目次
社会全体で子どもの教育を支えるカタリバの活動
教育は社会全体で支える。行政と連携して被災児の子ども支援も
カタリバの目指すものと活動について教えてください。
認定NPO法人カタリバ は、どんな環境に生まれ育った10代も未来を創り出す意欲と創造性を育める社会を目指す教育NPOです。
カタリバの活動は、「ディスカバー」「レジリエンス」「グローカル」「ポスト・トラウマティック・グロース」という4つのテーマを軸にプロジェクトを立ち上げ、10代の可能性を広げるための実験的・実証的なとりくみを全国で取り組んでいます。
ベースとなっている考え方は「社会につながる学び」を届け、その環境を作ること。子どもの教育は、「親」「先生」だけでするものではなく、社会全体で支えていくものだと考えています。社会課題に向き合う、そんな姿勢で活動しています。
具体的にはどのような活動をされていますか。
カタリバはさまざまな課題に取り組んでいますが、現在スピード感を持って動いているプロジェクトが災害時の子ども支援です。
東日本大震災を境に、NPOの法改正が進みました。NPO法人を2段階にし、国税庁が求める高いレベルのガバナンスとコンプライアンスを求める代わりに「認定NPO法人」として、寄付の税額控除が認められるNPO法人が作れるようになりました。行政の下請けではない、対等な協働関係をつくるには、財源を確保しないと活動も充実させられません。認定NPO法人になって以降、カタリバも被災地で、子どもたちや親、先生のケアを行政と連携して取り組めるようになりました。
安心した教育環境を届けるのに、まず、先生の生活の安全を確保しないといけません。被災された先生も、ご自分の生活で精一杯な状況です。そういう一つ一つのことを、カタリバも一緒になってサポートしていく。人とのつながりの中に、学ぶ以上のことがたくさん詰まっています。
行政との連携やサービスが増え、令和6年能登半島地震に際しては、1億円に及ぶご寄付が集まり、今も連日のように現地と行ったり来たりの日々です。
不登校児童生徒の増加が必然である理由
学校教育は変わらないが、社会は変わってきている
不登校児童生徒は年々増えていますが、今村さんはどのようにとらえていますか。
学校教育は変わらないけれど、社会は変わってきています。家庭と地域の関わりも変わってきています。個々がフィーチャーされる時代になってきているという背景を考えると、不登校状態のこどもが増えることはある意味必然だろうなとも思います。
今は100円均一ショップに代表されるように、どのご家庭でもお子さんのためにお子さんのベストな環境を安価にカスタマイズできてしまう。そうすると、どうして先生1人に対して40人の生徒が同じ空間で、同じペースで、同じ内容を学ぶの?という、集団行動にアレルギー反応を持ってしまう子どもが出てくるのも否めないと思います。
不登校について、コロナ前後で変化はありましたか。
オンラインが取り入れられることで「学び方は多様であっていい」ことにみんなが気づきましたよね。政府もオンライン教育用のPCやタブレットの整備にいち早く取り組んだので学校の進行も早かったです。一方で、「不登校のお子さんにはタブレットを渡せない」など…、まだオペレーションが整っていないところがあるということを聞きます。いずれにしても、オンライン学習が取り入れられたことで、
・不登校だった子どもがオンラインを通じて授業に参加できるようになった
・学校へ行けること、学校でみんなと直接会えることの喜びが増した
・マスクを外して友達と話せることに喜びを感じた
など、小さな発見や喜びを見出しました。どんな子どもたちにとっても、教育環境を新しい視点で見直す機会になったと思います。多様性を受けいれられるようになり、人とのつながりが大切だと気付いたことは、私たち大人にとっても大きな気づきになりました。
カタリバの不登校支援プログラム
不登校支援のきっかけは、公的な学びの場「おんせんキャンパス」づくりから
カタリバでは、不登校支援プログラムを展開されていますが、支援のきっかけは何だったのでしょうか。
カタリバが不登校支援に取り組み始めたきっかけは、2015年から継続している島根県雲南市との取り組みです。もともと島根県には23校の小中があるのですが、不登校児童生徒が多いという課題がありました。そこで、廃校となった旧温泉小学校の校舎を活用した、行政が認めたもう一つの公的な学びの場である教育支援センター『おんせんキャンパス』を島根県が設置し、運営をカタリバが委託する形で不登校支援に本格的に取り組むことになりました。
不登校児童生徒に、安心できる居場所と学びの機会を届け、自信と将来の希望につなげたい。そんなコンセプトで、おんせんキャパスでの不登校支援の取り組みがスタートしました。一人ひとりの習熟度に合わせた学習支援と共に、農作業や地域行事への参加などキャリア発達のための活動も取り入れています。
また、ご家庭や学校などにカタリバのスタッフが訪問する形での支援にも力を入れており、子どもとカタリバというつながりだけでなく、学校や保護者と密に連携をとりながら再登校や継続登校、進路実現を目指してサポートしています。一般的に教育支援センターでは不登校児童生徒の2〜3割しか繋がれないとされる中、県内の不登校児童生徒の約8割とつながっており孤立しないようにサポートしています。
メタバース空間を活用して作った「room-K」は子どもたちのもう一つの居場所
メタバース空間を活用した不登校支援にも取り組まれていると聞きました。
おんせんキャンパスの運営が布石となって、官民連携でメンタバース空間を活用した不登校支援「room-K」を展開しています。自治体、学校、教育支援センター等の公的リソースとの連携も大切にしていて、子どもたちの次の一歩に寄り添うオンライン教育支援センターといった位置付けです。room-Kは、子どもたちにとって仮想空間のもう一つの居場所になっています。
目指しているのは、子どもたちが再び社会とつながり、自分らしい学びの形を探すこと。オンライン支援がゴールではなく、リアルの場への接続を含めて、そのお子さんにとっての次の一歩に寄り添うことです。
room-Kを使う子どもたちの中で印象に残っているエピソードはありますか?
