことを直接聞いたり、意見したりするよりは、「今日の夕飯は何にしようか?」「友達とどんなことして遊んでいるの?」という他愛もない日常会話や、「おはよう」「いってらっしゃい」などの挨拶を交わすだけでもコミュニケーションを取ることはできています。
もし、気になるようなら、子どもが習い事の話をしてきたら、「どんなことをしているの?」と聞いてみたり、習い事の先生に尋ねてみたりするのがいいと思います。

—なるほど。つい予定を詰め込んでしまうことは、みなさんよくあることだと思うので、気をつけたほうがいいですね。

てつ そうなんです。習い事に行く前は普通なのに、習い事に行ってうまくいかなくて笑顔が減る、ごはんを食べる量が減る、朝起きられなくなる、顔色が悪くなるなど、さまざまなサインが見えてくることがあるので、子どものことをよく観察してみてください。

—わかりました。では、「学校に行きたくない」明確な原因がある場合、どのようにしたらいいでしょうか?

てつ お友達や先生との関係など、「〇〇は嫌だと自分で伝えられる?」「そういう時は、〇〇と伝えるといいよ」など、子どもだけで解決できることなのかを親も一緒に考えてあげるといいですね。
そして、試してみたけど状況が変わらない場合は、その環境の責任者(学校であれば先生、習い事であればコーチなど)と親が話をし、本人の不安を取り除くためにできることを明確化してあげるといいでしょう。
それでも状況が変わらない場合は、環境そのものを変えるということも選択肢に入れるといいと思います。

「学校に行きたくない」発言の本気度がわからない

「子どもがSOSを出したとき、遮断してしまうと助けを出しにくくなる」

—「学校に行きたくない」と言ったのに、翌日は言わなかったり、前の日は「行ける」と言ったのに「行きたくない」と言い出したり……。どこまで本気かわからないこともよくあります。

てつ 基本的には全て本気と捉えていいと思います。「学校に行きたくない」という発言自体がSOSのサイン。楽しく学校に行っている時は、その発言が出ることはないので、「行きたくない理由は何かな?」「学校で何かあったのかな?」と、気にかけながら「何が引っかかっているのか」をなるべくやさしく聞いてみるようにしましょう。

―やさしく、ができないことがあるんですよね(笑)

てつ そうですよね。最終的には学校に行かせようとするのはいいと思うのですが、子どもが弱音を吐いた時に「パツン」と遮断してしまうと、その後SOSが出せなくなってしまうこともあります。なので、なるべく吐き出させるような声かけをして、どういうところが嫌なのかを聞いてみるといいですね。それが聞ければ、解決策に向かって対処することができます。

—つい遮断してしまうことがあるので、気をつけたいと思います。

てつ 不登校の子は、いい子、優等生、親の期待に応えてきた子が多くて、不調を訴えるまで、ご両親が気づかないというパターンもよくあります。なので、SOSを感じたらなるべく話を聞いてあげて欲しいですね。子どもを元気づけようとすると、何かいいことを言わなくてはいけないのでは?と思うこともあるかもしれませんが、その必要はありません。子どもが話してきたことを「そうなんだね」「どう思ったの?」など、褒めるでも叱るでもないあっさりした声かけで、他愛のない日常会話をすればいいと思います。

気持ちをうまく言語化できない子どもにはどうする?

「あいさつや日常会話を大切に、まずは子どもの話を聞いてあげてほしい」

―学校に行きたくない理由をうまく説明できない子どももいると思うのですが。

てつ そうですね。「なんで行きたくないの?」と聞いても、大人が求めているような回答が返ってくるとは限りません。なので、まずは親子の信頼関係を築くことが大事だと思います。

―具体的にはどんなことをすればいいですか?

てつ あいさつを交わしたり、他愛のない日常会話をしたりというところからスタートして、子どもが話してきたことをしっかり聞いてあげることが大切です。
そして、それに対して否定や遮断をしないということも重要なポイントになります。そうでないと、子どもは「否定されるかもしれない」「言うのが恥ずかしい」「怒られるのがこわい」などの理由で、話をしなくなったり、ごまかしたりするようになります。「お母さんに話したら聞いてくれる」という信頼関係を築くことができたら、いろんな話をしてくれるようになるでしょう。

―不登校の理由が学校内にあった場合は、学校に連絡をしたほうがいいですか?

てつ したほうがいいです。例えば、担任の先生に話しづらい場合は、スクールカウンセラーや、教務主任、保健室の先生など、子どものことを理解してくれていると思える人でもいいと思います。学校は、担任以外にも複数の先生が子どもに関わっており、頼れる人がまわりにいる仕組みを作ってくれているはずです。

勉強の遅れやコミュニケーション不足など、不登校にまつわる心配事

「回復していないのに、無理に勉強をやらせると勉強が嫌いになってしまう」

―不登校になった場合、勉強の遅れなどの心配事が出てくると思いますが、どのように解消していけばいいでしょうか?

