【前回までの流れ】
● 学校見学へ行き、全寮制中学校を目指すことに。
● 偏差値30台の息子でも合格に手が届きそうな学校を目指そうとするも、息子の反応は「ピンとこない」で…。
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マザコン息子を「全寮制」に送り出すべきか? 母の葛藤と息子の反応は…【シングルマザーの中学受験 奮闘記|全寮制中高一貫校までの道のり】
ついに決まった志望校、偏差値は驚きの65…
あっという間に息子も小学6年生に。偏差値40前後で入れる全寮制中学校をいくつか見つけ、息子を納得させようと頑張っていました。
しかし、私が「ここなら」と思える学校を勧めても、息子はどこか浮かない顔で「なんか行きたいと思えないんだよなぁ」とか「ちょっと違うんだよね」と、好き勝手なことばかり言います。そのうえ、「そこは男子校でしょ」とか「遠すぎるのはイヤ」と文句をつける始末。
あまりの身勝手さに私もついに堪忍袋の尾が切れ、「何よ、好き勝手なことばかり言って! 私が中学受験するわけじゃないのよ、あなたが行く学校じゃない。あなたの成績で行ける中学校があるなら、自分で探してきなさいよ! いい加減にしなさい、私も忙しいんだから!」と、言い放ってしまいました。
息子はしばらく神妙な顔をしてうつむいていましたが、それから数日後、塾から帰ってくると「ママ、ここの学校がいいんじゃない?」とリーフレットを差し出してきました。聞けば、塾長が「この学校なんかいいんじゃない? チャレンジしてみろよ」と勧めてくれたそうです。
リーフレットを読んでみると、確かに塾長が勧めるだけあって魅力的な学校でした。さらに詳しい情報を得るためにインターネットで学校のことを調べていくと、私は絶句。
「え、偏差値65…! こんな学校、行けるわけないじゃない!」と思わず声が出ました。
「ちょっとこっちに来て!」と息子を呼び寄せました。「自分の実力わかってる? 今の成績では、到底行ける学校じゃないでしょ。あなたみたいな人を身の程知らずの大馬鹿者っていうのよ!」と、呆れる私に、息子は「だって、塾長が頑張ったら行けるって言ってたよ」と、こともなげに言いました。
塾長の言葉で、ハッと目が覚める
私は怒り心頭で塾長に電話。「先生からいただいた資料を拝見し、学校のことを調べてみましたが、とてもうちの息子が入れる学校じゃありません。今の偏差値は40に満たないんですよ。一体どういう了見で雲の上のような学校を勧めるんですか?」とくってかかりました。
すると塾長は冷静に、「お母さん、息子さんから聞きましたよ。ハードルの低い学校ばかりを勧められているようですね。そんな学校を目指して、3年間塾に通う意味がありますか? 息子さんが本当に入りたい学校ができれば、勉強に対する取り組み方も変わると思います。仮にその学校に入れなくても、努力したという自信や最後まで諦めずにやり切ることができたという経験を積むことができる。簡単に入れる学校を目指すより、ずっといいんじゃないですか?」と諭されました。
(確かにそうだな…。母親である私が応援せずに誰が息子を応援するのか…)と、塾長の言葉に打たれ、これまでの自分の至らなさや愚かさが恥ずかしくなりました。息子にはこれまで何ら目標はなかったのだから、目標ができただけでも大きな収穫だと思わなければならない。応援してあげるべきだと思い直しました。
学校見学で見せた、息子の意外な一面
そんなことを経て、息子と一緒に学校見学に行くことにしました。これでやっと、本来の受験生としてのスタートラインに立てたように感じました。
見学当日。自分の志望校というだけあって、息子は行く前からウキウキとしてこれまでのテンションとは違い、母親としても、(自分が行きたいところを見に行くというのは、こんなに違うのか)と感じたものです。また、息子が先輩に向ける眼差しや質問は真剣そのもので、学校行事や寮生活に対する関心も非常に高いものがありました。
帰りの電車の中で「どうだった?」と聞くと、息子は「吹奏楽部にいた先輩のお姉さんたちが可愛かった。寮の説明をしてくれた人もきれいだったし、とってもよかった。あの学校へ行くのが楽しみになっちゃった!」と上機嫌。学校見学をしたら、すぐに入れるかのような気分になっているようでした。
(なんとも、おめでたい子…)と感じ、おかしくもあり、情けなくもあり、不安でもあり、複雑な気分になりました。
鉄拳家庭教師あらわる|勉強ができる・できない以前の話
志望校が決まったことで、少しは状況が好転するかと思いきや、まったくその兆しは見えません。
予習も復習もせず、宿題にも手をつけない日々が続いていました。期待を見事に裏切られた私は、どう手を打てばいいのかわからず、仕事への気力も失われていきました。
そんな様子を見て、会社の同僚であり頼れる相談相手でもある河田さん(60代・男性)が声をかけてくれました。「清宮さん、最近、仕事中も上の空で仕事への意欲が感じられないんですけど、何かあったんですか?」
その一言がきっかけとなり、私はたまりにたまった思いを吐き出してしまいました。「もうどうしたらいいかわからないんです。息子が勉強しないのはもちろん、生活態度もなってなくて。志望校が決まったっていうのに、全然変わらないんです!」と、半ば感情的に話しました。
すると河田さんは、少し間を置いて静かにこう言いました。
「厳しいことを言わせてもらっていいですかねぇ? あなたの息子さん、勉強ができる・できないとか、頭の良し悪し以前の問題があるんじゃないですか? 私から見ると、勉強をするための基礎力が欠けているように見えますけど… 。
