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算数ができる子とできない子の差が、入学した時点でついている
――小学校で18年間教師をされていた中で、子どもたちの算数の理解度に課題があったそうですね
僕は5、6年生の担任が多かったのですが、その年齢になると算数ができる子とできない子の差がだいぶ開いています。「もう嫌だ、算数嫌いです」という子がたくさんいたし、一方ですごくできる子もいる。
じゃあ差がつく前はいつだろうと考えたとき、1年生まで遡ってもその差が埋まらないのです。
――1年生の時点で、もう違うと。
そうなんです。これはちょっと悔しいなあと思って、その原因は何だろう、と考えたんですね。学校の指導や学び方もあるんだけれど、そのもっと手前にある、生活の経験とか、親子での会話や関わり、それまでの体験みたいなものが違いを作っているのだろうと気づきました。

「2」という記号と「2個あること」がつながっていない子がいる
――その差はそれまでの生活の違いということなんでしょうか。
大きいとは思います。学習塾に通っているかいないかの差もありますが、特に通っていなくても、数字や計算が苦労なくできる子もいるんですね。
彼らは、数量感覚というか、パッと数字を見たときにイメージできる量感みたいなものを持っている。そこで得意・不得意が分かれてきているなと思います。
逆に、不得意な子は「数字の手ざわり」が身についていないんです。どういうことかと言うと、1年生の多くの子は、「2」という記号と「2個である」という状態がほぼイコールになっています。一方で、ここがイコールになっていない子もいるんです。「2」や「3」という記号と、「2個である」「3個である」というイメージがつながっていない。
僕はこれを「数字の手ざわり」と言っているんですが、これが身についていない子は、2+3と言われたときに、それが何を意味しているのかイメージできないまま、記号としての数字を扱わなくてはいけない。これはかなりきついんですよね。

勉強と思われずに、お風呂・食事・移動中にできること
――「数字の手ざわり」を育てるために、家庭でできることを教えてください。
まず、「勉強の時間だよ」とか「今からこれやってみよう」と言うと、子どもは「あ、親が何かやらせようとしてるな」と察します。ですから「日常にどう溶け込ませるか」が重要です。
例えば、お風呂や食事、お手伝いで料理をする子は料理。この3つはやりやすいです。あとは移動中ですね。習い事まで車や電車で移動するときなど、手と頭が空くのでやりやすいと思います。
【幼児】食卓にある「数字探し」
――小さい子だと、具体的にはどんなことができますか。
小さい子は「数字探し」が良いでしょう。食卓の上には、いろいろな食べ物のパッケージがありますよね。牛乳やふりかけ、佃煮の瓶だとか。そこにある数字を見つけるところからやってみてください。何グラムとか何ミリリットルという表示もあるし、バーコードの数字もある。成分表示にも数字がありますね。
同時に、パッケージには必ず何かキャッチコピーが書いてあるじゃないですか。牛乳なら「〇〇の大地で育まれました」みたいなことが書いてありますが、そういったコピーを読んでみるのも、すごく大事です。
ひらがなしか読めない子は、最初はひらがなだけ拾いますよね。でも、そのうちだんだん文脈で読み始めるんです。
「牛乳に書いてあるってことは、きっと“ぎゅうにゅう”って書いてあるだろうな」って。「新鮮な牛乳」だったら、「新鮮な」は読めないけど「牛乳」は読めたりするわけですよ。
そこで「なんで読めちゃったの?」とやり取りしながら、自分の身の回りにあるものと自分が、ちゃんとつながれるんだ、という経験を小さいうちからしておいてほしいんですね。

