子どもに障がいがあると、親は変わる必要がある
障がいがある子どもの子育ては、わからないことだらけです。子どもの障がいが、どのようなものなのか、どう支援すれば成長できるのか。ほとんどの人がそうであるように、私は知識を持ち合わせていませんでした。子育てのために、そして障がいがある子どもを理解するために、新たな知識の補充や生活上の工夫が必要だったのです。
そのために、担当の医師や支援級の先生に相談したり、同じ障がい児を育てる親と情報交換を通じて、子どもに起こったことを少しずつ整理してきました。また子どもの言動を観察して理由を推察したり、コミュニケーションの取り方に工夫を重ねてきました。そうして少しずつ、子どものことを理解するようになりました。
障がいがある子どもを育てるためには、知識を補完し、自らの行動を変える「障がい児の親になる」ための努力が必要でした。しかし、このような親としての在り方は、現代において障がいのあるなしに関わらず、誰もが必要になりつつあります。私たちを取り巻く社会が変化する速度が、年々早くなっているからです。

親の現代社会への感度は子どもの成長に影響する
現代の子どもは生まれて間もない頃からインターネットを利用し始めます。そのため親が子どもだった時代に比べて、新しい情報が入手しやすく、成長の過程で触れる情報の量も格段に増えています。
子どもの中で起こっていることを理解するために、親もある程度の社会状況の変化に対する感度が求められる時代になりつつあるのです。ですから、親がただ日々を何も考えず過ごしていると、現代を生きる子どもへの理解は追いつかなくなる可能性があります。
家庭において、外で仕事をしている親は、子どもにとって身近な現代社会との接点でもあります。そして親子のコミュニケーションを介して、親の社会状況に対する見方は、子どもの「将来の仕事への向き合い方」に影響します。
近年はたった数年で国際情勢は変わり、生活を取り巻くテクノロジーは進化するようになったため、成長した子どもが属することになるであろう社会の情勢を予測することは、ほぼ不可能になりました。親であっても子どもを導くことが難しくなった今、時代の移り変わりへの感度が低いと、子どもにも誤ったことを伝えてしまうかもしれません。

私は子どもだった頃、親から「どんなときも真面目な努力は報われる」という教えを刷り込まれてきました。素直だった私はその言葉を信じ、自分にとって価値があるのかを吟味しないまま、周りから求められるままにいろいろなことに真面目に取り組んでは挫折し、責任を押しつけられ、心身を消耗しきってしまいました。そしてようやく、親からの教えが自分には合わないことに気がつきました。
年功序列が当たり前だった時代では、その教えは間違いとは言えなかったかもしれません。しかし時代が変われば、適切な行動も変わります。親の仕事に対するスタンスや社会状況への感度が、子どもの「社会人像」の形成に影響するなら、現在の社会や仕事に対する親の向き合い方もまた、子育てにおいて大切になるのです。
現代の子どもが見過ごせない親の行動
子どもは、現代社会に生きる親の行動を見ています。その中で、どのようなところが目に留まるのか。それは親が「反省しているかどうか」です。
大人であっても失敗を認めることは、行動を変容しようとする努力そのものです。常に変わりゆく社会に向き合い、自身の失敗を認め、試行錯誤を重ねて新しいことに取り組みながらも、変えてはいけない自身にとっての本質を見極めようとしているのか。それとも、社会が移り変わる様に注意を払おうとせず、歳を重ねても成長しないままやり過ごそうとする態度を決め込んでいるのか。
そのような親の立ち振る舞いは、成長の最中にいる子どもにはどうしても目につき、見過ごすことができません。その結果、親の行動を取り込んだり、あるいは反面教師として扱われることになります。
どのような形であれ、親が反省を糧に、移り変わる社会に適応しようとする後ろ姿は、子どもがこれからの社会をしなやかに生きることにつながります。歳を重ねても態度を改めようとする姿勢を通じて、柔軟であることの大切さが子どもに伝わるからです。

子どもとの対話が親を成長させる
親にとって、年齢が離れている子どもと対話を重ねることは、価値観をアップデートさせることでもあります。子どもは親よりも、新しい価値観を持っているからです。
それは子どもが思う生活の在り方を理解することでもあるのですが、時には価値観が相入れないこともあるでしょう。それもまた、親子にとっては「価値観が異なるもの同士が互いを大切にするためにどのようなコミュニケーションを取ればよいのか」という現代社会を生きるために不可欠な学びの機会になります。
そのような対話を重ねていると、いつしか親の中に「時代が変わっても変わらない普遍的なことを子どもに伝えたい」という気持ちが芽生えます。そのためには「本質的な考え方ができる親」になる必要があります。子どもの存在自体が、いつも親を成長させてくれるのです。
記事執筆
医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。広汎性発達遅滞がある子どもを成人まで育てた2児の父。著書『障がいのある子どもを育てながらどう生きる? 親の生き方を考えるための具体的な52の提案』(WAVE出版) はAmazon売れ筋ランキング 【学習障害】で1位 (2025.6.6)。
障がいがある子どもの子育てはいつまで続くかわからない。
育児、教育、仕事、時間、お金、周囲との関係、親亡きあとの子どもの将来、そして自分の人生——— 親であるあなたのことを後回しにしないために。
発達障がいの子を社会人になるまで育ててきた著者が試行錯誤してわかった、自分も子どもも優先する「こう考えればよかったんだ!」を全部詰め込んだ1冊
障がいのある子どもが不憫だし、そういう子どもを育てている自分も不幸なのでは———
親の生き方は子どもにも伝わる。まずはあなたが軽やかに生きる。
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