そもそも、勉強というものは、毎日コツコツと辛抱強く、繰り返し繰り返しやっていくもんですよね。どう見ても、お宅の息子さん、そうしたことができているようには思えないのですが、違いますか?」
その言葉に、私は心の中で(確かにその通りだけど、他人にそこまで言われると腹が立つわ…)とムッとしながらも、何も言い返せませんでした。
すると河田さんは「清宮さん、“念願は人格を決定す、継続は力なり”という言葉をご存じですか?」と私の顔を覗き込むように問いかけてきました。
河田さんはさらに続けます。
「志望校が決まったこと自体はいいことですよね。でもね、継続ができない、あなたの息子さんには、“学力”そのものが身につかないんです。これは当たり前の話、自明の理ということです。まずは、勉強するための基礎力を鍛えることが大切だと思いますけど…」
私は一言も発することができず、俯くしかありませんでした。
息子の生活習慣をはかる実験
そんな私の態度を見て、河田さんが一つの提案をしてきました。
「じゃあ、ちょっと試しに、とっても簡単なことをやらせてみてください。 学校から帰ってきたら靴を揃える。次に鍵は決められた場所に置く。おそらく、今の息子さんだったら、3日どころか、2日でやらなくなると思うんですですけどね…」
提案通りにやってみると、2日目には靴は揃えられず、「鍵がない」と家の中をあちこち探すハメに。案の定、簡単なことすら継続できない息子であることが証明されたのでした。
そのことを報告すると、河田さんは冷静に次のように言い放ちました。「私が言った通りになりましたね。 だから勉強においても、必要でやるべきことが続けられないんですよ。」
私は、ややムッとしながらも、「じゃあ、どうしたらいいんですか?」と河田さんに尋ねました。
河田さんは、少し間を置いてから問いかけてきました。「ところで、息子さん、あなたの言うことを聞きますか?」
私は正直に答えました。「いいえ、まったく聞いてくれません。」
すると河田さんは、苦笑いしながら断言しました。
「そうだと思ってました。彼には、怖いモノなんかないんですよ。怖いのは塾の先生くらいじゃないですか? 家庭では彼が王様なんで、自分の嫌な事は何もやらなくていいわけです。だから、好きでもない勉強なんかやるわけないじゃありませんか。こわい人なんていないし、叱る人もいないわけですから…」
何も言い返せない私。河田さんの言葉が、胸に深く刺さったのでした。
確かに、私が子どもだった頃を思い出してみると、母は私が言うことを聞かないと「お父さんに言いつけるわよ」とか「そんなことをしてると、お父さんに怒られるわよ」と言われていました。でも、うちは母子家庭ですから、そんな脅しも使えません。息子に対して何の抑えもない状況で、わがままし放題になっているのが現状です。
力で押さえつけるのはよくないと分かっていても、言うことを聞かないのであれば「脅す」か「ご褒美をちらつかせる」くらいしか手段が思い浮かびません。しかしながら、うちの場合は、ご褒美を与えすぎてその効果すらなくなっていました。
(どうしたものか…)と頭を抱えた私は、恥も外聞もなく必死な思いで河田さんに頼み込むことにしました。
河田さんという「鬼の生活指者」あらわる
「河田さん、叱り役をやってくれませんか?」と恐る恐るお願いすると、彼は渋い顔をしてこう答えました。
「正直、あまり気乗りはしませんね」
その返事に焦った私は、思わず食い下がりました。
「どうしてですか?」
すると河田さんは、厳しい表情で次のように言いました。「私が関わるとなると、事と次第では鬼のような指導をすることになりますよ。息子さんが泣くようなことになりますけど、それでもいいんですか?」。
これまで厳しいしつけなどしてこなかったので、鬼のような指導をされても息子は耐えることができるだろうか… と心配になりました。しかし、それでも頼れる人が他にいない状況で、私は覚悟を決めてお願いすることにしました。
ただ、このときの私には甘さがありました。(そうは言っても、他人の子どもを泣かせたりなんかはしないだろう)とどこかで思っていたのです。
困惑した表情を見せる私を見つめながら、河田さんは淡々と続けました。
「諺でも、仏の顔も三度までと言いますから、私との約束を三度破ったら、厳しく叱ることになりますよ。もしかすると、深く傷つくことになるかもしれません。それでもいいですか?」。
この話を息子に伝えずには進められないと思い、学校から帰ってきた息子を待ち、3人で話をしました。
「今のあなたには、目標を達成するための生活態度が欠けていると思うの。だから、河田さんに生活指導をお願いしようと思っているのよ」
すると、息子は怪訝そうな顔をして「生活指導って?」と聞いてきました。その息子の質問に対して、河田さんは落ち着いた低い声で言いました。「おじさんと簡単な約束をし、その約束を守ってくれるだけでいいから。でもね、その約束を三回破った時には、おじさんは強く厳しく叱ることになる。君がこわくて泣いたとしても、おじさんは決して妥協はしないよ。それが条件だけど… どうする?」
息子は、ちょっと曇った表情になりましたが、すぐにニヤリとして、「いいですよ」と簡単に了承してしまうのでした。おそらく、息子も私と同じように、河田さんが泣かせるようなことはないだろうと高を括っていたのでしょうね。一応は本人納得の上で、その翌日から河田さんによる生活指導がスタートすることになりました。
今回の学びと葛藤《まとめ》
●偏差値30台の小6男子が偏差値65を目指すには、目標と覚悟が必要!
●子どものやる気スイッチを入れるには、家族だけではなく外部の力を借りる手もあり?
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執筆/清宮ゆう子