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大切なのは「少しでも動く時間を増やすこと」
―石井先生が関わられた研究では、「3分30秒の軽運動で子どもの認知機能や気分が向上する」という結果が報告されています。まず、どのような研究だったのでしょうか。
石井先生:今回の研究では、体をひねる、伸びをする、ストレッチをするなどの軽い運動を取り入れました。認知機能や集中力への影響を調べたかったので、ランニングや筋力トレーニングのような負荷の高い運動ではなく、学校や塾でも実践しやすい内容にこだわりました。授業前や勉強の合間に、少しだけ体を動かす。それくらいの手軽さを重視したんです。
3分30秒はあくまで目安ですので、勉強の合間に部屋をぐるりと歩くだけでも構いません。時間を計らなくても大丈夫ですよ(笑)
―短時間の運動で、なぜ集中力が高まるのでしょうか。
石井先生:大きな理由の一つは血流がよくなることです。大人でも長時間座っていると集中力が落ちますよね。子どもも同じ。体を動かすことで血流が促され、脳に新鮮な刺激が入ります。すると、ぼんやりした状態がリセットされ、再び集中しやすくなると考えられています。
研究を続ける中で感じているのは、これは「体によい」だけでなく「心にもよい」という点です。少し体を動かすだけで気分が改善し、前向きな状態になりやすい。学習への取り組みやすさにもつながると考えています。
―運動が苦手な子どもでも取り組める方法はありますか。
石井先生:まずは「立ち上がること」から始めてください。
太ももは体の中でも大きな筋肉ですから、立ち上がるだけでも血流改善につながります。「集中力が切れたな」と思ったら立つ。少し歩く。伸びをする。それだけでも十分です。
私自身、子どもが宿題をしていて集中力が切れてきたら、立たせて歩かせることがあります。音読なら立ったままやることもありますし、動画を見ているときはCMの間だけトランポリンを跳ばせたりもしますよ。
なお、「横になっている」状態でも、血流が悪くなるのは座りっぱなしと同じです。横になってゲームをすると、つい時間が経ってしまうので気を付けてくださいね。
―外でよく遊ぶ子や、習い事でスポーツをしている子は、ふだんからよく動いているので「座りっぱなし」でもそもそも血流がよく、問題ないと考えてよいのでしょうか。
石井先生:実は、「運動すること」と「座りすぎないこと」は別の話なんです。例えばサッカーや水泳を習っている子どもでも、その後の時間をずっと座って過ごしていたら、体や心への影響は出てきます。しっかり運動していることと、長時間座り続けることは別問題なんですね。ですから、「運動する」というよりも、「集中力を保つために適度に動く」という考え方が大切です。

歩きながら暗記はアリ? 実は記憶の定着にも期待
―中学受験勉強をしていると、学年が上がるにつれてつい長時間座りっぱなしになってしまいます。
石井先生:高学年になると勉強時間が長くなるからこそ区切りをつくることが重要です。学校の授業も45分程度で区切られていますよね。集中力が切れてダラダラ続ける前に、一度立ち上がる。少し動いてから再開する。その方が結果的に効率よく学習できると思います。
―歩くだけでもいい、ということですが、勉強中に歩き回ると、「ちゃんと勉強しているの?」と思ってしまう保護者も多いと思います。
石井先生:そうですよね(笑)。でも、歴史の年号や英単語を覚えるときなど、必ずしも座っている必要はありません。歩きながら覚えてもいいんです。大事なのは座りっぱなしを中断すること。勉強の内容によっては、歩きながら覚える方が合っている子もいます。
昔から、歩きながら単語を覚えると記憶の定着率が高まるという研究があります。また、高齢者の研究では、体を動かしながら別の課題に取り組む「デュアルタスク」によって脳の活性化が期待できることも分かっています。
ラジオ体操の現代版! 石井先生も注目する「MEKIMEKI体操」
―昔は夏休みになるとラジオ体操がありましたが、今の子どもたちは体操に触れる機会が減ったようにも感じます。
石井先生:そうですね。最近は日本郵政との取り組みで、ももいろクローバーZの皆さんと佐藤弘道さんが監修した「MEKIMEKI体操」の効果検証も行っています。研究では、集中力の向上や、その時々の気分や感情状態の改善も確認されているんですよ。
MEKIMEKI体操は約3分でできる体操で、実際に取り入れている学校もありますし、音楽に合わせて楽しく取り組める点も魅力でおすすめですよ。
―どのような体操なのでしょうか。
石井先生:MEKIMEKI体操は、首や肩、腕、脚、背中など全身をバランスよく動かす内容になっています。運動が得意な子も苦手な子も参加しやすい強度です。激しい運動ではありませんが、座りっぱなしだった体をリセットするには十分。子どもでも楽しく続けやすいと思います。
―勉強前のウォーミングアップとしても使えそうですね。
石井先生:そう思います。勉強を始める前の「スイッチ」としても使えますし、集中力が切れてきたときの切り替えにも向いています。音楽に合わせて体を動かすだけでも、十分意味がありますからね。
子どもの運動習慣は、将来の健康貯金につながる
―先生は長年、子どもの身体活動について研究されています。現在の子どもたちに感じる課題はありますか。
石井先生:運動をする子としない子の「二極化」が進んでいると感じています。運動しない子は、本当に体を動かす機会が少なくなっています。

そして、子どもの頃の運動習慣や身体活動の習慣は、大人になってからも続いていくものです。今運動していない子が、大人になったからといって急に運動するようになるわけではありません。だからこそ、子どもの頃から「体を動かすのが当たり前」という感覚を身につけることが大切なんです。学習面だけでなく、将来の健康づくりという意味でも重要なテーマだと考えています。
「まずは2週間やってみましょう!」
―最後に、保護者のみなさんへメッセージをお願いします。
石井先生:決して無理をしないことですね。
行動変容の研究では、小さな行動から始めることが成功のコツだと言われています。いきなり「毎日しっかり運動させよう」と考えなくても大丈夫です。まずは2週間続けてみる。そのくらいの気楽な気持ちで始めるのがおすすめです。
習慣化には半年ほどかかると言われていますが、最初の一歩はとても小さくて構いません。無理なく、こまめに体を動かす。それは体の健康だけでなく、心の健康にもつながりますし、学習にもよい影響を与えることが分かっています。
「勉強のために座り続ける」のではなく、「動いて、集中して、また動く」。そんな素敵なリズムを、ぜひご家庭の中でつくってください。
お話をきいたのは
東京医科大学大学院公衆衛生学講座修了。博士(医学)。専門は健康教育学、発育発達学。現所属助手、助教、准教授を経て2017年より現職。主に、子どもの健康増進を目的とした身体活動を推進するための研究に従事。