本来、子どもと算数は相性のいい関係
――「算数を勉強して、大人になったときに何の役に立つの?」ふと子どもからそんな質問をされ、答えに詰まった親御さんもいるかもしれません。先生はどうお考えですか?
宮本先生:なぜ算数を学ぶのか。それは「幸せになるため」に必要なことだからです。幸せって何? いい学校に入って、いい会社に入って、いい結婚をすること? そんなことじゃありません。幸せというのは、「自分らしく生きること」。そのためには、自分の頭で考え、選び取る力が欠かせないんです。

――なるほど“幸せに生きる力”を育てるのが、算数ということですね。
宮本先生:そうです。算数は、答えを出すための訓練ではなく、「考える練習」をする教科です。間違ってもいい。時間がかかってもいい。大切なのは、答えではなく“考えようとする過程”なんです。そこにこそ、学ぶ意味があります。
まずはパズルで“数の面白さ”に火をつける
――あの藤井聡太棋士も、幼少期に先生の「賢くなるパズル」にはまり、初級・中級・上級とどんどん進み、幼稚園時代にすでに四則演算をこなしていたと、以前新聞記事で見ました。
宮本先生:まずはパズルで「数そのものの面白さ」に気づいてもらうことが大切。そこから算数に入っていけば、嫌いになることもそう多くないと思いますよ。

宮本先生:たとえば、このようなルールにしたがってループ(輪)を作るパズルがあります。これは、自分の意思で、自分の手順で、自分の考え方で進めていく。3+5=8という計算は、誰がやってもみな同じ方法ですが、このパズルの解き方は無限にある。どこから解き始めてもいいから、いくらでも楽しめるんです。
――確かに、考える過程そのものが楽しそうです。
宮本先生:そうなんです。簡単にうまくいくことって、すぐに飽きちゃうでしょう? でも、なかなかうまくいかないことに挑み続けて、うまくいったときの喜びは格別です。人生だって同じ。算数は、その“過程の喜び”をいちばん感じやすい教科なんです。
ハードルを越えたご褒美は、もっと高いハードル。知的な挑戦が喜びにつながる――算数は、そういう意味でも子どもと相性のいい教科だと思います。
親がやりがち、でもやってはいけない関わり方
――でも、そんな「相性がいい算数」を、なぜか好きになれない子どももいますよね。
宮本先生:本来は仲良くできるはずなのに、せっかく“子どもと算数の関係”がうまくいきそうなところで、親がその仲を壊してしまっていることが多いんです。
ありがちなNG例をいくつか挙げてみましょう。
【NG①】「こうすればいいのよ」という親のひとこと
宮本先生:小学生の算数くらいだと、親は問題を見た瞬間に解き方がわかることが多いですよね。だから、子どもがなかなか答えを出せずにいると、つい「こうすればいいのよ」と口を出したくなる。でもこれは、絶対にやってはいけません。
子どもが一番うれしいのは、自分の力で答えにたどり着けた瞬間なんです。「できた!」というその喜びが、次の学びの原動力になる。なのに、親が先に答えを言ってしまったら、その喜びをまるごと奪ってしまうことになります。
【NG②】「計算至上主義」の考え方
宮本先生:「自分が算数や数学が苦手で、肩身の狭い思いをしたから、子どもにはそんな思いをさせたくない」、そう考える親御さんは多いです。その気持ちはわかります。
でも、そこで“計算が速くなること”ばかりを目的にしてしまうと、算数の本質から離れてしまう。計算が速い=算数ができるようになるわけではありません。
【NG③】「簡単でつまらない問題ばかり」させる
宮本先生:算数の教材は、実は4つのタイプに分けられます。「簡単でつまらない」「簡単で面白い」「難しくてつまらない」「難しくて面白い」。このうち世の中の教材の9割が「簡単でつまらない」ものなんです。
そんな簡単でつまらない問題集を「1日1ページやりなさい」なんて言われても、面白くないですよね。しかも終わったら、親に答え合わせをしてもらわなきゃいけない。
でも、パズルなら違います。解けた瞬間に「自分でできた!」とわかる。しかも面白い問題なら、子どもは自分から進んでやります。

宮本先生:たとえば、マス目の中に1〜4の数字を入れて、ブロックごとの合計が指定の数字になるようにするパズル。これを解くには自然と頭の中で足し算をする必要があります。つまり計算練習をしているのと同じこと。
ただ20問並んだ計算ドリルと、このパズル。どちらをやってみたいかは、一目瞭然ですよね。
親がすべきは「何もしない」、関わるなら「同じ目線」そして「勝たせる」
――では、親はどのように関わればいいのでしょうか?
宮本先生:基本は「何もしない」、関わるときは「子どもと同じ目線」で、もし競うなら「子どもに勝たせてあげる」ことです。
以前塾に通わずにぐんぐん伸びたお子さんがいましたが、そのお母さんは、小学校6年間ずっと、私の教室のライブ配信をお子さんと一緒に見て、一緒に問題を解いていたんです。すると、自然に「お母さん、3問目どう解いた?」なんて会話が親子の間で生まれる。これはすごくいい関わり方です。

――一緒にやってみるという姿勢は大切なんですね。
宮本先生:ただ、競争になったとき、親が勝ってばかりというのはよくありません。「子どもにも手加減しないほうがいい」と言う人もいますが、それは間違い。だって、目的は“子どもを伸ばすこと”ですから。こてんぱんにしてしまったら、ふてくされるだけです。
私は今、小学1年生の娘と「どうぶつしょうぎ」をやりますが、勝ちは譲ります。このくらいの年齢なら、わざと負けてもまだ見抜かれませんからね(笑)。
算数と国語、実は“同じ力”で解ける!
――「算数が得意な子は国語が苦手」というイメージもありますよね。やはり算数と国語では、使う頭の部分が違うのでしょうか? 両方の力を同時に伸ばすのは難しいですか?
宮本先生:「算数は答えがひとつしかないけど、国語はそうじゃないからつまらない」と子どもは言うんですが、そんなことはありません。
私の教室では、6年生に私が国語も教えていますが、中学入試で問われているのは、感性や文章力ではありません。試験ですから、国語だって算数と同じように答えはひとつ。つまり、国語も算数と同じように「論理的思考力」が求められているんです。
ーー国語と算数には同じ力が必要と話す宮本先生。後編では、先生が開発した国語と算数を同時に伸ばす方法、問題集の選び方、成績の上げ方など、保護者の皆さんが知りたい情報を根掘り葉掘り伺います!
後編はこちらから
お話をうかがったのは…
1959年生まれ。早稲田大学第一文学部演劇学科卒業。学生時代に塾業界に携わり、大手進学塾の講師を経て、1993年に「宮本算数教室」を横浜に設立。
入塾は“無試験・先着順”ながら、卒業生の約8割が首都圏の最難関中学校へ進学するなど、その実績と独自の指導法で知られる。現在は東京都千代田区で、小学1年生から6年生を対象に授業を行っている。
著書に「算数と国語を同時に伸ばすパズル」(小学館)、「賢くなるパズル」(Gakken)、「強育論」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。「情熱大陸」(MBS)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ)ほか、多くのメディアにも出演している。
取材・文/篠原亜由美