「第3の性」とも表現される「ノンバイナリー」とは、どのような人のことを指す? 意味や似た言葉との違いを紹介

ノンバイナリーは日本ではあまり知られていない言葉なので、初めて聞く人も多いでしょう。ノンバイナリーの意味や、間違えやすい他の言葉について解説します。ノンバイナリーを巡る世界の状況や、抱えやすい問題についてもチェックします。

ノンバイナリーってどういう意味?

近年、ノンバイナリーという言葉が世界的に広まり、メディアやSNSでも取り上げられる機会が増えています。ここでは、ノンバイナリーの意味や理解に必要な基礎知識を見ていきましょう。

「第3の性」と表現されることもあるノンバイナリー

現代社会では、「性別は男性か女性の2種類である」とする考え方が根強くあります。この「バイナリー(binary 二者択一)」を否定するのがノンバイナリーです。

ノンバイナリーは「男でも女でもない」「男でも女でもある」というように、本人の認識する性別が男女の枠で定められない人、あるいは定めたくない人を指します。

ただし、人によって認識に幅があるので、どのような意味で使っているかは本人に確認する必要があります。

セクシュアリティには4つの視点がある

実は、セクシュアリティには以下の4つの視点があります。

●生まれ持った「身体の性」
●自分が認識する性別である「心の性」
●恋愛対象となる「好きになる性」
●言葉遣いやファッションなどの「表現したい性」

よく誤解されますが、好きになる性を表す「性的指向」は先天的なもので、後天的な性的嗜好と違って自分では変えられません。

セクシュアル・マイノリティの存在が広く知られるようになり、セクシュアリティは男女できっぱり分けられないことが分かってきました。実際のセクシュアリティはグラデーションで、4つの視点にもさまざまな組み合わせがあります。

ノンバイナリーを認める世界の動き

現在、世界的に見るとノンバイナリーを認める動きが活発化しています。2019年には、アメリカのカリフォルニア州で、公的文書などにおいて男女の他にノンバイナリーを選べる法律が施行されました(California Gender Recognition Act)。さらに2021年6月末時点で、アメリカの約20州でノンバイナリーが選べるようになっていました。

また、2019年に伝統あるアメリカの辞書『Merriam-Webster』が今年の言葉に「they」を選びました。英語には性別を区別する三人称単数代名詞 he、she があるため、性別を特定しない単数の「they」を三人称単数代名詞として用いるケースが広まりつつあります。

ノンバイナリーと似た言葉

ノンバイナリーと似た言葉には「Xジェンダー」「ジェンダーレス」「クエスチョニング」「ジェンダーフルイド」があります。これらの言葉とノンバイナリーの共通点と違いを説明します。

ノンバイナリーとXジェンダーの違い

Xジェンダーは日本で生まれた言葉で、男性にも女性にも当てはまらないセクシュアリティのことです。ノンバイナリーとよく似ているので同じ意味で使われる場合もあります。

Xジェンダーは日本で生まれた用語で、性自認が「男」「女」に限定されないあり方を指すとされます。ノンバイナリーは英語圏で用いられる広い総称で、性自認(場合により性表現も)を男女二元に限定しない人々を含みます。用法は重なる部分が大きく、個人や文脈で差があります。

また、Xジェンダーの中には男女の枠組みを前提にしている人も含みますが、ノンバイナリーは従来の男女の枠組みにとらわれない認識です。

ノンバイナリーとジェンダーレスの違い

ノンバイナリーと間違えやすい単語に、ジェンダーレスやジェンダーニュートラルがあります。

ジェンダーレスとは「男性と女性で人を区別しない価値観」のことです。いずれも近い概念ですが、文脈(制度・商品・ファッション等)によって使い分けられます。

ジェンダーレスは考え方を表すので、その人のセクシュアリティは関係ありません。一方、ノンバイナリーは男女の性別で区別しない点は同じですが、対象が自分の性自認と性表現である点が異なります。

クエスチョニングやジェンダーフルイド

ノンバイナリーのように、男女の枠組みに当てはまらないセクシュアリティが、クエスチョニングとジェンダーフルイドです。

クエスチョニングは、自分の性自認や性的指向が決定していない、または定めないことを選んだセクシュアリティをいいます。自分の性自認や性的指向がよく分からず「考え中」の人も含まれます。

