【教えて!】「絶対音感」って何? どうやったら身につくの?
ピアノを習いたいリカちゃん。お財布と相談して渋い顔のママ。でも絶対音感という言葉が頭の中をぐるぐるしています。
絶対音感は特殊な才能だから向き不向きがある?などと考えると気持ちがぐらつきます。もっともリカちゃんのママは、絶対音感=音楽の才能? ぐらいしかわかっていないみたいですが……。
絶対音感って何でしょう? 小さいころから訓練すれば身につくのでしょうか? 教えて、ゆーまん博士!
【ゆーまん博士が説明】「絶対音感」が訓練で習得できるという説もある!
アニメやCMの音楽を作っている私の友人は、絶対音感があると自慢します。彼曰く、「雨が屋根から垂れてくるだろう、その音がハ長調でいうレ♭みたいな音階で聞こえるんだよ」
車のクラクションも人の話し声もすべてが音楽に聞こえるそうです。頭がおかしくなりそうなので、街中ではよく耳栓をしているという……知らなかった、そんな世界があるなんて。
正確に言うと、音感には「相対音感」と「絶対音感」とがあります。
音を相対的な音階であるドレミファソラシド(階名)で認識できる能力を相対音感といい、いっぽう調性によらず固定された音名(CDEFGAB、もしくはハニホヘトイロ)として認識できる能力のことを絶対音感と言います。楽器や音楽の勉強をしていれば比較的身につきやすい相対音感に比べ、絶対音感をもっている人は少ないと言われています。
その絶対音感は生まれつきの能力で、それが楽器や音楽の訓練を受けることで発現するといわれてきました。その場合も、大人になってからの訓練では発揮されないというのが通説でしたが、本当でしょうか。
脳の成長には「臨界期」がある?
1960年代、脳神経学者のデイヴィッド・ヒューベルとトルステン・ウィーセルは、視覚の発達を調べるため、子ネコの片目のまぶたを縫合しました。脳の中で視覚を扱う部位の応答を調べるためです。数カ月後に縫合を外すと、かわいそうな子ネコは、目に異常がないのに、片目が見えなくなっていました。大人のネコで同じ実験をすると、すぐに神経は回復し、両目とも見えるようになりました。
子ネコの脳は閉じられていたほうの目からの情報を受け付けなくなり、大人のネコにはそんなことは起きませんでした。子ネコと大人のネコの違いは? 成長期かどうかです。もしかしたら脳には部位ごとに成長期があり、成長期が過ぎると成長しないのではないか?
こうして生まれたのが「脳臨界期仮説」です。ヒューベルとウィーセルの実験以後、次々に衝撃的な事実が発見されました。
心理学者のジェニー・サフランらによると赤ちゃんが言語の発音を習得できる限界は10カ月前後で、その時期を超えると、英語のRとLの違いのような正確な発音の聞き分けは難しくなるのだそうです。また脳が文法を自然に習得できるのは2~4歳までで、それ以降はいわゆる勉強として体系づけた学習がないと文法の理解は難しくなります。
では絶対音感はどうでしょうか? 子どもは生後数ヶ月から5歳までに音楽のリズムやメロディを理解し、習得するのだそうです。この時期に音楽に触れないとリズム感がズレた子になるらしい。聴覚神経がもっとも活発な時期で、絶対音感もこの時期のトレーニングが大事と言われます。
リカちゃんのお母さん、リカちゃんを音楽好きに育てるなら今が臨界期?
いっぽうで、脳は意外に柔軟
ところが脳には可塑性があり、事故や病気で脳の一部分が壊れると他の部分で代用したり、組織が急激に成長して機能をカバーすることができます。絶対音感のような人間のいろいろな能力にも、可塑性が当てはまるのではないか? というのです。
脳は普通の時は可塑性を止めています。しかしアセチルコリンという物質が働くと、可塑性が活発化します。つまりアセチルコリンのような化学物質を使って、脳の可塑性を復活させれば、大人になっても絶対音感が身につくかもしれないのです。
アセチルコリンはどんな時に出るかというと集中している時です。好きこそものの上手なれと言いますが、好きなことにハマると、いくつになっても脳は可塑性を取り戻し、新しい能力を開花させることができるのです。
絶対音感よりもまず音楽を好きになること。リカちゃんのママも絶対音感にこだわらず、リカちゃんを音楽が好きな子どもに育てることに決めたようですよ。だからってお母さんが歌わなくても。まあ落ち着け。
ゆーまん博士のワンポイント
●音感には「絶対音感」と「相対音感」がある
●絶対音感をもつ人は稀だが、訓練で習得できる可能性も
●好きなことを集中してやることで、脳は可塑性を取り戻す
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構成・文/川口友万 漫画/まめこ
参考:Acquiring absolute pitch in adulthood is difficult but possible|Yetta Kwailing Wong, The Chinese University of Hong Kong