【絵本作家・ひらぎみつえさん】ユーモアにあふれた子育てアイデアや新作『トンネルくぐるよ くるまくん』の制作秘話をインタビュー

人気の仕掛け絵本を何作も手掛けるひらぎみつえさんが、新刊『トンネルくぐるよ くるまくん』(小学館)を発売します。今回の作品に込めた思いや、絵本作家になったきっかけ、ひらぎさんが考える子育ての楽しみ方などについてお聞きしました。

30歳で「無理してるな」と気づいて、絵本の道へ

――元々は広告制作会社で働いていたそうですね。どのような経緯で絵本作家になったのですか。

子どもの頃から絵を描くのが大好きでした。でも、なぜか「得意じゃないことをできるようにならなきゃ」という気持ちがあって、部活も興味のある美術部ではなく体育会系に入ったり、向いていないと思いながら会社員をやってみたり。自分に足りないところを伸ばそうとしてきたんです。

30歳ぐらいのときに、「無理してるな、自分」と気づいて。好きなことをやったほうがいいんじゃないかと振り返ったら、絵を描くのが大好きだったな、と。実はまだ絵本を1回も作ったことがないのに、「絵本作家になる」と言って会社を辞めました。ちょっと無謀ですよね。でも「これだ」と思ってからは、もう楽しくて。

『トンネルくぐるよ くるまくん』作者の、ひらぎみつえさん

今回の仕掛けは、絵本の真ん中がトンネルに!

――今回発売される『トンネルくぐるよ くるまくん』は、ページをめくるとくるまくんがトンネルをくぐれる仕掛けが楽しい1冊です。(筆者の)子どもたちも、パタパタめくりながら夢中になっていました。この発想は、どこから生まれたのですか。

くるまくんの前に、『トンネルくぐるよ でんしゃくん』を出させていただいたんですが、そのときに「仕掛けは自由に考えてください」と言われたんです。

それまでやったことがあったのは、ページをスライドさせると絵柄が変わる仕掛けでした。立体的なものはあまりやったことがなかったので、立体でやってみたいと思ったこと。それから、絵本をめくるという動作そのものが、エンターテインメントになるものはないかなと考えたことが出発点です。

実際に絵本をいろいろな角度でめくってみたり、パタパタあおいでみたりしているうちに、「これ、ど真ん中に穴をあけたらトンネルになるんじゃない?」「めくると、そのままくぐれるんじゃないかな」と思いつきました。

ページをめくると、くるまくんがトンネルをくぐっていきます

ぜひ隠れたサイドストーリーを見つけて

――子どもたちは仕掛けはもちろん、周りに描かれた車や人もじっくり見ていました。仕掛けのほかにも、小さな子が楽しめる工夫はありますか。

私自身、わかる人にはわかるちょっとしたストーリーを隠して描くのが、すごく好きなんです。「この人は何をやっているのかな」「今こんな会話をしているな」というサイドストーリーが楽しめるようになっています。「この子、ワンちゃんと何かしゃべってるね」と見つけてもらえたらうれしいですね。

今回はくるまくんなので、車が好きな子に楽しんでもらえるように、工事現場の車やパトカーなど、いろいろな働く車を描いています。

2冊を並べると景色がつながる「裏技」も!

――『トンネルくぐるよ でんしゃくん』に続く2冊目で、新しく挑戦したことはありますか。

実は、くるまくんとでんしゃくんを並べると、景色がつながるんです。 2冊を隣に並べていただくと、実はでんしゃくんとくるまくんが、並んで走っていた、という楽しみ方ができるように描いています。もちろん、1冊だけでも楽しめますが、裏技のような感じですね。

並べると、2冊の景色がつながる!

どのくらいの人が気づくかわからないんですけど、例えば、くるまくんのほうに最初にいたピザの配達の人が、でんしゃくんのほうでは少し時間が進んでいて、電車のほうに移動していたり。くるまくんで向こうを向いて「わあ」とやっている子が、でんしゃくんでボール遊びをしている子と一緒に遊んでいたり。「誰がわかるねん」という細かいことを、すごく楽しくやっています(笑)

ピザ配達の人など、細かなイラストのストーリーもつながっています

子どもがページを戻っても止めずに楽しんで

――親子で読むとき、大人はどんなふうに関わればいいですか?

自分でページをめくれる子は、たぶん自分の好きなように没入したいと思うんです。だから、例えば1回めくってまた戻ったりしても、止めないでほしいなと思います。

「こんなふうに読まなきゃ」というのは全然気にしなくていいので、好きなだけこの世界に没入してもらえたらと思っています。

アイデアの種は、自分の「好き」と娘の観察から

――子どもが喜ぶ仕掛けやアイデアは、どのように考えているのですか。

子どもを喜ばせようというよりは、自分が「こういうの好き」と思えるものがないと、最後まで走れないんです。だから普段から、自分が好きなことに気づけるように生活している感じです。

例えば子どもの頃、ピアノの先生のお宅で前の子の練習を待つ間に座っていたソファがありました。そのひじ掛けの木のカーブが、私の指の形にぴったりで、それを触るのが大好きだったんです。

そういう感覚的な楽しさは、特に小さい子に通じるものがあるようです。赤ちゃんは感覚的な心地よさが大好きなので、そこを追求していくと、赤ちゃんと意気投合できるというか。

――ご自身のお子さんから発想することはありますか?

