「魚介」と「魚貝」。あなたはどっちを使ってる?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

「魚カイ」の「カイ」。あなたは漢字でどう書いている?

「魚カイ」は海産動物の総称です。この「カイ」の部分ですが、みなさんは漢字でどう書いていますか?「介」?「貝」?

  「魚貝」と書けば、魚と貝だということはすぐにわかります。では「介」っていったいなんなのでしょうか?

「魚介」は「魚貝」よりも広範囲の海産物を指している

「介」は、よろい、甲羅、殻(から)などという意味の漢字で、この場合は貝類だけでなく甲羅をまとった生物、つまりカニやエビなども指します。つまり、「貝」と書くよりも海産動物を示す範囲が広いわけです。もっとも「介」はかたい殻で体をおおわれた昆虫も意味していますし、タコやイカなどの軟体動物は含まれませんが、細かなことはいいでしょう。

もう一つ、「貝」という漢字は「かい」と読みますが、これは音読みではなく、訓読みなのです。「貝」の音(おん)は「ばい」です。そのため、「ギョカイ」を「魚介」と書くと「魚(ギョ)」も「介(カイ)」もどちらも音読みになるわけですから問題ありませんが、「魚貝」を「ギョカイ」と読むと「カイ」は訓読みなので、変則的な読み方の「重箱読み」になってしまいます。

このようなこともあって、「ぎょかい」の表記は国語辞典では「魚介」を優先させています。新聞も、たとえば共同通信社編の『記者ハンドブック』でも「ぎょかい(魚貝)→魚介(類)」としていて、「魚介(類)」と書くようにしています。

でも、「魚貝」と書いたら間違いかというとそのようなことはありません。「魚介」の方が古い使用例がありますが、「魚貝」の使用例も主に近代になってからのものですがたくさん見つかっています。ただ、すでに述べた通り「魚貝」を「ギョカイ」と読むのは重箱読みになってしまうため、「貝」を音で読んで「ぎょばい」と読ませている例もあります。

「魚貝」を「ぎょばい」と読む人はほとんどいない

この「ぎょばい」は、小型の国語辞典には載っていない語です。現在わざわざ「ぎょばい」と読む人はほとんどいないからでしょう。でも、『日本国語大辞典』には載っていて、そこでは、国木田独歩の『帰去来』(1901)という小説の例が引用されています。

「潮が退くと数十間四方の磯になって、其岩陰に種々の魚貝(ギョバイ)が潜で居る」

というものです。

ただ、「魚貝」を「ぎょばい」と読むと、耳で聞いただけでは何のことかわからないという人も多くいるでしょうから、「魚貝(類)」は間違いではないとしても、「魚介(類)」と書いたほうが無難な気がします。

 

記事監修

神永 暁|辞書編集者、エッセイスト

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

 

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