世界で拡大する貿易摩擦 国家はどういった基準で貿易規制の対象品を選ぶの?【親子で語る国際問題】

いま知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は世界で拡大する貿易摩擦、その影響について学んでいきます。

貿易摩擦が世界で拡大中

近年、国際社会では国家が貿易相手国に対して、意図的に輸出入を停止したり、関税を引き上げたりするケースが大きな問題になっています。特に、米国と中国との間では貿易規制が激しくなっていて、たとえば、バイデン政権は5月に2兆8000億円相当の中国製品に対する関税を引き上げると発表しました。

引き上げの対象品は多岐に渡りますが、中国製電気自動車が25%から100%、車載用電池、鉄鋼などが7.5%から25%、太陽電池の関税が25%から50%などに引き上げられ、非先端の半導体や医療製品なども対象に含まれました、

米国は経済的に台頭する中国への警戒感を強めており、トランプ前政権も計4回にわたって3700億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を課しました。秋の大統領選でホワイトハウスへの返り咲きを狙うトランプ氏は、勝利すれば中国製品に対する関税を一律60%に引き上げると豪語しており、バイデン氏、トランプ氏のどちらが勝っても米国による中国への貿易規制措置は続くことでしょう。

一方、中国も近年、それに対抗するかのように貿易規制を強化しています。中国は関係が冷え込んだ台湾やオーストラリアに対し、台湾産の農産物やオーストラリア産のワインや牛肉の輸入を一方的に停止し、昨年は日本がその多くを中国に依存する希少金属ガリウム、ゲルマニウムの輸出規制を強化しました。また、ほぼ同時期には、日本産水産物の輸入も全面的に停止しました。

規制対象品は貿易相手国にどれくらい依存しているかによる

では、米中など国家はどういった判断で規制対象品を選んでいるのでしょうか。これについては完璧な答えは難しいのですが、1つに貿易相手国からの輸入をストップしても影響が少ない、他国からの輸入で対応できるという点です。

たとえば、中国はオーストラリア産のワインの輸入を停止しましたが、ワインの産地はフランスやスペイン、チリなど多くあり、欧州からの輸入を増やすことで十分に補うことが可能です。また、台湾産のパイナップルの輸入も停止しましたが、パイナップルもフィリピンなどから輸入すれば賄えることが考えられます。

もう1つは、貿易相手国が自国からの輸出を停止されれば困るという点です。日本では経済安全保障の強化の一環で、特定国からの輸入に依存することから脱却し、自国産化を強化する、友好国と生産などで協力することを進めていますが、貿易摩擦では貿易相手国の急所、アキレス腱をあえて狙ってくることがあり、日本企業としては特にそこを意識する必要があるでしょう。中国はガリウムとゲルマニウムの輸出規制を強化しましたが、日本はその多くを中国からの輸入に依存しています。

ここでは2つの点を紹介しましたが、今後も米中など国家はこういった点を意識して貿易規制を仕掛けてくる可能性が高いと言えるでしょう。

この記事のPOINT

①米国と中国の貿易摩擦はこの秋のアメリカ大統領選挙を経てより一層悪化する

②規制対象品は様々な理由で選択されるが、相手国への経済的牽制に大きく影響するものを意図的に選んでいる。

③製品や原材料を特定の国からの輸入に依存することは、貿易摩擦が起こった場合に大きなリスクとなる。

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記事執筆/国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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