――算数というと数字だけに目がいきがちですけど、文字も大事なんですね。
そうですね。算数の問題は、文字を読んで、問題や場面を理解することが多いんです。文字で伝えようとしていることに対して、読んだら分かるという経験は大きい。
その点、食品パッケージは広告なので、こちらに対して思いきり訴えかけてきます。その、思いきり伝えようとしているものをどう受け取るか、ということが立派な訓練になります。
【小学生】「合わせて10」をゲームに
――小学生はどうでしょうか。
小学生なら、食品パッケージを見ながら「この中に同じ数字がいくつあるか探してみて」だったり、「合わせて10」をつくるゲームも楽しめます。
1年生では、合わせて10となる数字として「8のペアは2」「7のペアは3」を習いますが、この考え方で「今見えているパッケージの中で、合わせて10になる組み合わせを探してごらん」と言って探していきます。ゲームにしてしまうのがいいですね。食事どきでもいいし、レストランで待っているときにもできます。
また、レストランのメニューを見ていると、値段の末尾に98円が多いことに気づきます。これは「あとちょっとで何百円」という仲間。これを使い「あとちょっとで600円になるものを探そう!」というゲームもできます。
クイズが嫌な子には、「ちょっと分かんないんだけど」と親が困っているふりをして、そこから話をつなげてみてもよいでしょう。
――親御さんも頭を使いますね。
そうなんです。ですから、僕は親御さんにも教科書を見てほしいなと思っています。実は、算数の教科書には、今言ったような具体的な場面がたくさん載っているんです。
「日常に算数を落とし込むってどうしたらいいんだろう」と悩んだときの答えは、だいたい教科書に書いてあります。
今つまずいている単元に、原因があるとは限らない
――宿題を見るときに、親が気をつけるべきことは何でしょうか。
まず、お子さんがつまずいているとして、「どこでつまずいているか」を見つけるのは、実はかなり難しい話だと僕は思っています。
例えば、繰り上がりのたし算でつまずいている場合、10の合成分解でつまずいているのか、それとも「数字の手ざわり」で説明したように「2」という数字と「2個ある」というイメージが結びついていない状態なのか。意外と手前に原因がある場合もあるんです。
学年が上がれば上がるほど、どこでつまずいているのか、ということは分かりづらくなります。例えば、「わり算」には、かけ算も、繰り上がりのたし算も、繰り下がりのひき算も、作業として入ってきます。それぞれの単元を習っているときには気づかなくても、「実はその計算がスムーズにできなかった」というつまずきが表に出てきたりするんですね。
――では、どうすればいいんでしょうか。
「わり算が苦手だから、やりなさい」と言ってしまうと、何につまずいているか分からないまま、子どもは延々と苦手なことをやらなくちゃいけない。それは子どもにとってきついことなので、まず、どこまで戻るかを見極める必要があると思います。
問題を解いているとき、1~2問手元を見ていれば、時間がかかっているところがあるので、「あ、ここか」というのをピックアップしておいて、そこのトレーニングにつなげるのが一つかなと思います。

親は教えないほうがいい。「勉強嫌いにさせない」を最優先に
――子どもの宿題を見ていると、つい叱ってしまう親御さんも多いと思います。それについてはいかがですか。
何も言えないです。僕も同じなので(笑)究極的には「親以外の大人に見てもらう」のがいいと思っていて。それが学校の先生ならベストですが、難しかったら友達の親とか、自分の兄弟とかでもいい。親とは違う大人に見てもらうのが、勉強嫌いにならない、いちばん安全で間違いない方法だと僕は思っているんです。
でも、どうしても親が見ざるを得ないなら、教えないことです。
――教えない、ですか。
大人はつい「これってこういう仕組みでこうなってるんだけど」とか、「そうじゃなくて、こうやってやったらいいじゃん」とか、仕組みや理由を説明したくなってしまうじゃないですか。それをやめたほうがいいです。
目の前の宿題に関して、子どもは「できるようになりたい」とは思っておらず、「早くこれを終わらせたい」としか思っていません。そこに親の気持ちを詰め込むと、うまくいかないことしかないんです。
親と戦ってしまうとか、説明を延々とされて確かめさせられることで嫌になってしまう、というのを避けるべきかなと思っていて。最低でも嫌いにさせない。それが何より大事なことだと思います。
――どうしても「できるようにならせたい」と思ってしまいますが…。
「できるように」とか「分かるように」という気持ちはぐっとこらえて、先ほど伝えたような日常の経験を増やすほうを頑張ってもらう。
一歩も進めない状態であれば、「早くやる方法があるけど、知りたい?」ぐらいの歩み寄り方をしてみると良いでしょう。「聞きたい」と言ったら教えてあげたらいいし、「いや、いい」と言われたら、答えを渡して「これ見ながらやってみな」でもいいと思います。
――判断を、お子さんにさせるということなんですね。
そうですね。教えると反発したくなってしまったり、ふてくされたりするじゃないですか。そういう姿が目につくようであれば、メニューを与えて選択させる。教えてほしいのか、仕組みだけ知りたいのか、答えだけ知りたいのか。どれぐらいの距離感で知りたいのかを聞いてあげたほうが、早い気がします。
わが子に教えるのが、いちばん難しい
――ご自身のお子さんには、どう関わってこられましたか。
中3、小6の娘と、小2の息子がいるんですが、上の子が小学校高学年のとき、僕はめちゃくちゃ教えようとしてたんです。こっちは教師だから、「言えば分かるだろう」という変なおごりもあるわけですよ。今振り返ると、子どもにとって辛かっただろうなと思います。
末っ子は「算数嫌い」と言っているので、算数と気づかないように算数をねじ込んでます。例えば、時計を子どもの目の高さに壁にかけ、事あるごとにそれを拠り所にして生活するようにしたら、時計にとても強い子になりました。2年生で習う「何分前」「何分後」という単元はすごく難しいんですが、感覚的に分かっている感じがありました。
「これが5分だから、あと5分だったらここかな」というように、こちらが分からないフリをして、考えを口に出す。僕は「大きい独り言」と呼んでいますが、聞いていた子どもは「分かんないの?」と言いながら、見て学んでくれているようです。