ジェンダーフルイド(gender-fluid)は、性自認が揺れ動き、状況やその日によって変わるあり方を指します。

ノンバイナリーが「性自認・性表現」を指すのに対して、クエスチョニングは「性自認・性的指向」、ジェンダー・フルイドは「性自認のみ」を指す点が違います。

ノンバイナリーと関係ある言葉

ノンバイナリーを理解する上で知っておいた方がよい言葉を紹介します。ノンバイナリーと「クィア」「トランスジェンダー」との関係を見ていきます。

ノンバイナリーはクィアの一部

クィア(Queer)は、すべてのセクシュアルマイノリティを含む言葉です。もともとは同性愛者への差別用語でしたが、1980年代頃からセクシュアルマイノリティの人々が自分たちを「クィア」と呼ぶようになりました。今では性的マイノリティの連帯を表す言葉でもあります。

よく目にする「LGBT」は、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字を並べた言葉です。

これら4種類にも当てはまらないセクシュアルマイノリティを含む言葉として「LGBTQ+」も使われ始めています。この「Q」はクィアやクエスチョニングを表すとされ、ノンバイナリーもクィアに含まれます。

ノンバイナリーとトランスジェンダーは間違われやすい

ノンバイナリーとトランスジェンダーは、しばしば混同されます。トランスジェンダーは、身体的な性と性自認が異なるセクシュアリティをいいます。両方が一致している人はシスジェンダーです。

例えば、身体的なセクシュアリティが男性で性自認が女性の人は、多くの場合女性として生きることを求めます。

つまり、トランスジェンダーは自分の性自認に従って生きることを望んでおり、男女の枠組みを前提にしているといえます。男女の枠組みにとらわれないノンバイナリーとは違う考え方です。

ノンバイナリーが抱えやすい問題

ノンバイナリーが分かってきたところで、ノンバイナリーの人の生きづらさがどのようなものか理解しましょう。もしかしたら、身近な人の中にもノンバイナリーとして苦しんでいる人がいるかもしれません。

男らしさにも女らしさにも馴染めない

ノンバイナリーが直面しやすい困難の一つは、社会的に男性らしさや女性らしさを求められたり、どちらかに分類されたりする場面で困惑するというものです。

伝統的な男らしさ女らしさに対する考え方は今も根強いので、ノンバイナリーの人が身体的な性にとらわれない行動をすると、学校や職場でいじめやハラスメントに遭いやすいのも問題です。深刻な場合には、ストレスから外出や社会活動が困難になることもあります。

ノンバイナリーは、セクシュアルマイノリティの中でもまだ広く知られていない存在なので、居場所を見つけにくく本当の自分が理解されないと感じやすいでしょう。

立ちふさがる「普通」や法律の壁

ノンバイナリーは男女の枠組みにとらわれないので、好きになる性別も人それぞれです。ノンバイナリーの人が同性とパートナーになった場合、ゲイやレズビアンの人と同じように、生活・医療上の問題が起きます。例えば以下のような事例は珍しくありません。

●不動産屋や大家に断られて家を借りられない
●入院したパートナーの手術に同意できない
●異性婚なら受けられる福利厚生を受けられない

このような問題を解決するため、最近は自治体が同性カップルを認める「パートナーシップ制度」が広まりつつあります。

2025年8月時点で、全域導入している都道府県は33、部分導入されている都道府県は14です。ただし、国の法律で認められた婚姻ではないため課題は残っています。

出典:パートナーシップ制度導入自治体|情報データベース

ノンバイナリーについて理解を深めよう

ノンバイナリーをはじめ、セクシュアルマイノリティに対する風当たりはまだまだ強いのが現状です。

例えば、ホモ・オカマ・ニューハーフなどの差別用語や「普通の人」という言い方は、セクシュアルマイノリティの人を傷付けることがあります。差別的な意味合いを含まない、ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーに言い換えるのが適切です。

本人の了承なしに、人の性的指向や性自認を他人に話すこともNGです。不本意に知られた人が精神的・社会的に追い込まれる可能性があります。

ノンバイナリーの意味や尊重の仕方を理解し、誰もが自分らしく生きられる社会を目指しましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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