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教師志望だった大学時代。営業職、塾講師を経てYouTuberに。葉一さんのこれまでの歩み
――葉一さんのこれまでの歩みとYouTubeを始めたきっかけについて教えてください
葉一さん 小学生の頃はいたって普通の子どもで、群馬県で平和な小学校生活を送っていました。しかし、中学生になっていじめを経験したんです。特に中2、中3の頃は学校に行きたくなかったし、生きるのがしんどかったです。ただ、高校に入学すると人間関係が変わり、いじめもなくなりました。そして、数学で恩師と言える先生に出会ったんです。これが自分にとっては一つのターニングポイントでした。
その影響で自分も教師を目指すようになり、東京学芸大学に進学しました。大学は周りの友人も教師志望で、もちろん自分も教師になると思っていたのですが、学生生活を送る中で、いろいろ考えたり、人との縁があったりして、卒業後は一般企業に就職して、営業職に就きました。
――そこから、どのようにYouTuberの道に転向されたのでしょうか?
葉一さん 営業の仕事でドクターストップがかかってしまい、塾講師に転職をしました。いざ塾で働いてみると、経済的な事情で塾に通うことのできない家庭が思ったより多いことがわかりました。塾の側から見たらそれは仕方のないことなのかもしれませんが、どうしても私は見過ごせなかったんですよね。子どもたちが頑張りたいと思ったときに頑張れる場所が欲しいと思ったんです。でも、そんな場所は見つからないし、塾講師の仕事はとても忙しい。だからまず塾を辞めました。そして、忘れもしない2012年5月31日。たまたまYouTubeを見ていて、「ここに授業を投稿すれば誰でも見られる!」と思ったんです。それでその翌日に1本目の動画を投稿して、気づいたら14年目になっていました。
――すごい行動力ですね! 迷いはありませんでしたか?
葉一さん 私は基本的にビビリな性格で、「石橋を叩きすぎて壊す」ようなタイプなんです。当時のYouTubeは今とは異なり、無断転載された動画がたくさんアップロードされていた時代。そんな中で自分の顔を出して授業をするというのは、かなり勇気のいることでした。でも、考えれば考えるほどやらなくなる自分が想像できたからこそ、すぐに走り出そうと決めたんです。ホワイトボードを持っている友人がいたので、すぐに電話をして借りに行って、あとは家にあるものを使って撮影しました。
――投稿された動画は、今どのくらいあるのですか?
葉一さん 生配信の回も含めると4000本以上です。私はとにかく「網羅させる」というのが好きなので、授業動画はコンスタントに撮ってどんどん投稿していました。現在は授業動画ではなく、子どもたちのメンタルをフォローする動画を週に1回投稿しています。
「相談できる大人が欲しかった」葉一さんがメンタルサポートを大切にする理由
――葉一さんが子どもたちのメンタルサポートを大切にされている理由を教えてください。
葉一さん やっぱり自分が中学時代にいじめを受けてしんどかった頃、話せる大人がいたらよかったなとすごく思うんですよね。私は妹に障がいがあったので、母には余計な心配をかけたくないという気持ちが強かったですし、父も多忙で家にいなかったので相談することはできなくて…。だから、今YouTuberという立場ではあるのですが、中学時代の私のようにつらい思いをしている子どもたちを画面越しでも支えられるということを証明したいです。動画の中で私の本心以外は絶対しゃべらないということは絶対に決めていて、それだけはずっと守っています。
――14年間の中で、子どもたちに変化を感じることはありますか?
