お手伝いを通じて行う【発達障害児の療育】を専門家がレクチャー。ものを運ぶことにも、多くの学びが。うまくできずに癇癪を起したときの対応も!

この連載では、発達障害のある子どもの療育に長年携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、家事のお手伝いを通じて行う療育をご紹介します。子どもの自尊心を育てながら、家族も喜ぶ「お手伝い療育」。今回のテーマは「ものを運ぶ」です。

お手伝いをさせたいけれど大変! その理由は?

「お手伝い」がいいのはわかるけど、なかなか大変で・・という話はよく耳にします。

「ひとりでやる!」と言ったのに、結局「もうやめた!」「上手くいかなかったのはお母さんのせいだ!」「大嫌い!」という結果に…。

こんな風だと本当に「大変」です。なぜこうなるのでしょうか。

「大変」の理由は、自己制御力の未熟さ

先ほど挙げたような「大変」は、お手伝い場面に限らず、日常生活の中でも頻繁に起こります。そこには、子どもの「要求や拒否の気持ちの発達」と「心をコントロールする力(=自己制御力)の発達」が関わっています。

大人は自分の思い通りにならないときも、自分の気持ちをコントロールしてものごとを進めます。しかし、4歳ごろまでの子どもは自己制御力が未熟なため、思い通りにならないときに、自分の気持ちをうまくコントロールすることができません

一方で、成長とともに自我が芽生えると、子どもの中には「こうしたい」「こうしたくない」という気持ちが強くなっていきます。
また、まだ未熟で手先を使う操作や作業がうまくできなくて「自分でやりたいけどできない」とイライラすることが増えてきます。

思いが強くなると、それが叶わないときに嫌だという気持ちが強く起きる。しかし、自己制御力が未熟なために気持ちをコントロールできない。そこで、冒頭のようなことばを吐き、いわゆる「癇癪(かんしゃく)」を起すのです。

自己制御力は、については、一般的に次のようなことが言われています。

・2歳から少しずつ発達し始めるが、3歳では男女ともまだ弱い
・一貫して男児の方が女児よりも弱い
5歳から6歳にかけて急激に伸びる

このことを前提に、年齢ごとの癇癪についてみてみましょう。

年齢ごとの癇癪の特徴

1歳前後から~2

自己主張が強くなるのに、自分の気持ちや考えをことばで言えず、「伝わらない」苛立ち、そして自己制御力はとても弱いことから癇癪が起きます。

2歳から3

いわゆる「イヤイヤ期」「魔の2歳」で、好奇心が芽生え、とにかく自分でやりたがります。しかし、まだ不器用で未熟なのでうまくいかず、やりたい!でもできないとイライラします。

また、まだ社会のルールがわからず、他者視点が持てないために、したいことを止められたり、したくないことをしなくてはならない理由がわからないことも多いのです。

わからないのに止められる、しろと言われる。しかし、自己制御力はまだ未熟ということで、癇癪が起こります。

3歳から4歳以上

身体的に成長し、身体の使い方も上達して自信を持つようになり、それに伴って自己主張もかなり強くなります。社会のルールもわかってくる中で、自分なりの考えで主張するようになります。しかし、自己制御力は十分ではないので、自分の主張が通らないと癇癪を起します。

特に男児は、癇癪を起すことが多くなりがちです。

どのように対応するか

自己制御力が育っていないうちは、子どもは自分をコントロールすることができず、子ども自身もどうしようもない。
まずそのことを理解してあげてください。

癇癪は、子どもの好奇心や自我が芽生え、ことばや身体の使い方が発達することで、子どもが自信をもって「ボクはこうしたい」「私はイヤ」という意思をもつからこそ起きてきます。
「癇癪は成長中の証」と受け止め、上記の年齢別の癇癪の理由を参考にして、根気強く対応したいものです。

 癇癪の対応としては、

・子どもの思いを代わりにことばにする
・子どもがやりたがっても、危険があるなど、お手伝いをしてもらえない場合は、わかりやすく理由を伝える
・癇癪にすぐ反応せず、冷静に静観する
・子どもにお手伝いの選択肢(一緒にやるか、少しだけやるかなど)を与える

