定期テストも宿題も「やめた」公立中学校、保護者の反応は?【後編】

テストのために集中して一夜漬けするような「勉強」は、そもそも勉強ではない。そんな考えから宿題や中間・期末テストをやめてしまった金沢市立西南部中学校。大胆な改革をメディアは大きく取り上げ、高島校長に対しては保護者から反対の声も上がりました。後編では、改革実現までの足跡を追います。

前編

AIの時代を生き抜く子どもを育てるために、定期テストも宿題も「やめた」金沢市の公立中学校【前編】
どうして学校には宿題や定期テストがあるのでしょうか。「そんなの、あるに決まっているじゃない」と思うかもしれません。しかし、その「当たり前」は...

学びを深める様々な工夫とは

前編では改革の大まかな方向性を紹介しましたが、西南部中学校は具体的に何をやめ、一方で何を行ってきたのでしょうか。

1,週2回、教科ごとの単元テストを行う

そもそも西南部中学校は、テストや宿題を「なくす」といっても、本当にきれいさっぱりなくしているわけではありません。

範囲の広い中間・期末テストをやめて、ほぼ毎週火曜と金曜日の1限目に20分間、教科ごとに行う単元テスト(小テスト)に切り替えただけ。習った内容の理解を、その都度単元ごとに確かめる試験に方向転換したのですね。

「単元テストはテストという認識が低い。子ども自身、単元テストがいつあるか把握していない」といった意見もあると聞いていますが、この指摘には、まさに改革の狙いが込められています。テストのおぜん立てを学校側がするだけでは、子どもたちがどんどん受け身に、人任せになっていくからですね。

「テストが簡単になった」という意見もあります。しかし、無意味に暗記力を試す、役に立たない難問は、そもそも意味がないという立場に学校側は立っています。

なぜなら、各都道府県が出している公立高校のテスト方針にも書かれている通り、これからの高校入試は無意味な暗記競争ではなく、物事の深い理解、考える力、決める力、伝える力を確かめる内容にどんどん変わっていくからですね。

2 宿題をやるかやらないかは、子ども自身が決める

宿題についても、完全になくしたわけではありません。生徒全員に同じ問題を同じ日までに同じ量だけ提出させるという出し方をやめただけ。

ワークなら幾つか種類が用意され、自分のレベルにあった宿題をやってもいいし、やらなくてもいい、子どもが選べるようになっています。

分かっている部分と分からない部分が全く違う子どもたちに、全く同じ宿題を全く同じ量だけ全く同じ日までにやらせても意味がないからですね。

3、自分で「Pノート」を使って予定を管理する

生徒が自ら学びを深めるための姿勢を育てるスケジュール帳(Pノート)

定期テストと宿題を「なくす」一方で、学びを深める工夫も西南部中学校は行っています。

例えば休み時間と授業の切り替えがうまくいくように「集中の鐘(チャイムの一種)」を鳴らしたり、授業の理解が深まるように新しいノートを配って上手なノートの取り方を示したり。

「Pノート」(スケジュール帳みたいなノート)を生徒に配って、自分で普段の予定を管理させたりもしています。自分の人生を自分で計画し、その通りに動く練習を、中学校のうちから始めさせているのですね。

4,学期ごとに1回、年3回の実力テストで進度を確かめる

中間・期末テストをなくした一方で、学期ごとに1回、年3回の実力テストを全学年に受けさせ、周りと自分の学びの深さを比べる機会を用意しています。

「(定期テストがなくなり)順位が出なくなり、他の子どもと比べられない」という意見に対しては、学校側も実力テストの機会を用意しているのですね。

「受験対策は大丈夫なのか?」という保護者の質問に対しては、

「普段コツコツと分かるように理解して、単元テストを全部100点取れるような状態にしておけば、3年生になってから多少の対策をするだけで入試にも十分に間に合います」

と、高島校長は考えます。

「単元テストの時間は20分。高校の入学試験は50分。その時間に差がない方がいいのではないか」などの声もありますが、学校側は3年生に対して、学校外の会社が作った広い範囲のテストを受ける(腕試しをする)チャンス(入試準備テスト)も用意しています。

3年生が受ける入試準備テスト、全学年が1学期に1回受ける実力テストは50分。入試の時間配分に慣れるという部分にも、きちんと配慮はされています。

保護者と一緒に子ども達のよりよい未来を作りたい

こうした学びの仕組みを、西南部中学校は2018年の末から2019年の4月にかけて、段階的に整えてきました。その間に年2回行われるスクールフォーラム(学校説明会)や『校長だより』では、改革に関する情報を通知してきたと言います。しかし、今となって振り返ると、改革の内容以前に、情報発信のやり方に、至らない部分があったと分かります。

西南部中学校では授業参観、PTA総会の後にスクールフォーラムが行われます。授業参観で帰ってしまう(授業参観しか出られない)親も当然多く、『校長だより』にしても、かばんの中でぐちゃぐちゃになったまま、どこかになくなってしまうケースも多いはずです。

