【大人の学び直し】シングルマザーで建築業界から看護師へ転身。「子どもは向き合う時間が取れなくても、親の背中を見ています」

子どもを産んでから、「あの職業に就けばよかった」「学校であの資格を取っておけばよかった」と思うことはありませんか。でも、現実的には子どもを育てながら学校に通うことは、金銭的にも体力的にも難しいことですよね。シングルマザーとなってから看護師資格を取り、現在は地元の病院のICU(集中治療室)で働く看護師のAさん。子どもを育てながら看護師の仕事にチャレンジし、さらに専門知識を持つ認定看護師の資格も取得しました。Aさんに、シングルマザーとして学業と子育てを両立させた日々についてお話を伺いました。

建築業界から一転、看護師を目指したきっかけ

――看護師になる前は、どんなお仕事をされていたんですか?

Aさん:もともと大学で建築を学んで、卒業後は関東の設計事務所で働いていました。結婚を機に地方に移り住み、息子を出産した後も自宅で図面を描くなどの仕事を続けていました。

――なぜ、看護師になろうと思ったのでしょうか?

Aさん:きっかけはいくつかあるのですが、最初に看護師という職業を意識したのは息子の出産のときです。当時、切迫早産のリスクがあったので出産予定日の2ヶ月ほど前から入院しました。このとき初めて“医療”を身近に感じ、「看護師さんってすごいなあ」と思ったのを覚えています。

その後、離婚を経験したことが大きなきっかけとなりました。子どもが2歳のときに別居して、実際に籍を抜いたのは5歳のとき。小学校入学のタイミングで両親が住む地元に戻る予定だったので、転職する必要があり、そのとき浮かんだのが“看護師”という選択肢でした 。

――そこからすぐに看護学校入学を目指したのですか?

Aさん:いえ、看護学校は全日制なので、小学生の子どもを抱えるシングルマザーにとって現実的選択肢ではないと、前向きに検討はしていませんでした。

転機になったのは母のひと言です。実家に戻ってしばらくして、「あんたこれからどうするの?」と聞かれ、さらに「看護師はどう? サポートするよ」と言ってくれたんです。私から母に“看護師になりたい”とは1度も話したことがなかったので、驚きました。そこから本腰を入れて看護学校を探し始めましたね。

看護学校選びは社会人枠と学費が決め手

――看護学校はどのように選びましたか?

Aさん:まずは専門学校を探しました。もともと学位は持っていたので、看護大学に行く必要はないと思ったんです。それに、看護師資格を取得するのに大学では4年かかりますが、専門学校では3年で取得できます。資格を取るだけなら、私には都合がよいと感じました。

あとは、一学年の定員数が多く、社会人枠があることもポイントでした。社会人枠は小論文と面接試験だけで受けられるので対策がしやすいですし、そこで落ちても定員数が多ければ一般試験で入学できるチャンスも残ります。

もちろん、立地や金銭的な面も意識しました。実家から通える立地かつ、貯金とひとり親手当の範囲で通える学校を選びました。私が選んだ学校は公立だったので入学金も安く、授業料は月1万円程度だったと記憶しています。

――看護専門学校は勉強や実習で忙しく、アルバイトをするのが難しいと聞きます。在学中の生活費を工面するのは大変ではありませんでしたか?

Aさん:
アルバイトはしていませんでしたね。私の場合は実家に戻ったこともあり、生活は両親がサポートしてくれましたし、今でいう職業訓練受講手当のような、ひとり親向けの給付金も受給していたので、幸い生活費に困ることはありませんでした。

――学生生活で大変だったことはありますか?

Aさん:大学の受験経験で学習の仕方が身についていたので、“テストでどう点数を取るか”という点ではあまり困りませんでした。これは、社会人ならではの強みかもしれません。

むしろ、実習中の化粧禁止など、看護学生ならではのルールに戸惑う場面はありました。30歳を過ぎてから入学しているので、化粧をしないのは正直厳しかったです(笑)。

また、実習での患者さんとの関わり方や看護技術の実践には苦戦しました。看護技術は、机上の勉強だけでは通用しないですから。

「自分らしく生きる」を支える看護師の仕事は、私の天職

――その後、無事に看護師になられましたがいかがでしたか?