子どもがやる気や頑張りを見せたら、それがいかに少しであっても「お母さんはうれしい。」「さすが!」など の声をかけましょう。

第5回 ものを運ぶ

今回のテーマは「ものを運ぶ」です。

対象年齢

2歳~

目安

・保護者の依頼に応じることができる

・ものを持ち、運ぶことができる

期待できる効果

・人からの依頼を受ける対応力

・運ぶという目的を遂行する達成感

・重いものを持つことでバランス感覚と筋力が育つ

・運んで人に渡す際に適切なことばを言うなど、社会性が育つ

・家族に喜ばれることで勤労意欲が育つ

・仕事を任せられることで責任感が育つ

・家族の役に立つ経験ができる

STEP1.ものを持つ

ものを運ぶ前段として、最初は「ものを持つ」ことから始めます。

保護者は「これを持っていてね」などのことばを添えながらが「もの」を子どもに渡し、しばらく持っていてもらいます。そのあと、「ありがとう」といって子どもから受け取ります。

持ってもらう「もの」は、子どもにとってなじみ深いものがいいです。紙のような軽いものは投げたくなる、棒のようなものは振り回したり、端をなめたがったりする場合があるので避けます。

STEP2.ものを運ぶ

色々なものを持てるようになったら、次は運びます。はじめは、1メートルくらいごく近い距離にあるものを「それとってちょうだい」と指さして持ってきてもらいます。近いところののものを安定して持ってこられるようになったら、少しずつ、遠いところのものを持ってくるようにお願いします。それを探して持ってきたら必ず「ありがとう」と言いましょう。

気をつけたいことは「何を持ってくればいいか」を子どもにはっきり伝えることです。持ってくるまでの間も、励ます気持ちで子どもの行動を見守り、持ってきてくれたらしっかり褒め、感謝を示しましょう。持ってきてもらうものですが、紙や棒のようなものは、「運ぶ」ことを忘れて遊びだしてしまったりするので気をつけましょう。壊れやすいもの、危険なものも避けます。

いろいろなものを運べるようになったら、次は重いものを運んでみましょう。まず家の中で、おもちゃ箱や絵本を運ぶことから始めて、机や布団などを保護者と一緒に運びます。「せーの」で持ち上げ、「いち、に、いち、に」と掛け声に合わせて運ぶと、行動も気持ちも同期して気持ちの良い体験ができます。

外出先では買い物袋を運んでもらいましょう。途中で「ドスン」と下ろしても大丈夫なように、はじめは壊れやすいもの、潰れるものは入れないようにします。家の中とは違い移動距離が長いので、気力も体力も筋力も必要です。はじめは店を出たところから車までなど、短距離から始めて、少しずつ距離を伸ばしましょう。

STEP3.ものを運んで、他の人に渡す

ものを運べるようになってきたら、「ものを運んで手渡す」ことをしてもらいましょう。「他の人に渡す」となると、渡すとき適切な一言を言うことが必要になります。

最初は、例えば、「このタオルをおばあちゃんのところに持って行ってね、「洗濯したタオル持ってきたよ」と言って渡してね」のように、どう言えばいいかを一緒に伝えます。経験を重ねるうちに、「タオルをおばあちゃんのところに持っていってね」というだけで自分で言えるようになります。最終的には、お客様にお茶を出すところをめざしたいものです。

お茶をこぼれないように運び、「お茶をどうぞ」と言って、おじきをしながら、お茶を出します。このお手伝いを通じて、状況に適したことばを使う経験を積む、社会性を育むことができます。

発達障害の特性のある子どもの場合に気をつけたいこと

発達障害の特性のある子どもの場合、行動の途中で他の刺激に意識が行ってしまい、自分がものを持っていることや運んでいることが意識から外れてしまうことがよくあります

やる気がないとか、集中力がないわけではないので、叱らないでください。本人が「今これをやっているのだ」と気がつくように、「〇〇しっかり持っていてね」「〇〇を運んでいるんだよね」などと伝えてあげましょう。

また、壊れたりこぼれる可能性があるものを運ぶことに不安を感じる子どももいます。そのような子どもにはタオルや箱、未開封の牛乳パックのような、安心して運べるものを運んでもらいましょう。

「運んで渡す」際に「何か言う」ことにストレスを感じる子どももいます。最終的には、お客様へのお茶出しを目指したいと言いましたが、知らない人にお茶を運んだり口上をいうことは強いストレスである子どももいるでしょう。

以前もお話ししましたが、お手伝いはあくまで子どもがやりたい気持ちの中でやってもらうことが基本です。ストレスを感じることを無理にさせることはしません。子どもの様子を見て、慎重に検討してください。

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この記事を書いたのは…

原 哲也|言語聴覚士・社会福祉士
一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。

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