葉一さん 1番感じているのは、「失敗は成功のもと」という言葉が通じなくなったということですね。失敗に対する恐怖心が、どんどん強くなっているという気がします。今の子どもたちはSNSが普通にある中で生きてきて、多くの「炎上」を見てきてるんですよね。私たちからすると炎上というのは有名人のことのように思うのですが、彼らは身近にそれがあって、少しでも失敗すると怒られ、叩かれ、同じ場所に戻ってこられなくなるという意識があるんですね。「受験に失敗したら、人生が終わる」というような相談もたくさん来ますね。もちろん大人だって失敗はしたくないですが、年齢とともにリカバリー方法もわかってきますよね。でも子どもたちはそれも知らないから余計に怖いというのもあるかもしれません。
――近年は不登校の子どもも増加傾向にあります。家庭学習で葉一さんの動画を活用されている子どもも多いのではないでしょうか?
葉一さん 「前向きな不登校」という言葉も聞かれるようになり、そういった選択肢が以前よりは増えているように感じますね。最初はYouTubeで勉強することや、アドバイスをもらうことに抵抗がある親御さんも多かったです。でも、子どもたちが頑張る姿を見て、少しずつ私の動画も一緒に見てくれているという声を聞くことも多くなり、うれしく思っています。
現在小学生の息子さんを子育て中! デジタルデバイスとの付き合い方のヒント
――葉一さんご自身も子育て中ですが、どんなことを大切に子育てをされていますか?
葉一さん 小6と小3の息子がいます。私はもちろん父ではありますが、子どもたちを子ども扱いすることはあまりしていなくて、1人の「人と人」というか、「男と男」みたいな距離感は大事にしてきたとは思います。あと、これは守れていないこともありますが(笑)、「勉強しろ」という言葉は言わないようにしています。そのかわり、「どんな質問をされても、絶対に助けるからね」とずっと伝え続けています。思春期になると変わってくるとは思いますが、今は歳の離れた兄弟のような関係でもあります。

――YouTuberという立場から見て、お子さんのデジタルデバイスとの付き合い方はどのようにお考えですか?
葉一さん これは難しいですよね。私も本に書いてあるようなことしか言えないのですが、やっぱりそれぞれの家庭でのルールを決めることだと思うんですよね。子どもにとってはそのルールは不利益なものですが、「パパやママも一緒にルールを守っていくから、頑張ろうね」と伝えることが大切だと思います。うちの息子の場合はゲームが好きなので、その時間の管理が難しいところではあるのですが、1日に30分のゲーム時間はOKとしています。それに加えて厚紙で作ったチケットを私がたくさん作っていて、たとえば「プリントを2枚やったら10分チケットゲット!」のようなシステムにしています。途中で制限をつけるのは本当に大変ですから、はじめに子どもが納得できるルールを家族で決めるのがよいと思います。
今後は授業動画を発展途上国の学びの機会につなげたい
――葉一さんが、今後挑戦してみたいことや夢はありますか?
葉一さん 昨年、仕事でパキスタンを訪れました。パキスタンは識字率が低い地域も多く、親世代が就学していないため、子どもも学校より就労が優先されがちです。そんな環境の中ですが、仕事と学校を両立している子たちはみんな目をキラキラさせながら勉強していました。私はそこで教育の素晴らしさを実感するとともに、もし、映像の力を使ってこの子たちがもっと柔軟な学び方ができたら、未来は変わるし、次の世代ももっと学びやすくなると感じました。だから世界の子どもたち、特に発展途上国の子どもたちに学びの機会を与えられるようなことができたらいいなと強く思っています。すごく時間のかかることですが、残りの人生をかけて挑戦していきたいです。
後半では葉一さんに子どもの算数の力を伸ばすコツ、わかりやすい授業動画のこだわりを伺います!
お話を伺ったのは
1985年、福岡県生まれ。東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程数学選修。大学卒業後は教材の営業職、塾講師を経て独立。2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設し、登録者数は209万人(2024年12月現在)。学生や保護者向けの講演活動を精力的に行うほか、テレビ出演や教育系メディアへの寄稿も多い。著書に『塾へ行かなくても成績が超アップ! 自宅学習の強化書』(フォレスト出版)、『やる気ゼロからでも成績が必ずアップする 一生の武器になる勉強法』(KADOKAWA)などがある。
取材・文/平丸真梨子