【前回までの流れ】
● 母親の育児への反省と、息子の自立を願う思いから、全寮制中学校への進学を検討し始める
● 息子の成績は低空飛行のままだが、「一身独立」を目指すための新たな一歩を踏み出す
前回の記事はこちら
【シングルマザーの中学受験 奮闘記】子どもの成績が伸びない原因は、私にあった!? 間違った子育てを立て直すための決断は…
全寮制の中高一貫校に進学させることを、母親として決断する
塾長に相談したことで「全寮制の中高一貫校に放り込む!」という光明? 妙案? とも思える選択肢を見つけることはできました。しかし、なかなか息子に話をすることができないでいました。
その理由としては、やはり13歳で親元から離れ生活させるのはかわいそうだという想い。甘やかして育てたので厳しい寮生活に耐えられるんだろうか? さらに、寮生からいじめられるのではないか? という心配。あるいは、ホームシックになって寮を抜け出すんじゃなかろうか? などいろいろと不安や心配が入り混じり、切りだすことできないでいたのです。
でも、よくよく考えてみると、すべては親の“いらざる心配” “取り越し苦労“のように思えてきました。子どもの気持ちを慮っていたつもりが、自分自身の寂しさゆえに「子どもを手元から離したくない」という思いに縛られていたことに気づいたのです。
やはり、10年以上も二人だけで暮らし、手塩にかけて育ててきた母親としての思いが強く、息子のいない生活を想像することはなかなかできませんでした。それに、私一人で生活することが、心の底では「寂しくなるわ」と感じていたのかもしれません。
でも「これじゃあ、塾長が言ってた通りの“子離れできない”母親になっちゃうわ!」と思い直しました。そんな女々しい母親の気持ちに、喝を入れてくれる出来事がありました。
一緒にいても寂しい思いをさせていた…?
テレビをぼんやり観ていた時、少年鑑別所の密着番組が流れてきました。収容されている子どもたちへのインタビューを聞いて強いショックを受けました。
彼らの非行のきっかけは、「親にもっと構ってほしかった」とか「いつも一人ぼっちで寂しかった」あるいは「母の愛情に飢えていた」と語っていたのです。その子どもたちの言葉を聞いて、決して他人事ではない、我が子の思いそのものだと受け止めました。
もしも、このまま息子を手元に置いて育てていけば、彼らと同じようなことになる可能性が非常に高いと感じました。なぜかといえば、今のように仕事を優先すれば、どうしても子どもと接する時間は奪われる。子どもに掛ける時間を優先すれば仕事に影響を来たしてしまう。結果として収入は減り生活は苦しくなる…。
猛烈に反対されたにも関わらず結婚し、勝手に別れてシングルマザーになった私が、今さら遠く離れて住む両親に支援を求め、すがるわけにもいかない。なんとかかんとか生活に困らない程度の収入は維持できているものの、十分な蓄えがあるわけではない。そうなると、どうしたって私が働かざるを得ないのです…。
それに、中学生になれば行動範囲も交友関係も広がり、ワーママの私には子どもの行動に目を配ることなど到底できなくなる。結果としてトー横キッズになってしまったり、挙げ句の果てには闇バイトにまで手を染めてしまう可能性が無いとは言い切れない…。
そうしたことを考えると、自分の手元に置いておくほうが子育てリスクをより高めてしまうように感じてならなかったのです。
「愛情」= 一緒にいることではないのかも
私が「子育てリスク」なんて言うと、母親としての愛情が欠落しているのではないかと思う人もきっといらっしゃるでしょう。
しかし、大勢の仲間といっしょに切磋琢磨しながら、親に寄りかからない環境で自らを鍛え、自立していける環境にいるほうが、将来的には彼のためになるのではないかと思ったのです。反対に、もし、そのことで息子に恨まれるのであれば、それも甘んじて受け入れる覚悟でいました。
当然のことながら、寮に入れたからといって子育てリスクがゼロになるわけではありません。しかし、寮に入れることで息子の大きな課題、私にとって難儀な問題の一つが解消できることだけは確かでした。それは、「ママ、ママ」とまとわりついてくる“マザコンの塊”のような息子の性格。今のままでは、「一身独立なんて夢のまた夢」になってしまう。
