目次
「馬耳東風」とは?
まずは、『馬耳東風』の読み方や意味をチェックしておきましょう。
読み方と意味
この言葉は、『馬耳東風』と書いて「ばじとうふう」と読みます。「人の意見や批評、忠言を気に留めず、反省しないこと。聞き流すこと」を意味します。
由来・語源
『馬耳東風』は、中国の故事を由来とする古事成語のひとつです。
古代中国の詩人・李白の『答王十二寒夜独有懐』の中に、「東風の馬耳を射るが如き有り」という詩の一節があります。この一節は、現代語では「良い香りの春風が馬の耳を吹きぬけても、馬にはなんの感動もないこと」という意味。これが転じて、「人から何を言われても聞き入れないこと」を喩えた言葉として『馬耳東風』が使われるようになりました。
「馬の耳に念仏」との違いは? 混同注意!
同じ「馬」という動物の「耳」が登場すること、また、「念仏」や「風」が無意味・無駄になるといった意味合いで用いられていることから、『馬の耳に念仏』と『馬耳東風』は混同されやすい言葉です。
しかしながら、『馬の耳に念仏』が「馬にありがたい念仏を聞かせても無駄なこと=助言をしてもまったく意味がない」という意味を持つのに対して、『馬耳東風』は「良い風が吹きぬけても、馬にはなんの感動もないこと=人から何を言われても聞き入れないこと」という意味。
よく似てはいるものの、『馬耳東風』は、人の意見に気づかず聞き流してしまうのではなく、意見されていることを重々承知の上で「あえて」聞き流すニュアンスがある点に注意しましょう。
使い方を例文でチェック!
ここからは、『馬耳東風』の使い方を例文でチェックしていきましょう。
1:何度言って聞かせても、彼はあくまでも【馬耳東風】の態度を崩さない。
このように、『馬耳東風』は「〜の態度」「〜の姿勢」などと組み合わせて使われることが多い言葉です。人からの意見を頑なに聞き入れない人に対して、批判的なニュアンスで使うことができます。
2:彼女は常に【馬耳東風】なので、いつか痛い目を見るだろう。
こちらも同様に、人の意見を聞き入れない人を批判的に言い表した例文。このように「彼女はいつも馬耳東風だ」と言い切る形で使うことも可能です。
3:早く【馬耳東風】の姿勢を改めて、先輩たちの助言を聞き入れたほうが良い。
このように相手の態度を批判しつつ、「助言を聞き入れたほうが良い」と意見する際にも用いることができます。
類語や言い換え表現は?
では、『馬耳東風』を言い換えたい場合は、どのような言葉が使えるのでしょうか。ここでは、言い換えに使えそうな類語をご紹介します。
1:蛙の面に水(かえるのつらにみず)
『蛙の面に水』とは、蛙にどんなに水をかけても効き目のないことから、「どんな非難にも何も感じない人」を意味する言葉です。「恥知らずな人」といった批判的なニュアンスがあり、『馬耳東風』に近い言葉と言えます。
ただし、『馬耳東風』が「意見を聞き流す」のに対して、こちらは「非難や罵倒を聞き流す」といった違いもあるので要注意。
2:暖簾に腕押し(のれんにうでおし)
『暖簾に腕押し』は、暖簾を押しても手応えがないことから、「何の手応えもなく、効き目もないこと」を意味します。
「他人から意見されても」のニュアンスは薄まりますが、「聞き流すこと」を言い表す『馬耳東風』に近い言葉といえるのではないでしょうか。
3:糠に釘(ぬかにくぎ)
『暖簾に腕押し』の類語でもある『糠に釘』もまた、『馬耳東風』に近い言葉として挙げられます。こちらも、糠に釘を刺してもなんの手応えもないことから、「手応えや効き目が全くないこと」を喩えたことわざです。
対義語は?
『馬耳東風』には明確に対となるような対義語が存在しません。ここでは、『馬耳東風』の反対に近い意味を持つ言葉を押さえておきましょう。
1:呼牛呼馬(こぎゅうこば)
『呼牛呼馬』とは、「牛と呼ばれれば自分を牛だと思い、馬と呼ばれれば馬だと思うこと=相手に言われたことをそのまま受け入れること」の意味を持つ四字熟語です。
『馬耳東風』は相手の意見に頑なに耳を貸さないのに対して、『呼牛呼馬』は相手の言いなりになるという意味があるため、対照的な言葉として挙げられます。
2:付和雷同(ふわらいどう)
『付和雷同』は、すぐに他人の意見に賛成するという意味の「付和」と、雷が鳴ると周りも同様に鳴り響くことを意味する「雷同」を組み合わせた四字熟語で、「自分でしっかりとした考えを持っておらず、安易に他人に賛成・同調してしまうこと」を意味する四字熟語です。
『馬耳東風』は相手の意見に頑なに耳を貸さないのに対して、こちらには流されやすいといったニュアンスがあるため、対照的な表現といえます。
英語表現は?
では、『馬耳東風』を英語で言い表したい場合はどのような表現を使うことができるのでしょうか。最後に、『馬耳東風』に近い意味を持つ英語表現をお伝えします。
1:praying to deaf ears
“praying to deaf ears”とは、“pray(祈る)”と“deaf ears(聞こえない耳)”を組み合わせた言葉で、「耳の聞こえない神に祈る」という意味を持つ表現です。
“like praying to deaf ears(まるで耳の聞こえない神に祈っているようだ)”の形で用いれば、人の意見を聞き流す『馬耳東風』に近い使い方ができます。
2:talking to a wall
“talking to a wall”は、直訳すると「壁と話す」という意味になります。こちらも“like talking to a wall(まるで壁と話しているようだ)”の形で使えば、『馬耳東風』や『暖簾に腕押し』のような意味合いを表現することができます。
『馬に念仏』『蛙の面に水』…意味も似ていて、動物を用いた言葉がいっぱい
今回は、『馬耳東風』の意味や由来から、使い方、関連語までを一挙にご紹介してきました。
『馬耳東風』のほかにも『馬に念仏』『蛙の面に水』のような、意味が近く、動物を用いた言葉が複数存在することに驚いた方もいるのではないでしょうか。他にはどんな言葉があるのか、ぜひチェックしてみてくださいね。
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構成・文/羽吹理美