てつ どの問題もそう簡単に解決できないということは大前提なのですが。まず、勉強の遅れに関しては、体力が回復し、顔色がよくなる、食欲が出てくるなど、自分の好きなことを楽しめるようになったら取り組むようにしましょう。
まだ回復していないのに、無理やりやらせてしまうと、勉強自体が嫌いになってしまいます。僕がサポートしている不登校児を持つお母さんに教えてもらったのですが、「すらら」というオンライン教材は、不登校でも出席扱いにできる制度(一定条件が必要)もあるようなので、おすすめできます。もちろん、小学校の教科書にそって自宅学習をするんでも大丈夫です。

―不登校になると、1日中誰にも会わないなんてこともあるかと思いますが、コミュニケーション能力ははぐくまれるのでしょうか?

てつ 家族と会話をすることで、十分はぐくまれると思います。まずは、他愛のない会話から始めて、どんなことでも話し合えるような関係性を築いてみてください。

―運動不足についてはどうですか?

てつ 本人が動く気がないのに、無理やり運動をさせると、運動が嫌いになってしまうこともあるので、本人が「外に出たい」と思えるようなきっかけ作りをするのはいいかもしれません。「そこスーパーの横においしいアイス屋さんができたんだって」「この公園って長いすべり台が有名らしいよ」など、子どもが興味のありそうな話をする中で、体を動かす機会を見はかっらてみるといいと思います。

―不登校になった場合、フリースクールなども検討したほうがいいですか?

てつ 今はさまざまなフリースクールがあって、選択肢も増えてきています。そこには、いろいろな年齢の不登校の子どもが来ているので、悩みを相談しやすかったり、親に話しにくいことを話したりできます。スクールごとにカラーも違うようで、勉強や運動をするだけではなく、社会科見学としてカラオケに行くこともあると聞きました。フリースクールを検討する時は、子どもと一緒にHPを見たり、見学に行ったりして、どんなところが我が子に合うかを見極めるようにしてみてください。
首都圏ではフリースクールの数も増えていますが、地方ではまだまだ少ないのが現状なので、オンライン型を検討してみるのもいいと思います。先生に個別相談をしたり、保護者同士のコミュニティがあったりして、悩みを共有することもできます。

―子どもが悩んでいるのはもちろんですが、親御さんも悩んでいますよね。

てつ そうなんです。僕が相談にのっているのは、お母さんがほとんどなんですが、お父さんが非協力的で夫婦が不仲になり、不登校の問題をお母さんが全て背負っているというケースも多く見られます。なので、お母さん自身が楽しいことを見つけて、生活を充実させることはとても大切です。仕事が好きな方は働くことが息抜きになったり、お友達といっしょにお酒を飲みに行ったり、ヨガやアロマなどの趣味を楽しんだり、どんなことでもいいと思います。

―お母さんが笑顔でいることは大切なことですよね。他に不登校の子どもにおすすめなことはありますか?

てつ 釣りやキャンプなどの自然体験がおすすめです。不登校の子どもは“繊細さん”と呼ばれる感覚過敏な子が多くいます。感覚過敏の子は、人ごみが苦手で、アクティブな趣味があまり得意ではない傾向があるので、自然の音を聞きながらゆっくりとした時間を過ごすことができる釣りやキャンプは、とても向いていると言えます。

子どもの不登校に悩んだ時こそじっくりと会話をしてみよう

「学校に行きたくない」という声が子どもから聞こえると、つい「なんで行きたくないの?」「何があったの!」と問いただすような声かけをしてしまいがちですよね。しかし、てつさんの言うように、日常会話をくり返す中で、まずはどんなことでも話しやすい関係性を作りながら、不登校と向き合っていくことが大切だと感じました。

『元・繊細っ子だからわかる 子どもが10倍うれしい親のひとこと』

著/てつ|KADOKAWA刊|1540円

「学校、どうだった?」「 友達たくさんできた?」一見わが子を思いやったこの言葉、実はちょっと残念なひとことなんだそう。つい言ってしまう、あるあるひとことを、これならうれしいひとことに、今日から変えていきましょう。子育てカウンセラーとしての活動するてつさんが親にはわからない子ども目線から、お子さんが10倍うれしくなる声のかけ方をお伝えします。

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お話を伺ったのは…

てつ | 繊細っこ子育てサポーター

名古屋市在住、大学院卒。中学・高校では保健室登校や不登校を経験。繊細な気質を持った自分に、母親からの温かな声かけや対応から自信を持てるようになった経験をもとに、子育てカウンセラー、著者として活動中。相談者は累計約13,000人で、個別相談も受付中。主催する子育て講座「繊細っこ未来プログラム」の受講者は過去約500人。著書は「元・繊細っ子だからわかる 子どもが10倍うれしい親のひとこと」

Instagram @sensai_kosodate

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写真/五十嵐 美弥 取材・文/本間綾

 

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