小学5年生〜中学3年生まで不登校だったお子さんのエピソードがあります。不登校のご家庭では、学校への不信感が強いことがよくありますが、こちらのお子さんと親御さんも、同様に学校への不信感がすごかったんです。
お子さんがroom-Kを使っている中で、カタリバから学校の先生にもroom-Kへの参加を促し3者が仮想空間で徐々に交流するようになっていました。あるとき、学校の先生がお子さんに「学校においでよ」って言ったんですね。それがきっかけとなって、中学3年生の後半に、学校というリアルの場で、お子さんとカタリバのメンバー、先生と3者が対面で会うに至りました。教室ではなく、個別に用意した別室でしたが、その子の大切な一歩です。
その後、対面もある通信制の学校に進学することも決まり、その子にとって安心できる居場所作りや自信、心の回復に少しでも寄り添えたのではないかと思います。
不登校、大人はどのように向き合っていくべきか
不登校にネガティブなレッテルを貼らない
“子どもの不登校”に、私たち大人はどのように向き合っていくべきでしょうか?
「不登校の子ども=主流(普通)でない」と捉えてしまいがちですが、そこには、今まで話してきたように社会環境、家庭環境などさまざまな要素が絡み合っています。不登校だからといって、ネガティブなレッテルを貼らないこと。大きな背景の中で、「先生」や「子ども」「親」の単位だけで悩んでもアプローチが分からなくなるし、両者の関係性が悪くなるだけです。
自己責任を追求しすぎず、「先生」と「子ども」の接点となるサービスや人を他に探して頼れる状態にすること。被害者意識を持たないこと。そういう姿勢が大切だと思います。
不登校にはフェーズがある
もう一つ、不登校について知ることも大切です。不登校には、フェーズがあります。不登校と言っても、休み始めから回復、復帰するまでに心のエネルギーが回復していくまでのフェーズがあります。
心のエネルギー回復曲線
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不登校初期
- ほとんどの親が寝耳に水!と思うものですが、実は不登校は”突然“起こるものではありません。初期には、子どもの心のエネルギーが下がっていることを表す以下のようなSOSサインが出ています。
□腹痛
□頭痛
□発熱
□吐き気
□眠れない
□起きられない
□めまい
□倦怠感
□食欲不振
□無気力
□イライラ
□集中力低下
□遅刻・欠席・早退が増える
□登校しても教室に入れなくなる
□友達との付き合いが減る
□家族と一緒に食事ができない
□学校の宿題ができなくなる
□提出物を出さなくなる
(「NPOカタリバがみんなと作った不登校親子のための教科書」ダイヤモンド社より)
このようなサインが出ている初期には、「今日の『疲れ度』は5段階のどのへん?」と聞いてみるなど、体調や気分について可視化しやすい指標で子どもに寄り添います。
休養前期〜後期〜回復期〜復帰
その後、子どもの心が壊れる寸前から落ち着いてくるまで、エネルギーが溜まって本人の決断ができるようになるまで、親御さんにも先生にも辛い時期がありますが、子どもの心のエネルギーを回復するまでのプロセスや各フェーズに合わせた向き合い方があります。
家庭内で抱えるのも大変ですので、できるだけ学校や第三者サービスに相談できる場や人を作ることをおすすめします。
責めない、問い詰めない、無理強いしない
不登校の原因は複雑に絡み合っているので、子どもに理由を問い詰めたり、責めたり、無理強いすることには、あまり意味はありません。
また、子どもが不登校になったら、1人で頑張る必要はありません。早い段階で、相談相手や専門家を味方につけたりしてください。最近では、学校内や役所でもさまざまな取り組みがあります。
NPOカタリバがみんなと作った不登校親子のための教科書
カタリバがみんなと作った、不登校の子どもに寄り添う親の伴走ガイドブックがあります。先輩親子、現場支援スタッフ、専門家などみなさんの知恵や経験を集約しているので、参考にしてみてください。
“子どもの不登校”は、社会全体で関わっていこう
子どもの不登校について、「親」だけ「先生」だけ「学校」だけで抱えないことが大切です。2024年4月から、カタリバの連携自治体数は6つになります。行政と連携をしながら、さらに地域資源に頼らずオンラインでも手を差し伸べるように一層整えていきます。10代の子どもたちの伴走者として、たくさんの人とお互いに伴走し合いながら、みんなと一緒に走っていけたらと思います。
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取材・文/太田さちか