目次
「巳」は「へび」だが、十二支に使われる漢字には、もともと動物の意味はない
2025年は巳年です。
十二支は暦法で使われた語で、子(し)・丑(ちゅう)・寅(いん)・卯(ぼう)・辰(しん)・巳(し)・午(ご)・未(び)・申(しん)・酉(ゆう)・戌(じゅつ)・亥(がい)の12です。
そして、これらに12の動物をあてはめて、日本では、鼠(子(ね))・牛(丑(うし))・虎(寅(とら))・兎(卯(う))・竜(辰(たつ))・蛇(巳(み))・馬(午(うま))・羊(未(ひつじ))・猿(申(さる))・鶏(酉(とり))・犬(戌(いぬ))・猪(亥(い))と呼ぶようになりました。
中国では古くから、十二支に動物を当てはめていたのですが、なぜこれらの動物が選ばれたのか、実はよくわかっていません。というのも、「子」「丑」をはじめとして、「巳」もそうですが、十二支で使われる漢字には、もともと動物の意味はなかったからです。
「巳」という漢字は訓は「み」ですが、音は「シ」です。方角では南南東、時刻では午前10時ごろ、あるいは午前9時から11時のことをいいます。そして、十二支ではヘビに当てられています。
「巳」はへびの形状から生まれたという説
この漢字の字源はご想像の通り、ヘビが曲がりくねって尾をたれている形から生まれたと考えられています。
ではヘビは漢字でどう書いたかというと、今では「蛇」と書きますが、もともとは「它」と書きました。この漢字もヘビの象形(しょうけい=物の形をかたどった漢字の作り方)だというのですが、字の形から「巳」の方がすぐにヘビを思い浮かべることができる気がします。「它」に虫が付いたのは、「虫」は動物の総称だったからです。「蛙(かえる)」「蛤(はまぐり)」など昆虫ではない生物にも「虫」が使われているのはそのためです。
十干十二支でいうと今年は「乙巳」。子どもたちが必ず習う歴史上の有名な「乙巳の変」とは?
「干支」は「かんし」とも読みますが、もともとは「十干十二支(じっかんじゅうにし)」、つまり「十干」(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸)と、「十二支」(子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥)のことで、今年は十干十二支で言うと「乙巳(きのとみ)」です。「おっし」「いっし」とも読みます。
この「乙巳」を「いっし」と読んで、子どもたちが日本史で必ず習う、ある有名な政変の名称に使われています。「乙巳の変」です。
ただ、そんな政変なんか聞いたことがない、という人が40、50代の人の中にはけっこういるかもしれません。みなさんは大丈夫だと思いますが。もし周りにその世代の人がいたら、知っているかどうか聞いてみてください。教科書に出てくるんだよと言ったら、「エーッ!」となるかもしれません。かくいう私は60代ですので、最近まで知りませんでした。
「大化の改新」と習った親世代
「乙巳の変」は、645年(大化1年)に中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)(後の天智天皇(てんじてんのう))と中臣鎌子(なかとみのかまこ)(後の藤原鎌足(ふじわらのかまたり))らが蘇我蝦夷(そがのえみし)・入鹿(いるか)を滅ぼして新政権を樹立した政変です。実は1990年代くらいまでは、この政変を学校では「大化の改新」と教えられていたのです。現在では、このときのクーデター自体を「乙巳の変」といい、その後の改革を「大化の改新」と呼んで区別しているのです。
アップデートされた歴史用語はけっこうあり、昭和世代の私もしばしば驚かされます。そして辞書はそれについていかなければならないのです。
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。記事監修