ロシアがイスラム国に攻撃された理由は?
3月22日、ロシアの首都モスクワ郊外にあるコンサートホールで大規模な襲撃テロ事件が発生し、140人以上が死亡しました。6000人あまりの観客いた場内に武装した男4人組が押し入り、銃を無差別に乱射し、現場は逃げ惑う観客でパニック状態となりました。
事件後、イスラム国というイスラム過激派が犯行声明を出しました。
イスラム国とは2010年代半ばごろに中東のシリアとイラクで広大な領域を実行し、残忍なテロを繰り返してきたイスラム過激派です。
欧米諸国はアフガニスタンを拠点とするイスラム国の地域勢力、イスラム国ホラサン州が事件に関与したと主張していますが、ここではそもそもなぜロシアがイスラム国のテロの標的になったかを説明したいと思います。
イスラム国、イスラム過激派はロシアに対して反発
イスラム国、イスラム過激派というと欧米やイスラエルを敵視しているイメージがありますが、ロシアに対しても強く反発してきました。
イスラム国のシリアとイラクでのテロ活動 ロシアとは間接的に敵対関係
まず、イスラム国がシリアとイラクで10年ほど前にテロ活動を活発に行っていた当時、ロシアはイスラム国と敵対するシリアのアサド政権を軍事的に支援してきました。イスラム国への攻撃を行うアサド政権の軍隊が使用する武器をロシアが援助し、シリアに駐留するロシア軍もイスラム国の支配地域へ空爆を行うなどしてきましたので、イスラム国からするとそもそもロシアは敵となります。
アフリカ サヘル地域でテロ活動を行うイスラム国 VS 軍事政権と後ろ盾のロシア
また、近年マリやニジェール、ブルキナファソなどアフリカのサヘル地域では、ロシアの民間軍事会社ワグネルと呼ばれる組織が現地と軍事政権と関係を強化しています。サヘル地域ではイスラム国を支持するイスラム国サヘル州と呼ばれる武装勢力がテロ活動を活発に行っているのですが、同勢力はワグネルや軍事政権と対立し、頻繁に衝突しています。軍事政権と敵対するイスラム国にとって、それを支援するロシアはここでも敵となります。
イスラム国には反プーチンのロシア人外国人戦闘員も多数
さらに、イスラム国には3万人から4万人ともいわれる外国人戦闘員が加わっています。2010年代、主にトルコ経由で多くの外国人が戦闘目的にイスラム国に参加するためにシリアに流入しました。そして、その中には多くのロシア人が含まれます。
プーチン政権は長年、チェチェンやイングーシなどイスラム教徒が多いロシア南部カフカス地方で軍事的締め付けを強化し、多くのイスラム教徒が犠牲となりました。そういった反プーチンを掲げるイスラム教徒の数は多く、その中からイスラム国に加わった人々も少なくなりません。
このように3つの背景を紹介しただけでも、イスラム国がロシアに対して敵対意識を強く持っていることが分かります。5選を果たし、これからウクライナ侵攻を改めて進めていこうとするプーチン大統領にとって、今回のテロは大きな衝撃となったことは間違いありません。
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この記事のポイント
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1,イスラム国とロシアは、各地で直接的・間接的に敵対関係にある
2,反プーチン政権のロシア人戦闘員もイスラム国には多数参加している(ロシア南部にはもともとイスラム教徒が多かった)
3,今後ウクライナ侵攻を進めていくプーチン政権とイスラム国の敵対関係は一層悪化する
- 記事執筆/国際政治先生
- 国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う