Aさん:1年目は、「なんかおばちゃんが新人でやってきたぞ」ということで、他の同期よりも警戒され、年下の先輩から厳しく指導されることもありましたが、今となっては笑い話です。

何より、看護師として新しいことを学び続けられるのは楽しいですね。看護師は部署が変わるたびにその分野の勉強を一から学び直す必要があります。私は長く外科病棟で働いていたのですが、最近ICU(集中治療室)に異動になりました。今は、手術の前後の患者さんのケアや心臓・血管まわりの体のしくみについて、改めて勉強し直しています。

ICUには、手術を経て回復し、退院していく患者さんもいれば、人工肛門をつくるなど、病気や治療の影響と一生付き合う患者さんもいます。

病気を抱えながらも、“自分らしい生き方”を選べるようサポートできることに大きなやりがいを感じますし、天職だなと思うときもあります。

息子の受験と重なった、難関の「認定看護師」試験

――数年前には、より専門性の高い看護師資格に挑戦されたんですよね。

Aさん:はい。「認定看護師」と言って、特定の分野において熟練した技術と知識を持つ看護師の資格です。

ちょうどその頃、院内に皮膚・排泄ケアの認定看護師が不在で、看護師長が誰かを育成したいと思っていたようで。私自身もこの領域に興味があったので、声をかけられたのをきっかけに挑戦することになりました。

ただ、この時期は息子の大学受験を控えた年でした。認定看護師の教育機関の受験はすごく難しいと聞いていたので、息子の受験と重なるのはタフな選択だとは思ったんです。

ですが、病院側の事情で受験の年が指定されていましたし、私も40歳を超えていたので、このタイミングを逃すともう挑戦できない気がしていました。なので、サポートしてくれる母にも相談し、この年に挑戦することに決めました。 

ーー実際、認定看護師取得までの道のりは大変でしたか?

Aさん:正直、かなり大変でした。人生でいちばん勉強したのはこの時期です。入学後は前期がオンライン学習で、後期は実家から離れた地方都市での集合研修だったので、単身赴任のような生活を送るハードスケジュール。

また、年齢のせいなのか、覚えたことがどんどん抜けていくので、忘れる前に何度も復習しないと講義やテストに追いつけなくて苦しかったです。試験範囲もかなりハイレベルだったので、息ができないくらい勉強しましたね。

――さらに息子さんの受験のサポートとなると、かなり忙しそうです。

Aさん:そうですね。自分に余裕がなかったことや家を離れたために、息子と十分に向き合う時間が取れなかったことは、後悔しています。

「自分が受けたい大学を受けて、納得いかない結果なら浪人すればいい」こんな感じで、ある意味任せきりにしてしまい、今振り返るともう少し一緒に考えて、いろいろな選択肢を見せてあげられたらよかったなと思っています。

その結果、息子はレベルの高い国立大学や私立大を受け、滑り止めを受けていなかったんです。受験期には次々と落ちていって、家の中がかなりピリピリしていました。

浪人も覚悟しましたが、3月後半に奇跡的に繰り上げ合格が決まり、ホッとしましたね。

悩んで決めた道なら、それが正解。 子どもはちゃんと背中を見ている

――離婚や子育てをきっかけに、新しい挑戦を考えている読者にメッセージはありますか?

Aさん:どんな選択でも、自分がたくさん悩んで決めた道なら、正解だと思って突き進んでいいと思います。40代でも50代でも、新しく資格を取って何かを始めている人はたくさんいますから。

学校に通っている間は、子どもをかまってあげられなくて申し訳ないと感じることもあると思います。でも、子どもってちゃんと親の背中を見ているんです。実際、私の息子は医療系の仕事に就きました。看護師となって働く私の選択が、息子にも影響を与えていたのかもしれません。

完璧な親でなくていいと思います。そのときできる、最善を尽くせたらいいのではないでしょうか。

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この記事を書いたのは

やまもとひろな

看護師としてがん専門病院に3年間従事後、「好きなことを好きなだけしてみたい!」と思い立ち、海外留学の後世界一周へ。帰国後はトラベルライターとして活動。現在は、結婚・出産を経て、看護師兼webライターとして働く複業ママ。

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