算数が苦手な親こそ強い!
――親御さん自身が算数に苦手意識を持っている、という方も多いと思います。
算数が苦手なのは、利点だと思ってください。苦手な人は、そもそも子どもに教えようと思わないじゃないですか。先ほどお話ししたように、親が教えるといいことはあまり起きませんから。
「ママも分からないわ」という姿勢がすごく大事で、さらに「知らない」で終わらせず、「ママも分からないから教科書を見せて」と言えば、学ぶ姿のお手本になれる。これほど強い味方はいないと思うんですよ。
「教科書になんて書いてあるの?」と一緒に見てあげると、子どものほうが説明したくなるんですね。「もうママ全然分かってないじゃん」と口に出し始めたら、あとは「え? どういうこと?」と学ぶ側になってしまえばいい。子どもは、人に教えることで定着します。
文章題は「本を読みましょう」では解決しない
――文章題でつまずくお子さんも多いと思いますが、どう関わればいいでしょうか。
苦手だなというときによく言われるのが、「本を読みましょう」なんですが、僕は真っ向から反対したいと思っていて。もちろん、もともと読むのが好きな子は「もっと読んでください」で全然ありだと思うんです。
ただ、文章を読むのが苦手で、本も読まないという子に「本を読みましょう」というのは苦しいことです。数行の文章も読めないのに、一冊の本は読めないじゃないですか。
まず確認してほしいのは、「文章題を大人に読んでもらったら分かるか」というところです。これは結構大きな分かれ目で。
問題文を、大人が説明を加えずに読んであげます。読んでもらったことで「あ、そういうことか」と分かるなら、その子は「文字を音にして、意味を理解する」ところに引っかかりがあるかもしれません。文字の読みに困難があれば、そちらの対応が必要となります。
逆に、耳で聞いても「それってこういうことだよね」と場面を自分で言い換えることができない子もいます。多くはこのパターンですが、その場合は文章題の練習というよりは、「言い換えの練習」が僕はすごく有効だと思っています。
――具体的には、どんな言い換えでしょうか。
1つ目は、「こそあど言葉」の禁止です。例えば、「そこにあるやつ取って」ではなく、具体的に「机の上に載っている赤いフタののりを取ってほしい」と言い換える練習です。
2つ目は、主語を入れ替える練習です。「のび太はジャイアンに殴られた」を、「ジャイアンはのび太を殴った」というように。言い換えるためには、頭の中でのび太がジャイアンに殴られているシーンを想像しなければいけないですよね。こうした場面を想像することが、読解そのものなのです。
わが家でも、車の中では「これを逆にして」という遊びをしています。
――少し難しそうですが、小さい頃からできますか?
幼児さんなら、大きさを比べるのがいいと思います。「〇〇ちゃんのコップはお父さんのコップより小さい」を、「お父さんのコップは〇〇ちゃんのコップより大きいね」と逆にしてあげます。
同じことを違う視点から言い換えて、そういう言葉のシャワーを浴びせてあげるのは、すごくいいと思いますよ。いつも同じ言い回しにならないように、言葉のバリエーションを意識するといいのかなと思います。
――家でできることって、想像以上にたくさんあるんだなと感じました。
家庭環境が子どもの学力に関係する、という話をよく聞くと思いますが、僕はそのほとんどが、「親が使う言葉」だと思っているんです。
大人が普段どんな言葉を使っているか。子どもはそれを毎日浴びて育ちます。
日常の中でどれだけ質の高い言葉を味わえているか。そこがいちばん大きいと思っています。
ぽこぴぃさんの著書
毎日の声かけで、遊びで! 一生使える算数センスが身につく!3歳からはじめられる日常の楽しい「種まき」から、小学生の今「わからない!」まで!わが子を算数嫌いにしないために、親が今すぐできることが満載!
パパ、ママに贈る、学校では教えてくれない、世界一ハードルの低い「算数脳」の育て方!「公式を覚える前に、イメージする力を!」Instagramで大人気の元小学校教師・ぽこぴぃさんが、日常の中で子どもの「算数脳」を育むヒントを初公開。
この記事を書いたのは
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK「おはよう日本」、フジテレビ「Live news イット!」、読売テレビ「ミヤネ屋」などで気象キャスターを務める。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育に携わっている。