
割れたおせんべいの袋詰めを「久助」と呼ぶ説は3つ
煎餅に、「久助」と呼ばれる商品のあることをご存じですか?
メーカー名のようですがそうではなく、また、煎餅の種類でもありません。作る段階で割れたり形が不ぞろいだったり、焼きにむらがあったりするものを袋詰めにして、通常の価格よりも安く販売しているもののことです。今でいう「わけあり」商品です。でも、なんで「久助」って言うんでしょうね。人の名前のようですが。
実はどうして「久助」と呼ぶのかはっきりしないため、以下のような説があります。
① 江戸時代に久助葛(くず)と呼ばれる上質の葛粉が料理人や和菓子職人の間で使われていたのを、割れたり形が崩れたりした菓子の屑(くず)と葛(くず)とを駄洒落で掛けて「久助」と呼んだという説。
② 完全なものを10とすると、少し欠けたものは9なので、駄洒落で「九助」→「久助」と呼んだという説。
③ 「五助」という名の職人がへまばかりしていたことから、割れたり形が崩れたりした煎餅を「五助」と呼ぶようになり、やがてそれが「久助」に転じたという説。
他にもあるのですが、いずれにしても確実な説は見当たりません。
せんべいだけでなく、お菓子全般の屑を指したこともあった
①の「久助葛」は大和国(奈良県)吉野産の上質の葛粉を言ったようですが、なぜ上質の葛粉を「久助葛」と呼ぶようになったのかがわかりません。
高木久兵衛(久助)という人が筑前(福岡県)秋月で製した本葛が江戸で広まり、これが「久助葛」と呼ばれたことによるという説もあります。ただ、高木久兵衛が秋月で葛の店を創業するよりも少し前の料理本に「久助葛」のことが書かれているので、これもいささか疑問です。
「久助」は今でこそ煎餅に使われることが多いようですが、煎餅に限らず菓子全般の屑をいうこともあったようです。1931年に刊行された隠語辞典の『特殊語百科辞典』では①の語源説を紹介していますが、「菓子の屑」としていて煎餅に限定していません。
吉原では、あつかましい者、愚かな者を「久助」「久」と呼んでいた
さらにこの辞典に拠りますと、「久助」と同じ意味で「五助」とも言われていたようです。③の説に近いようですが、「五」が「九(久)」に転じたというのはちょっと無理がある気がします。
「久」は、江戸時代に下男奉公をする者に久助、久次郎、久三郎、久七などと名付けるときに使われていましたし、吉原であつかましい者、愚かな者を「久助」「久」と呼んでいました。ひょっとすると「わけあり」の菓子の場合も、そのような見下したり、低く見たりする意味で使われているのかもしれません。
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記事監修

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。