ひと筋縄ではいかないヒリヒリした人間関係に目が離せない
7月にスタートした夏の連続ドラマもそろそろ最終回へ。その中でハッピーな恋愛ドラマではないにも関わらず、「登場人物がイタくてヒリヒリする」「リアルで先が読めない」とドラマ好きの人の間で評判を呼んでいる「凪のお暇」(TBS系)。これまでは主人公の凪(黒木華)が、周囲の“空気を読まなければ”成立しない生活に疲れ、会社を辞め交際相手からも逃げて東京郊外の街で人生をリセットしようとする姿が描かれてきました。最終回まで残すところあと2回の放送で、原作コミックにはない展開になるというクライマックス。注目すべきポイントはどこでしょうか?
誰でも一度は経験がある!? 家族、彼、同僚からのモラハラ、マウントの連続に共感
ひと筋縄ではいかない人間関係が描かれるこのドラマ。そもそも凪が周囲の人間の顔色ばかりうかがう性格になったのは、子どもの頃から母親の夕(片平なぎさ)に厳しくしつられてきたからでした。北海道でひとり暮らしをする夕は、何かにつけて凪にプレッシャーをかけ、良い会社で働くこと、条件の良い相手と結婚することを要求してきます。もともと天然パーマの凪が髪型をもじゃもじゃのままにしていると「みっともない頭」と嫌がります。凪は、凪のままではたったひとりの母親にすら愛されない人生を歩んできたのでした。また、凪の元カレの慎二(高橋一生)は凪を見下すモラハラ男であり、実は凪に固執するストーカー気質の面も。凪の暮らすアパートまでたびたび訪ねてくるようになり、何かと言えば「お前は絶対に変われないよ」と呪いの言葉を吐く彼に凪は翻弄されてきました。強い相手に支配され、ついつい利用されてしまう女。それが凪だったのです。
その一方、凪が暮らし始めたボロアパートの住民は、お金はなくても他人に何かを押し付けることなく、自由に暮らしている人ばかり。そこで“空気が吸える”ようになった凪は、一時の感情に流されて隣室に住む優しいゴン(中村倫也)と関係してしまいましたが、彼はひとりの女性だけと付き合うことができない男だと知って距離を置くことに。
そして、第8話では、会社では営業のエースで器用に立ち回っているように見えた慎二も、実は世間体を取り繕うばかりの家庭で育ち、毒親のせいで“空気を読む”ことに固執してきたことを告白しました。凪にダメ出ししてきた慎二も、実は凪と似たような過去を抱えていたのです。
「子どもって学習するよな。母親に笑ってもらうためには、何言ったらいいかって。んで、空気読んで。相手にとって都合のいい酸素になって、んで、いつのまにか自分が消える」そう言って慎二が凪に共感を示す場面が印象的でした。
予期せぬタイトルマッチに、あえなく惨敗の凪
北海道襲った台風により、壊れた実家の様子を見に行くことになり、思いがけず母と会う日(タイトルマッチ)が早まった凪。母にリフォーム資金を出すように言われますが、友人の龍子 (市川実日子)と共に、コインランドリーを経営するために使おうと思った貯金は出せないといったんは断ります。しかし、そこで理解を示すふりをし「お母さんはあちこちに頭を下げるから大丈夫。凪の幸せはお母さんの幸せよ」と言う夕に、凪は耐えられず龍子を裏切って70万円ものお金を母親の口座に振り込んでしまいます。
Twitterに投稿された感想などを読むと、このくだりが毒親を持つ人にとってはかなりリアルだそう。理屈では親の言うことを聞かなくていいと分かっていても、自分の味方になってくれる人がいても、なかなかその呪縛から逃れられない。それが毒親というものらしいのです。
片平なぎさ演じる毒母が怖い! 追い詰められる凪にとってのハッピーエンドとは?
母・夕からのプレッシャーに抗えず、友人を裏切ってまでお金を用立ててしまった凪。さらに夕は東京のアパートにまで乗り込んできて、凪をかばおうとした慎二は「凪さんと結婚する」という嘘をついてしまいました。すかさず慎二の両親との顔合わせを迫る夕に、凪はまたしても追い詰められます。プレ最終回となる第9話(9/13放送)で凪はアパートの住人たちから「いっそ本当に結婚しちゃえば?」と煽られ、「慎二と結婚?」とちょっとその気になっている様子。しかし、それは本当に凪の望んでいることなのでしょうか? 一方、凪を本気で好きだという自分の気持ちに気づいたゴンも、全力でアプローチしてくるようです。
もし、嘘をついたまま慎二と結婚するなら、2人とも親の呪縛からは逃れられません。かと言って、凪がクラブイベントのオーガナイザーであるゴンと結ばれるなら、世間体を気にする夕が許すはずもないのです。そして、何より凪は慎二についてもゴンに対しても一度は完全に失望していて、今では心から好きだとは思えないはず。一見、凪は三角関係の中心にいてモテモテの状態ですが、理想的な恋人や結婚相手かと考えてみると、慎二もゴンも失格なのです。
ずっと“空気を読む”ことに苦しんできた凪にとってのハッピーエンドとは、男性と結ばれることではなく、いっそ誰とも付き合わずに、母親との連絡も断って、ひとりで自由に生きることかもしれません。いったいどんな結末になるのか。現実社会で大なり小なり親や男性の存在に影響を受ける私たち、女性にとって、ここから最終回までの2話は見逃せないものになりそうです。
ドラマ「凪のお暇」
TBS系列 金曜夜10時から放送
文/小田慶子