【前回までの流れ】
● 母親の苦悩は、子どもにはなかなか伝わらない
● 塾に行くだけでは、当然成績は上がらない。宿題をやったかどうかの親のチェックは必要
● 教員が休職するのは珍しいことではない
前回の記事はこちら
【シングルマザーの中学受験 |全寮制中高一貫校までの道のり】母親の苦悩は子に伝わらない… 一番下のクラスに居心地のよさを感じ始める息子。
子どもが賢いかどうかは親次第? 歴史上の教育者から学んだこと…
月日が流れるのは早いもの。ゴタゴタとさまざまな事件が起こり、何一つ思い通りにならないまま、気がつけば息子は小学5年生。母親からも塾の先生からも、そして祖父母、周囲の誰からも期待していないことを悟った息子の成績は、一向に上がる気配もなく、まさに低空飛行状態。偏差値が40を越えることは、一度もありませんでした。
おめでたいことに、この頃の私は「何もかも上手くいかないのは、すべて子どものせいだ」と思っていました。学校で問題を起こすのも、親や先生の言うことを聞かないことも、そして勉強もせず成績が上がらないことも….。さらに付け加えるならば、私の仕事がうまくいかないことさえ、「育児に手がかかりすぎているせいだ!」と決めつけていたところがありました。
ですから、私の母や親しい人には「2年も塾に通わせているのに一向に成績が上がらない」とか「私の言うことなんて、ちっとも聞かない」「一生懸命働いているのに、何のために働いているのかわからなくなる」「私の気持ちなんて、これっぽっちもわかっていない」などと、息子の愚痴をしこたまこぼしていました。愚かなことに、そうしたことでストレスを発散していたのです。
ある日のこと。仕事上、親しくしている年配の方に例の如く愚痴をこぼしたときのことです。
「清宮さん、こんな言葉をご存じですか?
『凡(およ)そ人の子のかしこきも、おろかなるも、よきもあしきも、大てい父母の教えによる事なり。』
これは吉田松陰(しょういん)先生が残した言葉です。もしも、松蔭先生の言葉が正しいとするならば、息子さんが悪いのは、大方あなたの育て方、接し方に問題があるということじゃないですか?
あなたはしょっちゅう、息子さんのことを悪しざまに言いますが、育てたのはあなた自身ですよね? 我が子のことを非難する親ほど、不幸なものはないですよね。聞かされている私も、気分が悪くなります。よくよく子育てについて、考えてみたらどうでしょう」
とすごい剣幕で叱られました。
しばらく私は何も言えず、うつむいたまま(確かにそうだな…)と思いながら、自分自身が恥ずかしくなりました。
私の子育てについて考えてみれば、”おろかなるところ” ”あしきところ”だらけです。たとえば、子どもが話しかけてきても「仕事が忙しいから後にして!」と言ってしまったり、子どもが抱きついてきても「うるさい」とか「邪魔」などと言って遠ざけていました。さらには多忙を言い訳に手作りの食事ではなくレトルトやコンビニのお弁当で済ませることもありました。
家庭の中は人様から見えないのをいいことに、子育ての手を抜いていたのです。塾に行かせているのも、すっかり学童代わりにしているところがありました。おろかなる母親、あしき母親でした。
「子どものことが一番」だったはずが、いつの間にか仕事や自分のことが一番になってしまっていたのです。
どういう大人になってほしいのか? 一番大切なことを見失っていた…
おろかなる母親による間違った子育てに気づいた私。子育ての基本から考え直すことにしました。まず、親として「目標とする子育て」、「成長した我が子の姿」をしっかりと描かなければならないと強く思いました。
もしも誰かに「息子さんにどんな大人になってほしいですか?」と問われたら、私は間違いなく次のようにこたえるでしょう。「社会から必要とされる人間」「人様の役に立つ人間」になってほしいと…。
決して人様から羨まれるような有名な大学に入り、有名な企業に勤めてほしいなんてことは思っていませんでした。それは、今でも変わりません。ましてや、大人物になってほしいとか、親孝行してほしいとも思いません。私が子どもに求めるものは、ただ一つ。「自立」してくれることです。親の蓄えをあてにして生きるような大人には、なってほしくないと思っているんです。
