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10歳のころの祖父母、ママ・パパ世代と比較してわかった、現代の子どもたちの運動能力
鈴木宏哉先生(以下、鈴木先生):スポーツ庁が、2024年10月に発表した「令和5年度体力・運動能力調査の結果」では、祖父母、ママ・パパ、子どもの3世代(※)にわたり、10歳当時の運動能力を比較しています。
※昭和39年度(現在69歳)、平成5年度(現在40歳)、令和5年度の10歳当時の比較。
祖父母世代と現代の子どもたちを比較すると…
【男子】
鈴木先生:10歳男子の平均身長は、昭和39年度は135.5cmで、令和5年度より4.3cm低く、平均体重は、昭和39年度は27.6kgで、令和5年度より6.8kg軽いです。しかし50m走の平均は、ほぼ同じ。ボール投げの平均は、昭和39年度のほうが高いことがわかります。
【女子】
鈴木先生:10歳女子の平均身長は、昭和39年度は134cmで、令和5年度より7.6cm低いです。平均体重は、昭和39年度は29.2kgで、令和5年度より5.7kg軽いです。女子も50m走の平均は、ほぼ同じ。ボール投げの平均も、昭和39年度のほうが高いことがわかります。
鈴木先生:つまり、現代の子どもたちは男女とも、祖父母世代よりも身長も体重も大きくなっているのに、運動能力は変わらないか低いことが、今回の調査でわかりました。
パパ・ママ世代と比較すると…
鈴木先生:また平成5年度と令和5年度を比較すると、男女とも平均身長・平均体重はほぼ変わりません。
【男子】
鈴木先生:しかし男子を見ると、ボール投げは平成5年度のほうが5.2mも上回っています。50m走も平成5年度のほうが速いです。
【女子】
鈴木先生:このデータからも、現代の子どもたちは運動能力が低下傾向にあることがわかります。
時代とともに、幼児の運動能力も低下傾向
鈴木先生:幼児に関しても、別の報告があります。3歳児と5歳児を対象に運動能力を比較したところ、2007年の5歳児は、1985年の3歳児と同じくらいの運動能力にとどまっていることがわかっています。
運動能力向上のカギは、毎日、運動する習慣を作ること
鈴木先生:子どもたちの運動能力の低下の原因は、運動不足です。文部科学省は、幼児も小学生も毎日合計60 分以上の運動を推奨しています。運動時間は合計での考え方のため、30分×2回、10分×6回などこまめに運動しても構いません。
しかし、昨今は、運動しない子が増えています。前述のスポーツ庁の調査では「運動しない」と答えた子どもは6歳男子では約10%、6歳女子では約15%もいました。
鈴木先生:また公園などは、子どもたちがにぎやかに遊んでいると苦情が来たり、不審者情報などもあり、気軽に遊ばせられない地域もあるでしょう。そのため子どもたちが、毎日合計60 分以上運動することが難しくなっています。
幼児期は、体を動かすことで脳や神経に関わる部分が発達
鈴木先生:しかし、子どもたちが毎日合計60分以上運動することには多くのメリットがあります。
とくに幼児期は、体を動かすことで運動能力の中でも脳や神経に関わる部分が発達する時期です。運動遊びを習慣にすることで、タイミングよく動いたり、力加減をコントロールするなど多様な動きが身についていきます。
継続的に運動すると脳が発達し、学習能力もアップ
鈴木先生:継続的に運動をすると脳の発達が促されます。身体を動かすと脳のおでこあたりの部分(前頭前野)に多く血流がおこり、集中力がアップします。さらに継続的に運動することで海馬が大きくなり、短期記憶が高まるという研究報告もあります。
継続的な運動が脳の土壌を作り、勉強という種を撒くことで、学力がよりアップするといえます。
運動するときは、いろいろな動きを取り入れることを意識して
鈴木先生:なかには「うちの子は運動系の習い事をしているから、運動不足ではない」と考えるママ・パパもいるかもしれません。しかし、いろいろな動きを経験して神経を刺激することが大切です。とくに意識してほしいのは次の3つの動きです。
1 バランスを取る動き
自転車やキックバイクに乗る、鉄棒にぶら下がる、回転する、逆立ちするなど
2 体を移動させる動き
歩く、走る、階段の上り下り、泳ぐ、ジャンプするなど
3 ものを操作する動き
ボールを蹴る・打つ、ラケット・バットを振る、縄跳びをするなど
鈴木先生:1つのスポーツで、この3つの動きをするにはサッカー、野球、バスケ、バレーボールなどの球技がおすすめです。
運動系の習い事は、フィジカルリテラシーを育む
鈴木先生:運動系の習い事は、技術の向上や運動習慣を作るだけでなく、フィジカルリテラシー(体を動かすことにまつわる教養)が育まれるのもメリットです。
鈴木先生:たとえば「ルールを守る」「挨拶をする」「仲間や相手を思いやる」「支えてくれる・応援してくれる人に感謝する」などの社会性が養われます。フィジカルリテラシーが養われると、将来、その子が親になったときにわが子にも同じように教えることができ、よい循環が生まれます。
屋内、屋外、自然の中など、多様な環境で運動を楽しもう
鈴木先生:運動を楽しく続けるには、多様な環境も大切です。屋内、屋外、自然の中と環境を変えて運動する機会を作ったり、ときにはいつもとは違う仲間で運動したりしましょう。
多様な環境で運動すると、新鮮な気持ちで楽しめますし、新たな気づきもあるでしょう。たまには家族で、自然の中でアウトドアスポーツを楽しんだりするのもよいでしょう。
インドア派の子は、ゲーム感覚で歩く習慣を作ろう
鈴木先生:「うちの子は、運動が苦手(嫌い)で、室内で過ごすことが多い」という場合は、ママ・パパが意識して、体を動かす遊びに誘いましょう。幼児や小学校低学年でおすすめなのは「探しものゲーム」です。親子で歩いて買い物に行きながら「ポストを2つ見つけよう」「コンビニを3つ見つけよう」「先にネコを見つけたほうが勝ち!」など探し物ゲームをしてはどうでしょうか。
鈴木先生:家の中で子どもの好きなものを隠して探すのもおすすめです。家の中の場合は、階段の上り下りなども取り入れて運動量を増やすようにしましょう。スモールステップでよいので、楽しく続けられる工夫が大切です。
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記事監修
取材・構成/麻生珠恵