ですから、母親としての寂しさを断ち切って全寮制中学に行かせることを決意しました。このとき私は心の中で「これからは心を鬼にするわ!」と誓ったことを覚えています。
子どもをどうやって、全寮制に行く気にさせるか? 思案の毎日
私の気持ちは固まりました。あとはどうやって息子を納得させ、その気にさせるかだけです。まず、今の息子の偏差値で入れる学校があるのかないのかを調べなければなりません。「そんな学校あるのかしら…」と半ばあきらめの境地で調査を開始しました。
すると、ありがたいことに、偏差値40くらいあれば、なんとか入学させてもらえる学校があることがわかり、胸を撫で下ろしました。正直「やったー!」と心の中でガッツポーズ。調べてみると、専願受験なら点数を加算してくれるとか、一次試験でダメだとしても2回目、3回目は下駄を履かせてくれる制度があることなどもわかりました。
そんなことから、「私の味方をしてくれる学校があるんだ」とうれしくなってきたのです。これまで2年間塾に通わせても成績が上がらないのだから、どんな手段を使ってでも、なんとかねじ込むしかないと思っていました。
それにしても、「全寮制に行きなさい!」なんて直球で言ったら抵抗されるに決まっています。そうなれば、元も子もなくなる。そこで、息子が自ら「行きたい!」と思うように策略を練ることにしました。まずは、全寮制の学校見学に連れ出すことに…。
息子を全寮制中学校の見学に誘い出す
しかし、「学校見学に行こう」と誘っても、息子が素直に乗ってくるとは思えませんでした。そこで、「久しぶりに旅行でも行かない?」と持ちかけることに。
このところ、ガミガミと叱ることが多く親子関係はギクシャクしていたので、息子はにっこりと笑い何の疑いもなく二つ返事で乗ってきました。心の中でしめしめとニンマリする私。息子の取り柄は、子ども子どもした単純なところです。
2泊3日の旅行プランを立て、1泊目は息子の大好きな水族館で楽しい時間を過ごしました。息子は大はしゃぎで、「塾なんかより断然楽しいな!」とご満悦。夜はお腹いっぱいご飯を食べ、勉強をすることもなく、大きな口を開けて幸せそうに寝てしまいました。
2日目の朝、一緒に朝食をとりながら、「あのねぇ、近くにいい学校があるみたいよ。一緒に見に行こうか?」とさりげなく学校見学へ誘導。息子は素直についてきました。
息子には内緒で見学の申し込みをしていた全寮制中学校は、市街地からかなり離れた山間部にある自然豊かな場所でした。「広々として緑もあるし、開放感があるねぇ」と息子は言いながら、迎えに来てくれた先生や学生さんに案内してもらいました。
学校を見て回る息子は、意外にも積極的で自ら質問をしたりしていました。そうした態度は、これまでの学校見学では一切見られなかったもので、その変化に少々驚きました。
「この学校に入れよう」と決意した瞬間
2時間ほどゆっくりと見学をしながら、先生とお話しする中で、一番心配していることをお聞きしました。「うちの息子は偏差値40に届かないような成績なんですが、入学はできるんでしょうかね?」と恐る恐る聞いてみました。
すると、「大丈夫ですよ、お母さん。いろいろと方法はありますから」とにっこりしながら、支援制度について話してくれました。さらには「まぁ田舎の学校ですからね。そんなにカリカリと勉強しなくてもいいですよ。なんせ塾に行かないで入る子もいますから」と先生。それを聞いて、まるで救いの神のように思えてきました。
帰りの電車の中で、あんぐりと口を開けて居眠りしている息子の顔を見ながら、「あの学校に入れよう! 息子にピッタリだわ」と思いました。私も安心感からか、いつの間にかお互いにもたれかかるように居眠りをしていました。
今回の学びと葛藤《まとめ》
●働くシングルマザーの子育てリスクを回避するには、全寮制中学校はいい選択肢かも!?
● 全寮制への進学を検討するのなら、子どもが行きたくなるような工夫をすること
【シングルマザーの中学受験・奮闘実録】を最初から読む
息子による手記【偏差値33からの逆転☆中学受験】はこちら
執筆/清宮ゆう子