
干支の「午」と動物の「馬」は関係ない!

今年の干支(えと)は午、つまりウマです。でも、「午」という漢字自体は、動物のウマとは何の関係もないという話は以前書きました。動物のウマは漢字で書くと「馬」です。
ウマは古い時代に、大陸から日本に渡来したと考えられています。その痕跡は、ウマという名称そのものに残っているようです。ウマという名称は、「馬」という漢字の字音である「マ」から転じたものだと考えられているからです。『広辞苑』の編者として知られる新村出(しんむらいずる)は、日本でのウマという名称が大陸でのこの動物の名称に酷似していることから、日本馬の系統は「亜細亜大陸に連接して居るものと信ぜられる」と述べています(『琅玕(ろうかん)記』)
『万葉集』などでは、「麻」と書いてマと読ませたり、「宇万」「宇摩」と書いてウマと読ませたりしています。平安時代になると「むま」と表記したものもあります。
「馬」の漢字の筆順問題~どう覚えてる?

「馬」という漢字は、ご承知のように、ウマの頭・たてがみ・尾・4本の足を描いた象形文字です。ウマの体のどこの部分が、今の「馬」という漢字のそれぞれどの部分になったのかを考えてみると、楽しいかもしれません。
ところで「馬」という漢字を手書きするとき、みなさんはどの部分から書きますか?
学校では、①左の縦線、②上の横線、③中の縦線、④中の2本の横線の順だと指導しています。これは、「筆順指導の手びき」という1958年に当時の文部省から出された筆順の原則を示した文書に拠っているからです。
ただし、「馬」の筆順は少しばかり問題があります。「筆順指導の手びき」でも触れているのですが、③と④が逆になる筆順も存在するからです。でも、「筆順指導の手びき」では「上から下へ」という大原則によって、③→④の順だとしています。従って、ふつうはそのような筆順にすべきでしょう。
覚えておきたい、縁起がいい「左馬」

最後にもう一つ。この「馬」という漢字ですが、これを左右反転させた鏡文字のようになっているものを見たことはありませんか。これは「左馬(ひだりうま)」と呼ばれています。山形県天童市では、縁起のよい図柄として、家を新築した人や新たに商売を始めた人へ、この図柄の将棋の駒を送る風習があります。
なぜこの図柄が縁起がいいとされるのかはよくわからず、諸説あるようです。たとえば、馬は左側から乗ると落ちないとか、「うま」を逆さに読んだ「まう(舞う)」が祝いの場での「舞い」を連想させるためなどといわれています。この図柄が将棋の駒(こま)に描かれているのは、将棋の駒が特産の天童市ならではという気がします。というのも「駒」はもともとは子馬、小さい馬の意味で、これが転じてウマの総称になり、さらには将棋で使う木片の意味になったのですから。
記事監修

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。
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