「男の子に多いのですが、学校からのお便りを親にきちんと渡す子も少ない気がします」という声も実際に筆者は保護者から聞きました。

その結果、学びを変える狙いや理由が十分に伝わらないまま、テストを「やめる」といった驚きのニュースだけが伝わり、「え、聞いていなんだけど」と感じる親が出てきてしまったのですね。

繰り返し説明の場を設け、夜しか来られない保護者にも対応

親からすれば、子どもは分身のような存在。子どもの将来を左右する変化には、不安を感じても仕方がありません。子どもを育てる筆者も、その気持ちはよく分かります。

「困った状況を作った校長と教頭は許せない」という気持ちになる、そんな親心は自然な感情の表れだと思います。一度そういった気持ちになると、人は学校側の説明の言葉が真っすぐ心に届かなくなってしまいます。前向きな話し合いもできなくなります。

だからこそ、説明が足りなかったという点に関しては学校側も素直に反省し、今では説明の場を繰り返し設け始めているのですね。

校長と二人三脚で改革を進める田村教頭は、

「この前の10月15日に全校集会があって、子どもたちには当校の取り組みに関するNHKのテレビ放送を見てもらいました。放送を見ていない子どもが多かったので、自分たちの取り組みにはどのような意義があるのか、理解してもらいたかったからです」

と語ります。

「11月5日には授業参観がありますので、その後に開催される15時からの40分間のスクールフォーラムでも、保護者に対して説明をさせていただきたいと思っております。同じ週の金曜日には、夜から同じような会を予定しています。働いていて普段はスクールフォーラムに参加できないような人にも、来てもらえないかと思っています。全校集会が行われた日の夜も、PTAの実行委員会にNHKの放送を見せて、大学入試改革も含め、今後の社会の変化を見据えた改革を行っているとお話をしました」(高島校長)

こうした取り組みの結果、雰囲気が良くなってきた、先生たちの努力に理解とサポートの姿勢を見せてくれる親も目立ってきたと言います。

西南部中学校の教えは、ナラティブをベースとした学校。ナラティブとは「物語」とか「語り」という意味になります。自分と相手がどのような背景(物語)の中で育ってきたのか、言葉を交わし心を通わせて理解し、より良い未来を一緒に作っていくという意味になります。

「保護者にも不安な気持ちがあるという事実を少しでも取り上げてもらえるなら、今後同じような改革をする学校が出てきたときに何かの参考になるなら、そんな気持ちでお答えしました」と筆者に、保護者側の気持ちを代表して教えてくれた人も居ました。

どちらにも、言い分があります。言い分は物語とも言えるかもしれません。学校と親がお互いの言い分を大切にし合える関係に戻るためには、まさに学校の教えである、ナラティブの実践が求められているのかもしれませんね。

自分の頭で考えながら学びを深め、社会に貢献できる大人に

西南部中学校の廊下

いろいろな声が聞こえてくる中で、前を向いて改革を続ける高島校長には、最終的にどういった西南部中学校の未来が見えているのでしょうか。

「授業を自分で考える学びに切り替え、学校の理念を支える読書の機会、全員道徳の授業も充実させていけば、結果は出ると思っています。ただ、この場合の結果とは、必ずしも名門高校への進学率だとか、学力調査の平均点だとかいった数字だけではないと思います」

「教育活動における結果とは、生徒が30年後にどのような大人になり、社会に貢献できるようになったか、幸せな人生を送れるようになったかという点に尽きます。もちろん、目の前には受験を控えた子どもも居るし、それなりの準備も用意していますが、学校が楽しくてしょうがない、学びが楽しいという子どもの気持ちを大切にしたいと思います」

このような学校の話を聞くと、「定期テストも、宿題もないなんて、いいな」と思う中学生も居るかもしれません。

ただ、定期テストも宿題も「ない」という意味は、裏を返せば学校の授業に自分から耳を傾け、自分の頭で考えながら、自分で学びを深めていく前向きな姿勢が大切になってきます。今までのように学校から出される課題や宿題を先生の言う通りにこなし、テスト前だけ勉強して、頭に詰め込んだ重要単語を答案用紙に書けばいいという話ではなくなります。

ただ、遅かれ早かれ大人になったら、誰もが自分の頭で考えなければならない世の中が待っています。早いうちから少しずつ練習ができる西南部中学校の生徒は、率直にうらやましいなと、大人の筆者は思います。

余談ですが、1時間ほど話を聞き終えて高島校長、田村教頭と校長室から出ると、廊下で生徒たちが掃除をしていました。学校の玄関まで3人で歩く間にも、校長らと子どもたちの気さくな会話がはじまります。校長・教頭と生徒の距離感の近さに驚きましたが、一方でその子どもたちと接する姿を見ていると、「いい学校を作りたい」と願う先生たちの気持ちは、一点の疑いもなく本物なのだろうなと感じました。

文・写真/坂本正敬

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