それは昔読んだことのある『坂の上の雲』(司馬遼太郎著)の中に出てくる言葉、「一身独立」に影響を受けているところがあります。ここでいう「一身独立」とは「自立」のことなんですが、もともとは福沢諭吉の『学問のすゝめ』から引用された言葉です。『学問のすゝめ』には「独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人に諛(へつら)う」と書かれています。
つまり、一身独立できなければ、自分で判断せずに何事も他人任せになってしまう。頼る人がいなければ何もできないから、人の顔色ばかりうかがうようになる。そんな大人にだけはなってほしくない…。
私が息子に望むのは、まさに福沢諭吉先生がおっしゃっている「一身独立」なんですが…。
さてさて、どうやったら今のダメダメな息子を「一身独立」へと導くことができるのか、大いに悩むことになりました。あれやこれやと一人で悩んでみたところで、一向にこたえには辿り着きません。悩んだ末にどういう進路を選べば一身独立ができるのか、塾長に相談することにしました。
一身独立の道が拓けるか?「全寮制中学」という選択肢
忙しい最中、無理をお願いして1年ぶりに塾長と面談をすることになりました。面談が始まるや否や、私はいきなり切り出しました。
「もう成績については期待しません。先生方にもうるさく申しません」
と言うと、
「お母さん、前にお目にかかったときにも言いましたよね。男の子ってそんなもんですから…。これからですよ。6年生からでも変わる子もたくさんいますから。お母さんが諦めてどうするんですか?」
と諌められました。
「先生にそうおっしゃっていただいても、私は学業について期待していないんです。それよりも、息子には自立した大人になってほしいのですが、どうしたらいいと思いますか?」
とこたえを求めて詰め寄るように質問しました。
「自立ですか、人生において最も大切なことだと私も思いますよ。“自主・自立”という教育方針を打ち出している私立中学校は、ここ最近非常に増えています。社会的な問題を背景にしているのでしょうか…」
と塾長。そう言って、いくつかの私立中学校のパンフレットを見せてくださいましたが、私の求めているものとは乖離がありました。
「ご紹介いただいた学校は、確かに自主・自立を謳っていますよね。ですが、近隣の中学校だと結局“ママ、ママ”と私にまとわりついて、何一つ自分で考え行動できる人にはなれないような気がするんです。うちは母子家庭なので、子どもが頼れるのは私しかいないから余計です。いくら学校が自主・自立を打ち出していたとしても、うちの子どもが福沢先生のいう一身独立するイメージが持てないんですよね…」
と告白すると、「清宮さんは、母子家庭だったんですか。じつは私も母子家庭育ちなんです」と塾長。
「近隣の中学校だと甘えてしまうということは、全寮制の中学校でもいいということですか? そうであれば、選択肢は日本全国に広がりますね。でも、お母さん。大丈夫ですか? 遠くに行ったら、なかなか息子さんに会えなくなりますよ。共同生活に馴染めるかどうかも心配なところですよね。それによくあるケースですが、いざ全寮制に行くとなったら、父兄が“やっぱり手元に置いておきたい”とか“子どもと離れるのは寂しい”と言い始める方が多いのですが、本当に大丈夫ですか?」
と3度ほど念押しをされました。
「それに今の息子さんの成績だと、行きたいところに行けるとは限りませんからね。そのことも考えなくてはなりません」。
こたえが出たようだけれども、さらなる大きな問題を抱えてしまったような気分で塾を出ました。
今回の学びと葛藤《まとめ》
●「凡(およ)そ人の子のかしこきも、おろかなるも、よきもあしきも、大てい父母の教えによる事なり。」(by吉田松陰)
● 中学受験でも、成長した我が子の姿を描く必要がある
● 強く自立させたいなら、中学校から全寮制の選択肢もあり!?
続きを読む
【シングルマザーの中学受験・奮闘実録】を最初から読む<<
息子による手記【偏差値33からの逆転☆中学受験】はこちら
執筆/清宮ゆう子