第2次トランプ政権はイスラエルを暴走させる? 紛争が拡大する中東情勢がたどる可能性とは【親子で語る国際問題】

今知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は第2次トランプ政権での中東政策について予測します。

トランプ氏の勝利にいち早く対応したイスラエル

米国大統領選挙は大接戦が予測されていましたが、いざ開票箱を開けるとトランプ氏の圧勝でした。トランプ氏の勝利宣言後、各国の首脳は次々に勝利を祝福するメッセージをトランプ氏に送りましたが、一番早い行動を取ったのはイスラエルのネタニヤフ首相でした。

ネタニヤフ首相はトランプ氏の勝利を歴史上最大のカムバックと投稿し、これは米国にとっての新たな始まりであり、イスラエルとの偉大な同盟関係を力強く再確認する意味を持つと評しました。では、トランプ政権の再来で中東情勢はどうなっていくのでしょうか。

ネタニヤフ首相
いち早くトランプ氏に祝福メッセージを送ったイスラエルのネタニヤフ首相

親イランのシーア派武装勢力がイスラエルへの攻撃を開始するなど、紛争が拡大傾向に

昨年10月以降、パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するハマスとイスラエルとの間で衝突がエスカレートし、イスラエル軍はガザ地区での容赦のない攻撃を続け、パレスチナ側の死亡者数は4万人を超えています。

それによりイスラエルへの国際的批判が強まるだけでなく、レバノンやイエメン、シリアやイラクに点在する親イランのシーア派武装勢力がイスラエルへの攻撃を開始し、今日ではレバノンで紛争が激化しています。

イスラエル軍は毎日のようにレバノン各地を空爆し、金融機関や病院、市役所なども標的となり、「レバノンのガザ化」が懸念されています。

また、イランが支援するレバノンのヒズボラやハマスの最高幹部をイスラエル軍が殺害したことから、イランは4月と10月にイスラエルに対する直接攻撃を実施し、弾道ミサイルなどを発射しました。

当初はイスラエルとハマスの戦闘構図でしたが、それに親イラン勢力やイランが加わったことで、紛争は拡大傾向にあります。ネタニヤフ首相はイスラエルの安全保障を守るべく、攻撃の手を緩める気配は全く見せていません。

イスラエル重視のトランプ氏が再選することで中東情勢が懸念される

このような状況でトランプ氏の再戦が決まったわけですが、ネタニヤフ首相が真っ先にトランプ氏の勝利を祝福したことには訳があります。トランプ氏は2017年からの政権1期目の際、国際的には認められていないエルサレムを首都と認定して米国大使館を移転させるなど、極めてイスラエル寄りの政策を取ってきました。

トランプ氏はイスラエル重視、イスラエルと敵対するイランを敵視する姿勢に徹してきましたが、その時トランプ氏と親密な関係を築いてきたのがネタニヤフ首相であり、同首相は今回の勝利によって最大のパートナーを取り戻したことになります。

そして、今後懸念されるのは、トランプ氏という最大のパートナーを得たネタニヤフ首相が、親イラン勢力やイランに対してさらに強硬姿勢になることです。この1年間、バイデン政権もイスラエル支持の姿勢に徹し、イスラエルへの軍事支援を続けてきましたが、過剰な攻撃と増え続ける犠牲者の数に不満を募らせ、両者の関係は決して良好とは言えませんでした。

しかし、トランプ氏は極度の親イスラエル主義であり、被害の状況にはそれほど関心を寄せないと考えられることから、ネタニヤフ首相にとっては全てがやりやすい環境になります。今後の中東情勢の行方が懸念されます。

この記事のポイント

①イスラエル軍はガザ地区での容赦のない攻撃を続け、パレスチナ側の死亡者数は4万人を超えている

②親イランのシーア派武装勢力がイスラエルへの攻撃を開始するなど、紛争は他国まで拡大傾向

③イスラエルを重視するトランプが再選し、イスラエルがさらに強硬姿勢になることが懸念される

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記事執筆/国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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