今は中学2年生になった娘が小さいときは、一緒に遊びながら観察をしていました。何も知らないところから、どうやって世界を知っていくのか。自分ではもう覚えていないことなので、「子どもは、こういうことがまだわからないんだ」というのが面白くて。

幼稚園ぐらいのとき、娘に「お母さん、顔に何かついてるよ」と言われて、「どこどこ?」と聞いたら、「ほら見て。」と、こめかみあたりを横からぐっと押してきました。私の右目で私の左目を見させようとしたんです(笑)。「自分の目で自分の顔は見られない」ということがまだわからないんだなと思って面白かったですね。

毛布の下で手を動かした「横着」遊びが絵本に

――実際の経験が生かされている作品はありますか。

『もふもふちゃん』(岩崎書店)がそうです。毛布のもふもふちゃんが「遊ぼう、遊ぼう」とやってきて、かくれんぼをしたり、うさぎさんやぞうさんになったりする絵本ですが、これは私自身が毛布の下で手を動かして、娘と遊んでいたのがヒントになっています。

実を言うと、私が寝転がったまま娘の相手ができるという、横着な遊びだったんです。毛布をかぶって、手をスポンスポンと出すと、娘が捕まえようとする。フェイントをかけると、もう必死で追いかけてくる。その姿がかわいくて。

『もふもふちゃん』著/ひらぎみつえ(岩崎書店)

子育てに疲れている方へオススメの「あそびのあしあーと」

――小さい子を育てていると、疲れていたり余裕がなかったりする保護者も多いと思います。そんな方に伝えたいことはありますか?

子育て中の方へ講演会をさせていただくことも多いのですが、小さなお子さんを育てている方は、追い詰められる瞬間がいっぱいあるなと感じています。

社会から「ちゃんとさせなきゃいけない」という無言の圧を感じてしまうのかもしれません。私はもう乳幼児の子育てを卒業したので、「そんなに気にしなくていいよ」という雰囲気を作るおばちゃんでありたいと、いつも思っています。

保護者の方に私がオススメしているのが「あそびのあしあーと」です。私が個人的にやっていたことなのですが、子どもが遊んだあとのユニークな情景を写真に残すんです。娘は、ぬいぐるみがお菓子の箱にぴったり収まっていたり、ヨガマットに挿して立たせてあったこともあって、子どもながらによく考えたなと。そういうことを観察することで、ふと力を抜いて子育てを客観的に楽しむきっかけになるのではと思います。

ひらぎさんの娘さんの「あそびのあしあーと」。「座らせるとパタンと倒れてしまう構造のぬいぐるみ。ヨガマットにさして安定させるなんて、よく考えたなと思って撮りました」(ひらぎさん)
こちらは「すごいバランスで支え合っていたので思わず写真を撮りました。」とのこと。楽しく遊んだ様子が目に浮かぶよう!

ユーモアや楽しい気持ちを忘れずに、今を楽しんでほしい

――ひらぎさんも追い詰められていたことはありますか?

もちろんあります! 私も、歯磨きを嫌がる子どもにイライラして、歯磨きをあきらめたことがありました。その後は「歯磨きクラブ」のメンバーズカードを作って、歯磨きをしたらはんこを押す方法で乗り越えました。

お風呂に入りたがらなかった時期は、ぬいぐるみをお風呂の前にずらっと行列に並べたこともあります。それで「ちょっとちょっと! 今お風呂がすごい大人気みたいなんだけど、どうする?」と言うと、娘が見に行って「私も!」となって、入ってくれるように。日常にエンターテインメントを組み合わせる感じですね。 私がそういうのを考えるのが好き、というのもあるんですけど。

――素敵なアイデアですね。お風呂も歯磨きも、楽しくなっちゃいますね。

「このやり方でいいのか」余計なにぎやかしに頼らず「やれと言ったらちゃんとやる子にしなきゃいけないんじゃないか」と考えてしまうことはあると思いますが、それも一時のこと。さすがに中学生になってまで、ぬいぐるみを行列させないとお風呂に入らない、なんてことはありません。

「誰も見てないときは、邪道でも楽しいやり方でやっちゃってもいいんじゃない?」と思いますし、そのノリが広まればいいなと思っています。

大変なときがあっても、できる限りユーモアや楽しむ気持ちを持っていると、何年か経ったときに、楽しいことしか覚えていなかったりするものです。「肩の力を抜いて」とはよく言われることだと思いますが、「子どものために」と考えすぎず、自分が楽しいことを、子どもと一緒にやれたらいいんじゃないかと思っています

ひらぎみつえ 小学館 1,430円(税込)

シリーズ第一弾『トンネルくぐるよ でんしゃくん』の発売から1年。待望の第二弾が登場しました!今度の主役はピカピカの黄色い車体がかっこいいくるまくんです。表紙のくるまくんを立てて、ページをめくれば、あら不思議。本当にトンネルや橋をくぐっているように見える、新感覚しかけ絵本です。道路脇には、きれいなお花が咲いていたり、ピクニックをしているお友達がいたり、素敵な景色に心が弾みます。シリーズ第一弾の『トンネルくぐるよでんしゃくん』と並べて読むと、楽しさ2倍!ふたつの絵本の景色がつながり、まるで一緒に走っているかのようです♪

お話をきいたのは

ひらぎみつえ 絵本作家

1977年、石川県金沢市生まれ。東京大学文学部を卒業後、広告制作会社に勤務。30歳頃に絵本作家を目指して退職。きむらゆういちさんの絵本教室で絵本づくりを学ぶ。主な作品に「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」シリーズ(ほるぷ出版)、『ねぞうプロレス』(教育画劇)、『もふもふちゃん』(岩崎書店)、『トンネルくぐるよ でんしゃくん』(小学館)など。中学2年生の娘の母。講演会でも、子育てを楽しむ工夫を伝えている。

この記事を書いたのは

酒井千佳 フリーキャスター、気象予報士、保育士

京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK「おはよう日本」、フジテレビ「Live news イット!」、読売テレビ「ミヤネ屋」などで気象キャスターを務める。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育に携わっている。

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